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4 朝 教室

 三階にある一年二組の教室に向かう。

 中央後ろから二番目の席、俺の机の上には、騎士ガン●ムのプラモが鎮座していた。拾い上げて即座にゴミ箱にぶち込んで、席に戻る。


「よう、お勤めご苦労さん」


 失敗したツーブロック頭がスマホ片手に近づいてきた。

 名前は桂忠彦かつらただひこ。戦国武将だか幕末の志士だかよくわからん名前だが、年中スマホを触っているので俺はスマ彦と呼んでいる。


「今オレの力作ゴミ箱に捨てただろ」

「俺の机にプラモ置いてたのお前かよ?」

「二週間近く空席だとさみしいだろ?」  


 こいつは親切心でいじめをしそうなサイコパス野郎だ。

 バカなだけで悪気はないので許してやることにする。


「いやぁ、さっき廊下で姫とすれ違ったんだけど。やっぱ光り輝いてるよなぁ。オーラが違う」


 姫、というのはもちろんタチバナミキのことだろう。何とも言えない気分になる。

 スマ彦は俺の表情からなにか察したのか、

 

「なにしかめっ面してんだよ、今日まで辛かったかそうか。しょうがねえな、これでも見て元気出せ」

 

 スマホを操作して画面を見せてくる。

 映っていたのはかのお姫様の写真だった。どこぞの街並みを背に、あさっての方へ向かって笑顔で手を振っている。

 

「なんだこれ、なんの写真?」

「誰かがミンスタで発掘したらしいぜ。今はもうアカウント消えてるらしくて見れなくなってる」

「なんで持ってんだよ?」

「グルチャで回ってきたんよ。やばくね? この美少女感」


 写真が出回っているらしい。

 今と違う制服を身につけているところを見るに、中学時代の写真か。 


「それとお前これ見たことある? テレビに出てインタビュー受けてたときのやつ。ネットのまとめサイトとかにものってんだよ。すげえ美少女とかって」

 

 また別の写真、というか画像を見せてきた。

 どういう状況かしらないが「イケメンよりも強くて優しい人がいい」とかいうテロップがついている。 

 初めて見た。これはわりと最近のようだ。公共の電波に乗っているらしい。さすがに名前までは出ていないようだが。


 しかしどうにも違和感がある。別人とまでは言わないが、なにかが違う気がする。醸し出すオーラというか雰囲気というか。

 なんにせよ思った以上に人気者らしい。ふと浮かんだ疑問をたずねてみる。

    

「この人ってやたら人気だけど、特定の相手とかいないわけ? 王子様は」

「それがマジでないんだよ。ちょいちょい玉砕しているやつはいるけどさ。ライバルの数も尋常じゃないし、取り巻き同士ギスギスしてるし、かなり不穏」

「そういやバスケ部のキャプテンと副キャプテンがバトったみたいな話あったな」

「そのうち襲われたりしないか、心配で心配で。もう捕まって人生終わってもいいから……という輩が出てこないかとかね」

「さすがにそれはないだろ。そういうこと想像するお前の思考回路のほうが怖いわ」

 

 昨日からの一連の出来事のこと、言うかどうか一瞬迷った。けどやめた。

 口止めされているからというわけではないが、口にしたところで俺になんの益もない。それどころか、余計にことを荒立てるだけだ。こいつに言ったらあっという間に噂は出回るだろう。

 

「彼女、相当理想が高いっぽいけどな。まぁ、あれに見合う相手となるとなかなか……。なんにせよお前はないから安心しろ騎士くん」


 スマ彦がスマホをいじりながら去っていく。

 あいつを抜かすと、このクラスには俺に話しかけてくるような輩はいない。若干浮いているというか腫れ物扱いされているだけに。


 椅子に背をもたれて大きく伸びをする。席の間を前から歩いてきた女子と目があった。にっこり微笑みかけると、向こうは軽く会釈をして慌てて席に座った。今のは完全に俺に惚れている。んなわけない。

 

 誰にも相手してもらえなさそうなので、俺はスマ彦に負けじとスマホを取り出して触る。

 通知も何もない。ふと思い出してLineアプリを立ち上げ、昨日新しく追加された連絡先を確認する。


 アカウント名はミッキー。アイコンもミッ●ーさんの顔どアップ。

 ……絶対捨て垢だろこれ。


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