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第55話 責任

「お待たせしました」


気晴らしを終えた俺はバーさんの元へと戻った。


「さて、私は貴方を責めたりはしません。仲の悪い貴族が、下人などを間諜として潜ませるのはよくある話ですからね」


そう、それ自体は珍しくもない事だ。


「ましてや貴方の雇用主はコーダン伯爵家だった訳ですし」


コーガス侯爵家に仕えている人間が外部に情報を漏らしたなら大問題だが、伯爵家の人間が雇用主に得た情報を伝えただけ。

それが重罪かと言われれば、もちろん否だ。


だから腹は立っても、その行為自体を直接罰する事はしない。

が、やった事の責任はちゃんと取って貰う。


「ですが、自身のやった事を悔いていらっしゃるなら……このままコーガス侯爵家で働き続けてください」


「!?」


それまで顔を伏せていたバーサンがバッと勢いよく顔を跳ね上げて、信じられない物を見る様な目で俺を見た。


「あたしは……あたしのせいで旦那様と奥様は……くっ……それなのに、アンタはそんなあたしにここで働き続けろってのかい?」


「ええ、そうです。だいたいこの三年間、貴方はちゃんと働いて来たではありませんか?」


「それは……あの状態で、お嬢様や坊ちゃまを放り出せなかったからだよ。お二人には支えが必要だった。例えあたしみたいな人間の手でも」


罪の意識から、コーガス侯爵家の為に働いていた。

それが彼女の忠誠の源。


「でも今は違うだろ。アンタが、それに他にも優秀な人間がいて、コーガス侯爵家は再興に向かって順調に進んでる。罪人のあたしがこれ以上、二人の側にいていい理由なんてありゃしないんだ」


尤もな意見である。

これが100年前のコーガス家なら、俺は迷わずバーさんを追い出しにかかっていただろう。

だがそうせず引き留めるのは、今の侯爵家に忠誠心をもった人材が少ないからだ。


今って、ぶっちゃけ俺と大河だけなんだよな……


魔王は首輪で繋いでいるだけで。

シンラは知り合いだから就職しただけだし。

それ以外は俺の分身と来てる。


「そうですね。確かに優秀な者が増えてきてはいます。そしてこれからも増え続けていく事でしょう」


「だったら……」


「ですがその中に、果たしてコーガス侯爵家に絶対の忠誠を誓える者が何人出て来るでしょうか?」


「……」


優秀な奴はともかく、忠誠心の高い人物を確保するのというのは中々容易ではない。

大抵忠誠心の高い奴は数代仕えた――洗脳に近い教育を受けてる――とか、訳アリを助けてやったとかだからな。

ほぼ何もせず大河を確保できたのは僥倖(ぎょうこう)レベルと言っていい。


「そう言った人達は、いつかどこかで侯爵家を裏切るかもしれません。ですがあなたは違います。お二人の事など、自分のした事など気にせず生きる事だって出来たはず。でも貴方はそれを良しとしなかった」


裏切りが出来る様な人間なら、そもそもレイミー達に好かれる様な状態にはならなかっただろうし、本人も苦しんだりしていないはず。

彼女は基本お人好しだから罪悪感を抱き、責任を持って行動して来たのだ。


「バーさん。貴方は今のコーガス侯爵家に必要不可欠な人物と言えます」


バーさんにはこのまま侯爵家に残ってもらう。

贖罪(しょくざい)という名目で。

それが俺が彼女に求める責任の取り方だ。


「あたしが?けど……あたしは……」


「自らの行いが罪深いと認識されているのなら、その働きぶりで罪を雪いで下さい。正直、今あなたが辞める事は逃げでしかありません。自分が楽になる為に。贖罪とは苦しい物です。ですがそれに耐え成し遂げた時……きっと先代のご夫妻も、あなたをお許しになられる事でしょう」


「罪を……償う……あたしに……本当にそんな事が……」


「直ぐに答えを頂こうとは思いません。しばらく考えてからご返事ください」


感触は悪くない。

この様子なら確実にイエスが返ってくるだろう。


俺は一人悩むバーさんを残し、魔王を連れてその場を離れた。


「コーダン伯爵家にアポイントを取らないとな」


当然だが、この件はこれでお終いとはいかない。

きちんと裏どりし、暗殺だったならそれに関わった奴らにはきちんと責任を取らせる。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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