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第50話 かませ

「ひひーん!」


「ぶるるるる……」


馬達がいななき、突然その歩みを一斉に止める。


「どうやら到着した様です」


旧魔王領。

正確にはその少し手前に。


呪いに突っ込むほど馬鹿ではないので、馬達はその少し手前で止まっている。


「そ、そうなんですか?」


「はい。まだ少し離れてはいますが。馬は気配に敏感であるため、魔王の残した呪いに怯えて手前で足を止めたのでしょう」


でなければ、何もない場所で馬が一斉に足を止める事など無い。


「確かに、何か少し怖い感じがしますね」


感覚の鋭い馬だから気づける程度の距離だが、流石は転生者だけあって大河も呪いを感じ取れている様だ。


「これ以上近付くのは危険ですので、レイミー様方はここでお待ちください。私が行って解呪してまいりますわ」


アクレインの言う通り、力のない人間は近づくだけでも危険だ。

なので、レイミー達はこの場に残るのが正解である。


「あ……すいません。お願いする立場なのに、遠くから見ているだけで」


解呪を聖女一人に丸投げして、自分は安全な場所で待機する。

それが心苦しいのだろう。

レイミーが申し訳なさそうに俯むく。


「もしよろしければ、私の魔法で防護致しましょうか?それならば、近づいても問題ないかと」


別にレイミーがその目で見届ける必要は全くないが、気にしてる様なので気を利かせて魔法で守ってやる事にする。


「おお、さっすがタケルさん」


「お願いします」


「お任せください」


俺達が馬車を降りると、騎士達も全員下馬していた。

俺の分身は元より、王家の騎士達もこうなる事は承知していた様で慌てた様子はない。


「ルインバリアー」


魔法で、レイミーを中心にその家臣だけを包む結界魔法を張る。

その様を見て王家の騎士達が息を飲んだ。

只の執事だと思っていた男が、高位の魔法を使うとは夢にも思わなかったのだろう。


まあ高位魔法を扱える人間は普通執事じゃなく、魔法関連の職業に就く訳だからな。

驚くのも無理はない。


「呪いが近い様なので、此処からは徒歩で参りましょう」


「了解した。我々が先導しましょう」


王家の騎士が先導を買って出る。

呪い以外の危険はないので全く意味のない行動なのだが、まあしたいってんならさせてやればいい。


「よろしくお願いします」


王家所属の騎士達が持参してきた大盾を構え、慎重に進む。

ビビってないでさっさといけよと、尻を蹴飛ばしてやりたくなるほどゆっくりと。

まあしないけど。


「くっ」


「うぅ……」


呪いの影響が大きくなってきたためか、騎士達の歩みがさらに鈍る。

盾や身に着けている鎧には呪いに対する処理が施されている様ではあったが、魔王の呪いのパワーを考えると気休め程度にしかならない。


近付くにつれきつくなってくる負荷に、遂に王家の騎士達の足が止まってしまう。


「だ、大丈夫ですか皆さん」


「ぐ……申し訳ありません。これ以上進むのは、危険かと……」


応えた騎士隊の隊長の顔色は悪い。


このまま何もせず長時間呪いの余波に炙られ続ければ、流石に死にはしなくとも、長期療養コース待ったなしだ。

もちろんこれ以上近付くなどもっての外。

其れこそ死ぬ事になるだろう。


「皆様はおさがり下さい。ここからは、我らコーガスの騎士が先導を務めますので」


苦し気にしている王家の騎士達に、サインがそう声をかけた。


「ぐ……頼む……」


此方の言葉に、面子の為に踏ん張る事無く彼らは下がった。

なにせ、コーガスの騎士達は全員涼しい顔をしてるからな。

それだけの差をまざまざと見せつけられたら、強がる気にもなれないだろう。


王家に帰ったらちゃんと報告しろよ。

コーガスはサイン達だけじゃなく、精鋭騎士全体が化け物だって。


なんなら実家でも吹聴してくれていいぞ。

王家の騎士は全員貴族の出だからな。

彼らが今回の事を広く伝えてくれれば、それだけコーガス侯爵家の騎士の名が上がるというもの。


『顔に出てるぞ』


そんな事を考えていたら魔王に突っ込まれてしまった。

顔に出ていた様なので、慌てて表情を引き締め俺は周囲を確認する。


王家の騎士達や、レイミーには見られていない様だ。

まあシンラは呆れた顔をしていたが、彼女なら問題なし。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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