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学園の姫を助けたつもりが病んだ双子の妹に責任を取らされるはめになった  作者: 荒三水


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35 タチバナ宅 夜

「はぁ……」


 それからしばらくしたのち、俺はタチバナ宅リビングのソファでうなだれていた。

 大窓からはカーテン越しにオレンジ色の日が差し込んでいる。目の前の大きなテレビでは、夕方のニュースが垂れ流しになっていた。


「そんなため息つかないでよ」


 右隣に座ったミキが、俺の肩を優しく叩きながら苦笑する。

 

「そうそう、別にそんな……ねえ?」


 左隣のユキがぎこちなく笑う。それに答える形でミキが言う。


「おかげで私……ちょっと自信ついたかも」

「ほら、ミキもこう言ってるし。ナイトくんも自信ついたんじゃない?」

「いやなんの自信だよ」


 ここは突っ込まざるを得ない。

 ミキ理論によれば、今ごろ俺はこんな首をうなだれることもなく自信満々のはずだ。

 

「でも、やっぱりユキは度胸あるなって」

「ミキもよかったと思うよ。丁寧で」

「何をお互い褒め称えてんだよ。なにで仲直りしてんだよ」


 二人がお互いの顔を見てうなずきあう。

 共通の敵に立ち向かうことで、仲間意識を取り戻したらしい。バトル漫画ばりの王道パターン。仲を修復しようといろいろと気を回したのがアホらしくなってくる。


「でも、思ったよりすぐだった……」

「ちょっと拍子抜けだったよね」

「君たちさあ……」


 けどまあなんにせよ、二人の仲がある程度は戻ったようでよかった。終わり良ければすべて良し。

 ……そんなわけあるか。今後ネタにされ続けるやつだろこれ。


「ナイトくん、ついでだから今日泊まっていきなよ」

「うんうん、それがいいね」


 両サイドが俺をスルーし、阿吽の呼吸で話を進めていく。

 もはや逆らう気力もない。もうこうなったらどうとでもなれだ。


「腹減った」

「はいはい、今用意するからね」

「いい子にして待ってるんだよ~」


 かわるがわる人の頭を撫でて立ち上がる。なぜか子供扱い。

 キッチンに向かう後ろ姿は、かたほうが下着のようなパジャマのような薄着。もうかたほうがタイトな薄手のTシャツにショートパンツ。ふたりとも素足でペタペタ床を歩いている。正直その格好はどうにかしてほしい。

 

「私が用意してたんだから、いいよユキは!」

「それだけじゃ足りないでしょ!」


 しばらくすると、キッチンから言い合いをする声が聞こえてくる。早くも仲間割れか。もはや仲裁に入る気力もない。 

 ソファに横たわると、ぐったりとクッションに頭をあずける。何かが下敷きになっているのに気づいて引っ張り出すと、クッションの下からブラジャーが出てきた。


「はい、お待たせ」


 ミキがお盆を手に戻ってきた。 

 ブラをつまみ上げている姿を見られる。ぽかんとした顔に先んじて言う。


「クッションの下から出てきたんだが?」

「ああ、それユキのじゃ?」

「ミキのでしょ」


 背後から現れたユキがテーブルに皿をおいた。盛られたポテトと小さめのピザが乗っている。

 ミキが俺の前に出してきた料理……は弁当を温めただけらしかった。重箱風の容器に入ったうな重だ。

 

「今日家でごはん食べるかと思って、用意しておいたの」

「それはいいんだけど、なんでうな重?」

「きらい?」

「いや嫌いではないけども……」


 もはや何も言うまい。

 ミキより先に隣に座ったユキが、箸を取りながら言う。


「じゃあ、あーんしてあげるね」

「自分で食うわ」


 もちろん手錠はすでに外されていて自分で食べられる。

 俺はユキから箸を奪い取ると、弁当を片手に一気にかきこむ。


「あーあ。手錠外さなきゃよかったかな」

「またつける? 急に襲われたら怖いし」

「いいかも。でも襲われるのも捨てがたい」


 恐ろしい会話が聞こえてくる。襲われそうで怖いのはこっちだ。

 おのおの晩飯らしきものをとり始める。出てきたものは見るからに冷凍食品。

 ミキがスマホ片手に食べているパスタもそれっぽい。ユキにいたっては適当にポテトをつまんだあとチョコ菓子をぼりぼり食べ始めた。


「それ晩飯? 足りんの?」

「ユキは偏食だから。ママが見てないとちゃんと食べないんだから」

「はー? 自分だって魚とか食べられないくせに」

「あーはいはいわかったわかった仲良く食べようね」

 

 仲裁に入る。ちょっと火種を与えるとすぐ燃える。

 いろいろ出してきたわりにふたりともあまり手を付けないので、ほとんど俺が平らげた。 

 食後、ユキとミキはお互いスマホいじりタイムに突入。俺はでかいテレビに感心しながら適当にチャンネルをいじる。

 ……はいいのだが、ずっと俺を挟むようにして両側に座られると、息がつまる。

 そして微妙に距離が近い。スマホの画面がのぞけてしまうぐらいには。


「見てー。このスコアやばくない?」


 せわしなく指を動かしていたユキが画面を見せてくる。よく見かけるパズルゲームのスコアが表示されているが、やばいかどうかはよくわからない。

 一方でミキは黙々と画面をスライドし、流れてくる画像やイラストにハートをつけて回っていた。慣れた手付き。


「あれ、ここんちSNS禁止とかっていってなかったっけ?」

「これは見てるだけだから」


 ミキはなんともなしに言う。すかさずユキが身を乗り出していって、


「はいミキアウトー。ママに言うー」

「なんでよ、投稿とかしてないでしょ」


 また口喧嘩を始める。多少は仲が戻ったと思ったがきりがない。

 ユキはぶつくさ文句を言いながらも、スマホを置いて立ち上がった。シャツの裾からへそが見えるのも構わず大きく伸びをすると、


「さてと。じゃ、ナイトくん一緒にお風呂入ろっか」

「バカを言え」


 よからぬことを言い出しそうな予感はしていた。すばやく突っ返す。

 なぜかミキが白い目で俺を見る。いや拒否ったんだが。とっさに思いついて口にする。


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