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第97話 足がかりさえあれば十分

「それで?貴方は買収によってどんな情報を得たのですか」


「近々大きな事が起こる、と。そう言われただけだ。そしてその後すぐ、コーガス侯爵家が没落した」


「近々大きな事が起こる、ですか……」


タイミング的に、コーガス侯爵家と関わっていると考えて間違いないだろう。

情報が遠回りなのは、アブリス侯爵家の情報をハッキリと明示する事を、情報元の人物が避けたためだと思われる。


「……」


その程度の不確かな情報で、救済が与えられるとでも?

他の相手ならそう口にするところだが、テライル程の人物ならそれは理解できているはず。


つまり、まだ先があるという事だ。

切り札となるであろう、話の続きが。


「その時は、だがね」


「その後に何か?」


「4年前。その情報元だった執事が、アブリス侯爵家を解雇されている。旦那亡き現当主の母親と、深い仲になったためだ」


「醜聞ですね」


漫画なんかだと、令嬢と執事の恋を美しく描かれている様な物が多かったりする。

が、貴族からすればそれは醜聞以外の何物でもない。

普通なら引きはがされるし、執事側は間違いなく解雇されてしまうだろう。


この場合は令嬢ではないが、まあ似たようなものである。


因みに、コーガス侯爵家はその辺りには寛容だ。

立場で差別などしない正義の家だったからな。

でなければ、何処の出かもわからない俺なんかを養子に迎え入れてくれたりはしなかっただろう。


「ああ。醜聞だ。だからばっさり首を切られている」


物理的じゃないだけ温情と言えなくもない。

冗談抜きで、執事程度が大貴族を怒らせればそうなっても不思議ではないからな。

長年勤めていた部分を考慮しての、甘めの裁定と言った所だろう。


「それで?」


「その男も、長年侯爵家に仕えていた男だ。一般人から見れば、食うに困らないだけの貯えがあった訳だが……どうも嫁さんに、多くを巻き上げられる形で離婚されたらしくてな」


配偶者がいたのか。

侯爵家当主の母親に手を出して、仕事を首になったら離婚されるのも当然ではある。


「それでも食うには困らん状態だったが、そいつは質の落ちた生活が我慢ならなかった様だ。再就職先を探そうとしていた。同じような職種で」


「無茶な話ですね」


30年前の情報元なら、そこそこ高齢のはず。

しかも問題を起こして侯爵家から放り出された様な人間を、使用人として雇おうなんて奇特な貴族はいないだろう。


「ああ。見つかる訳もない。だが30年以上も侯爵家で働いていたプライドがあったんだろう、諦める事無く色んな伝手を巡るうちに……私の元に辿り着いたという訳だ」


テライルの元にいる。

それも30年前の情報を持つ者が。

成程、切り札としては申し分ない。


「その男を、貴方が雇ったという訳ですか」


「そうだ。信義のおけない人物だったが、能力だけは高かったからな。侯爵家に執事として長らく働いていただけあって」


信義ね。

どの口が言うのやら。


今すぐその口を引き裂いてやりたい衝動に駆られるが、俺はそれをぐっと堪えた。


「その際、私は奴の知る侯爵家の情報を全て手に入れさせて貰っている。何かの役に立つかと思ってね。当然その中には、30年前のコーガス侯爵家に関わる情報もあった」


商人にとって情報は命だ。

集めておいて損はない。

だから、役に立つかどうかわからなくとも引き出しておいたのだろう。


「それで?」


「アブリス侯爵家。そしてそれ以外にも多くの貴族が関わっていた様だ。しかも……どうやら、発起人は侯爵家よりも立場が上の者がだったらしい」


「侯爵家より上……誰が一体?」


「残念ながら、それが誰かまでは知らない様だ」


「ふむ……」


この国で、侯爵家よりも立場が上なのは王族のみだ。

なので普通に考えれば王族、もしくは、王家その物が関わっていたと考えるべきだろう。


但し、それはあくまでも国内に限って言えばの話である。


勇者を輩出したコーガス侯爵家は、世界に名だたる大貴族だった。

その名声や存在感を国外の人間が妬み、攻撃して来た可能性も無くはない。


なので他国の王族。

それに爵位が上にあたる公爵家。

更に言うなら、アビーレ教会の法王などの――かなり大きな権力を持っている――可能性も十分考えられる。


「その男の言葉を裏付ける明確な証拠は……まあないんでしょうね」


公爵家も、流石にそれを許す程間抜けではないだろう。


「流石にそれはない。だが……お前さん達には、そんな物は必要ないんだろう?」


その通り。

限りなく黒に近い事さえ分っていればそれでいい。

足がかりさえあるならば、どうとでも出来る。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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