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第11話 会議

今日はコーガス侯爵家の開催する、貴族会議の日だ。

U字型に組まれたテーブルには、召集された従属貴族の面々が既に席に着いていた。


まあ主より先に席に着くのが当然の習わしなので、俺が先に彼らを案内したからだが。


「コーガス家当主代理!レイミー・コーガス様がおなりになりました!」


案内役の俺がそう告げて会議室の奥側の扉を開き、そこからレイミーが室内へと入室する。

こういう場、ホストはゲストとは違った扉から入って来るのがセオリーだ。

貴方方とは立場が違うんですよと、ハッキリと見せ示すために。


「……」


従属する立場である彼らだが、レイミーの入室に誰一人席を立って挨拶をしようとする者はいなかった。

座ったまま無言で会釈するのみだ。

その行動は余りにも無礼極まりない。


まあこいつらに礼儀なんて期待していなかったが、やっぱ面と向かってやられると腹が立つな……


「さて、皆さんに集まっていただいたのは他でもありません」


レイミーが自身の席に着き、落ち着いた声で語り出す。

当主代理然とした落ち着いた態度だ。


これも俺の教育の賜物——


と言いたい所だが、此処にいるのは俺の分身がレイミーに化けた姿だ。

今の彼女にこういった状況を仕切る能力がないというのもあるが、場が荒れるのは目に見えているからな。

まだ16歳の女の子に、わざわざ楽しくない不快な思いをさせる必要はないだろう。


「今回の招集は、コーガス侯爵家の家法変更を伝える為です」


「それが一体我らに何の関係があると言うのですか!」


主家のレイミーが喋っているというのに、太ったザゲン・モンペが語気を荒げて口を挟んで来る。

こいつらは自分が何者で、今何を言ったのか理解しているのだろうか?


「失礼します。王国法では……貴族の施行した家法に、叙爵を受けた従家は従う決まりになっております」


レイミーの背後に立つ俺が、レイミー役に変わって発言する。

こういう補足は執事の役目だ。


「それゆえ、皆様方には変更された家法を知っていて頂かなければなりません」


「何故かしら?私達は30年前の契約で、コーガス侯爵家からの命令を受けずに済む権利を得てましてよ?家法がどう変わろうと、私達の知った事ではございませんわよね」


40代ほどの、ケバイ化粧の赤いドレスを着た痩せた女性。

彼女の名はポワレ・モンクレー。

モンクレー商会の当主の娘だ。

そのポワレが、過去に交わした契約を持ち出して自分達には関係ないとのたまう。


彼らと交わした契約の内容を至ってシンプルにまとめると――


100年間、今回集まった十二家の人間を叙爵し続ける事。

そして彼らには、一切命令を出さない事。

この二点に尽きる。


「ポワレ様は大きな勘違いをされております」


「勘違い?」


ポワレの顔に『何を言ってるんだこいつは』という、訝し気な表情が浮かぶ。


「確かにコーガス侯爵家は、皆様方への命令権を契約によって放棄しております。ですが……家法による規律は、そもそも国が認める明確なルール。命令とは別物。よって従わなかった場合、法の名のもとにコーガス侯爵家からの処罰が下される事になるでしょう」


命令を聞かなくていい事と、ルールを無視していい事は全く別問題だ。

なので彼らは家法に従う義務がある。


「お疑いになられる様でしたら、調べて頂いても結構です」


「……」


俺の言葉に、その場にいた者達が全員黙り込んだ。


流石に皆、大きな商いに携わっているだけあってどうやら直ぐに気づいた様だ。

ルールによる強制を上手く使えば、その気になればいくらでも彼らに嫌がらせする事が可能である事を。


死の森のど真ん中で行ったこの会議が、正にその先触れと言えるだろう。


そして彼らに、家法変更に対する異議を唱える権利はない。

従家の分際で、主家のルールに口を挟める訳などないからな。

ただ従うしかないのだ。


唯一の手立ては30年前の契約だったが、彼らもまさか家法を悪用してくるとは考えてもいなかったのだろう。

その辺りについては一切触れられていない。

つまりもう、後の祭りという事である。


……さて、せいぜい踊って貰うとしよう。


これは正直、あまり褒められた手とは言えないだろう。

俺も一応勇者と言われた男だし、好き好んでこういった手を使ったりはしない。


だが彼らは別だ。

コーガス侯爵家が困窮していた時、弱みに付け込んでハイエナの様に食い散らかしてくれたのだからな。


恩義には恩義で。


そして――


悪意には悪意で返す。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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