第10話 砦
―—王国東部にあるコーガス領・死の森。
瘴気渦巻くこの森には、強力な魔物がひしめき合っている。
だがそんな森の中、ぽっかりと空洞の様に木々の途切れる広い空間があった。
そしてそのその場所には大きな砦が建っており――
「さて、準備はこれぐらいでいいか」
準備していたのは、召集をかけた貴族会議の会場だ。
急拵えの木造ではあるが、幻覚魔法で処理しているので俺以外の人間には立派な砦の様に見える事だろう。
ま、いわゆる一つの”がわ”だけ整えた手抜き工事だ。
だが問題ない。
そう何度もここを使う訳じゃないからな。
「お、入って来たな」
死の森の周囲には、内部で発生した魔物を外に出さないよう俺が魔法の結界を張ってある。
そしてこの結界には、外部からの侵入を知らせる機能も付与してあった。
「最初に来たのはモンペか」
モンペが兵士を40名ほど連れ、死の森の中へと入って来た。
森は木の密度が高く、モンペは馬車から降りて自分で歩かなければならないので、その事を喚き散らしている。
そんなに大声を出すと、直ぐに魔物に襲われるというのに……
「ふ、40名もいれば楽勝だとでも思っているだろうな。けど、そうは問屋が卸さないぜ」
そこそこ腕の立つ護衛達なら、確かに40人もいれば死の森を安全に進む事は容易い。
ただし……普通の状態でならば、だが。
「魔物は全て強化してある。まあ精々苦労して貰おうか」
魔界での暮らしが長く、最終的には大量の魔族や魔物と組んだ俺は、そいつらを強化する魔法を編み出していた。
今回使ったのはそれだ。
まあとは言え、護衛達は良さそうな装備を身に着けているので、間違っても壊滅する様な事は無いだろう。
最悪、駄目そうなら俺が魔法で魔物を散らしてやればいい。
結界内は俺の手の中に等しいので、それぐらいは容易いからな。
「さて、迎え入れの準備でもするか」
俺はそれぞれの配置につく。
それぞれと言ったのは、魔法で大量の分身を生み出して動いているからだ。
30年以上ぶりのコーガス侯爵家の貴族会議を、人手のない見すぼらしい物にするわけにはいかないからな。
因みに、分身の数は200程だ。
流石にこの数を全部完璧にコントロールするのは手間なので、大半は半オートで動く様にしてある。
「くそっ!どうなってるんだこの森は!!コーガス家は何を考えている!!」
ザゲン・モンペを迎え入れると、兵士に扮した門番の俺の分身に――姿形はちゃんと変えてある――喚き散らして来た。
流石に本人はぴんぴんしているが、一緒に連れて来た護衛達はボロボロだ。
「我々はここを守るよう命じられているだけですので、お答えできません。砦の中は安全ですのでどうぞお入りください」
この砦(幻覚)の周囲には結界が張ってあるので、魔物は入って来れない様になっている。
なので内部は安全だ。
まあ仮に張ってなくとも、俺がいる時点で超が付く程安全地帯になっている訳だが。
「ちっ、胸糞の悪い」
ぐちぐち文句を言いながら、案内人に連れられモンペが砦の割り当てられた場所へと向かう。
やがて他の家の一団も続々とやって来て、モンペと同じように文句をまき散らした。
「全員、この森にある砦や人員を不思議がってるな。まあどうやって建てて維持してるのかは気になるよな。帰ったら調べる気満々の様だが……ま、調べたければ好きにすればいいさ。何も出て来る訳もないがな」
一人で俺が全てやっているのだ。
彼らがその答えに辿り着ける筈もない。
因みに、会議は明日だ。
前日にやって来てるとか殊勝じゃないか?
もちろんそんな訳はない。
彼らが前日にやって来たのは、万が一遅れでもしたらペナルティが発生してしまうからである。
そもそも本当に殊勝で此方に敬意を払う気があるのなら、確実にコーガス家の耳に入る場所であんな悪態を吐きはしないものだ。
ま、その舐め腐った態度も明日までの事である。
奴らには、これからコーガス侯爵家に大いに貢献して貰う。
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