第80話 最終的には……
「聖女タケコ様が、王子の保護をコーガス侯爵家に求めたのですか?」
「はい。以前公王陛下の治療のため、聖女様が公国へ訪れたのはご存じですね?」
「ええ、それはもちろん知っています」
「その際、第三王子と大変親しくなったそうで。まあ今思えば……それ自体、公王陛下の思惑だったのかもしれませんが。何かあった時、助力を得るためにと」
――俺は公王の意思に沿ったものであるかの様に、それっぽく言う。
まあだがこれは、決して口から出まかせって訳ではない。
立場の弱かった第三王子に跡を継がせるため、公王は動いていた。
その一環として、自身の治療すら聖女との関係構築の場として利用していた可能性は高い。
その能力から引く手数多となっている聖女――今現在、ひっきりなしに各国の貴族等から手紙が届いている――と懇意にしているとなれば、他の王子達も手出しがしにくくなる訳だからな。
俺が公王の立場なら確実にやる。
……まあ結局、それも無駄に終わった訳だが。
いや、此方の名分になってくれたのだから完全に無駄って事はないか。
「まあ公王陛下の意図はこの際置いておきましょう。ローラ様は御存じかと思われますが、コーガス侯爵家は聖女タケコ様に大きな借りがございます」
聖女が解呪した事で、コーガス侯爵家は広大な領地――旧魔王領の面積は、王国の1割近くあった――を真面な土地として得た事になっている。
今はまだ利益に直結こそしていないが、長い目で見て、後々その結果が齎す恩恵は計り知れないと言っていいだろう。
普通の貴族なら、末代まで聖女を称えてもいいレベルだ。
「そして当家は、受けた恩は必ず返す誇り高き家門。ですので聖女様が第三王子を守りたいと願うのならば、それを全力で支援する所存でございます」
「なるほど。タケルさんが私達の前に現れた理由は分かりました」
丸々鵜呑みにした訳ではないだろうが、最低限筋の通っている話にローラが表面上は納得を示した。
「ですが……急にコーガス侯爵領で保護されたいと申されましても。正直困ると言うのが本音です」
これは当然の返答だ。
どこまで信用していいのか分からない相手に、じゃあ第三王子をお願いしますとはならない。
ましてやこの場にいる面子に、それを決めるだけの権限もない訳だしな。
だから今はそれでいい。
現状は交渉の導入段階でしかないので、オーケーを今すぐこの場で貰う必要はないのだ。
「もちろん、此方としては無理強いをするつもりは御座いません。あくまでも提案となりますので」
「そうですか……」
俺の言葉にローラが僅かに表情を緩めた。
その気になれば、こちらが無理やり王子を連れて行く事も可能だと薄々気づいているのだろう。
その意思がないと言われて少しホッとした様だ。
……ま、強引な手を使わないだけで、結局はうちに来る事になる訳だけど。
侯爵家の名を出している以上、強引に王子を連れて行く様な事は出来ない。
そんな真似をすれば、家門の名誉に傷がついてしまうからだ。
だが裏を返せば、バレなければ何をしても痛くも痒くもないと言う事でもある。
例えば今回の様に、王子の居場所を通報するとか……
居場所が次々と特定されれば、いずれ国外に脱出せざる得なくなるだろう。
まあだがそれをやってしまうと、それでなくとも微力な第三王子派閥の力が削がれてしまうので、最悪再起自体を諦めてしまうリスクが出て来る。
なので、流石にそれは最後の手段だが。
今はその手の裏工作をこれ以上せずに済む様、交渉を続けていくのみだ。
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