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23 放課後3

 俺はチャリで家に帰る。ユキは電車で家に向かう。

 駅までは送ってやろうかと思っていたが……いやそういう話ですらない。わけがわからず敬語になってしまう。

 

「どういうことですか?」

「だってほらお昼休みのとき、お泊りデートしよって言ったよね? 昨日ノーカンにするかわりに」

「はあ? おとまり? 言ってないが?」

「言ったよ? ……おとまりデートしよって」


 ユキはおとまり、の部分を超小声の早口で言った。

 昼にもそうやって言ったのかもしれないが、だからといってそんなものが通るわけがない。


「いやマジでなにいってんのあんた」

「大丈夫だよ? 着替えとかちゃんと用意してきてあるから」

「え、それでそのリュック? もとからその気かよ」

「別にいいじゃん明日休みだし」

「そういう問題じゃないだろ。なんでいきなり泊まるとか言ってんの?」

「ん~……じゃあご休憩でもいいよご休憩」

「なんで『ご』をつけるかな」


 自転車でぶっちぎるのも考えたが、どちらにせよ家は知られている。いっそのこと交番にでも突き出すか。いやめんどくさすぎる。


「ユキちゃんいい子だから帰りましょうね」

「やだまだかえりたくない~。ちょっと寄るぐらいいいでしょ」


 子供か。まあ実際子供か。

 しかしなぜ俺が保護者みたいな真似をしないといけないのか。どちらかというと俺は無茶する側の人間のつもりだ。なんだか考えるのもアホらしくなってきた。


「知らんからなまじで」

 

 不機嫌そうな態度を出していけば気が変わるかもしれない。

 ペースを無視して足早に自転車を押していく。しかしユキはちょくちょく小走りになりながらもついてくる。


「あ~この道暗いな~帰りはもう真っ暗で怖いだろうな~」

「ナイトくんおばけ怖いの~? うふふかわいい」


 全然効いてない。

 押してダメなら引いてみる。満足させてやれば帰るかも。

 

「今日はなんだかんだで、まあまあ楽しかったよ」

「いえいえこちらこそどういたしまして~」

「で、帰れよ」


 真顔で言う。ユキは無言の笑顔で跳ね返してくる。無敵バリア。

 そんなことを繰り返しているうちに、家に到着してしまった。俺より先に階段を上がっていったユキは、俺が鍵を開けるのを部屋の前で待ち構える。扉を開けるなり、我先に入っていった。

 

「ただいま~」

「なにがただいまだよお前のうちじゃねえよ」


 ユキは迷いのない足取りで通路を抜ける。リュックを下ろすと、勝手に座布団に腰を落ち着けてしまった。

 

「なんかここ気に入っちゃった。落ち着く~」


 テーブルの上に上半身をべたっと突っ伏しながら言う。

 いろいろ言いたいことはあったがもはや言うまい。俺はテーブルの反対側に腰を下ろすと、カバンから学校用のタブレットを取り出した。ユキがあきれたようにいう。


「えーこの状況でまた勉強始めるとか……」

「宿題多くねこの学校。数学とか毎回けっこうな量出してくんだけど」

「それ先生が悪いんじゃない? 数学だれ? 柏木?」

「いや、木下ってやつ。けどまあ、テストも近いしな」

「学校のテストなんて、そんな難しくないじゃん」

「そう? 高校になってから急にむずくなったぞ」


 勉強内容もそうだが、テストも間違いなく厳しい。特に数学は満点を取るまで居残りで再テストみたいなこともやらされる。ユキがそうでもない、という顔をしているのが不思議だ。 


「ナイトくんのテストの成績はどんぐらい?」

「まあ一応、全教科平均点ぐらいは取ってる」

「えっ……ナイトくん? 偉そうに言ってるけど、それってあんまりよくはないよね?」

「そういう自分は?」

「わたしテストで平均点以下とか取ったことないけど」

「……まじです?」

「まじです」


 これだけ頭がゆるそうなのにお勉強はできるのか。納得いかない。もちろん口にしたらキレられるので心の内でとどめておく。

 それに俺も俺で、自覚がないわけではない。根本的に、頭より体を使うほうが得意だ。コンビニの仕事は覚えが早いと言われたが、これ系はどうも苦手。


「……わかってるよ。こういう知識詰め込む系が苦手っていうのは。だからそのぶんやらないといけないわけ」 

「えーでもそれってさ、ぜったい勉強のやり方が悪いんだよ。じゃあわたしが家庭教師してあげようか?」

「結構です」


 丁重にお断りしてタブレットを起動する。すぐにふてくされた声がした。

 

「えーつまんなーい。それさー別に明日までじゃないでしょ? 今やらなくてもいいじゃん」

「はあ? じゃあ今なにすんだよ」

「なにってそれは……イチャイチャ?」

「お帰りください」


 きっちりつっぱねて、テーブルに視線を落とす。ユキはしばらくグチグチ言っていたが、


「あーもういい。もう疲れたから寝る」


 などといって座布団を枕にして横になった。

 とりあえず視界からはいなくなったので、やっと集中できる。俺は宿題に取りかかった。



 宿題が一区切りして、顔を上げる。

 目に入ってきた小型の卓上時計は、八時をすぎたころだった。

 部屋はすっかり静かになっていた。ユキはしばらくブツブツ言っていたが、いつしかそれもなくなった。


 身を乗り出して、テーブルの反対をのぞきこむ。

 寝転がってスマホでもいじっているのかと思いきや、ユキは目を閉じて眠っていた。もちろん制服のまま。カーペットの上で痛くないのか。

 なんにせよ、いい加減時間も時間だ。帰さねば。


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