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第26話 書状

――エンデル王国・王城。


その主人であるエンデル17世――金髪碧眼の偉丈夫――が自身の執務室で書類に目を通しいると、執務室の扉がノックされる。


「陛下。セルイトめで御座います」


「入れ」


エンデル17世が許可を出すと、小太りのドジョウ髭を生やした目の細い男が入って来た。

彼の名はセルイト・ゴルダン。

ゴルダン侯爵家の嫡男であり、現在は国王の右腕を務めている人物だ。


「陛下、これを」


「ん?これは?」


セルイトが一通の書状を、エンデル17世へと見せた。


「コーガス侯爵家からの物になります」


「コーガス侯爵家からの?」


コーガス侯爵家は没落して久しい。

30年前ならばいざ知らず、現状の侯爵家が王宛の書状を出して来る事は珍事に等しい事だった。

国王はその降ってわいた珍事に、眉を顰める。


「はい。中身はあらためておりませんが、正式な物で間違いございません」


通常、王に届く書状は事前に中身を検分される物である。

内容に問題がないかを確認する為に。


だが相手が国内の高位貴族なら話は違って来る。

そのレベルの家門が出した書状に、そう言った物が含まれるはずはないと判断されているからだ。

実際、王に下手な文書を出す様な愚かな貴族は国内にはいない。


「ふむ。没落した貴族からの書状か……興味深いな。どれ」


セルイトから受け取った国王が、封蝋のされている書状の封を開けて中身に目を通す。


「ほぉ……」


「どのような内容で御座いましょうか?」


「土地を売って欲しいという物だ」


「なんと!?陛下にそのような陳情をするとは……コーガス侯爵家め、一体何を考えておる」


書状の内容を聞き、セルイトが不快そうに顔を歪めた。

王家の土地を売って欲しいなどと、いくら侯爵家だったとしても不敬極まりないない行動だ。

ましてやそれが没落し、名だけの侯爵家なら猶更である。


「まあ……それ程悪い話ではないがな」


「は?と申されますと?」


「コーガス家の求めているのは王国南部。旧魔王城周辺だ」


国王の言葉に、セルイトが『え?』と言った感じの間抜けな顔になる。


それもそのはず。

魔王城を中心とした広範囲は、かつて勇者が魔王を討伐した際に放たれた呪いによって、生命が踏み入る事の出来ない場所となっているからだ。


その呪いは強烈で、その中では、瘴気から生まれた魔物ですら生きていく事が出来ない程である。


今現在その一帯は呪われた地、または破滅の傷跡などと呼ばれており。

王家が直轄している禁忌の地として放置されている状態だ。


王家にとって、何の益にもならない土地。

そんな場所に、コーガス侯爵家が態々金を出すと言っているのだ。

それは王家にとってメリットしかない提案と言えるだろう。


「あんな場所を手に入れて、コーガス侯爵家は一体何を……」


セルイトの疑問は至極当然な物だ。

呪われた不毛の地など手に入れた所で、何のメリットも無いのだから。


「コーガス侯爵家由来である勇者タケル。彼が魔王を討った地を、再興の旗印としたいと書いてあるな。理由としては、まあ納得はいく」


何も出来なくとも、勇者を称える地としてその場所を領地とする事にメリットはある。

コーガス侯爵家の名誉を誇るというメリットが。


「セルイト、手配を」


「お売りになられるのですか?」


「いや、無償で提供する」


「む……」


売るならばわかる。

高額でなくとも、無用の地が金銭に変わるのなら、王家に多少なりとメリットがあるからだ。

だが無償で提供するとなると話は変わって来る。

何も生み出さない地であろうとも、わざわざ保有している所有地を減らす意味はない。


「理由をお伺いしてもいいですか?」


「かつて世界を救ったタケル・コーガスに、王家は約束したそうだ。コーガス侯爵家に便宜を図るという約束をな」


「それでしたら30年前に、すでに特大の恩赦を与えられたはず」


30年前、本来なら爵位を取り合げ、一族全員を処刑してもおかしくない様な罪をコーガス侯爵家は犯している。

だが王家は勇者タケルとの約束を守る為、財産と領地の没収だけに留めていた。


セルイトの言う、特大の恩赦とはそれの事だ。


「ふ……」


そんなセルイトの言葉に、エンデル17世が小さく笑う。


何故なら彼は知っているからだ。


30年前に起こった騒動が、コーガス侯爵家を没落させるために仕組まれた物だった事を。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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