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第99話 ウィンウィン

「さて……」


テライルを拘束し、気絶させる。

拷問するには色々と準備が必要だからな。

楽しみに待ってろ。


「本当に約束を破って続ける気か?」


その時、それまでずっと黙っていたエーツーが口を開いた。


「何か問題でもあるのか?」


「私的には、何の問題も無い。だが……怒りにかまけて無駄な事に時間をかける。それはお前にとって、果たして意味のある事なのか?」


「……こいつを許せと?」


「そんな事はどうでもいいさ。私がその男を救ってやる謂れはないからな。確か……お前の家族は寛容な優しい人間だったと言っていたな。今のお前の行動は、その家族に顔向けできる様な行動なのか?」


「……」


エーツーが痛い所を突いて来る。

今の俺の行動を見て、皆はどう思うだろうか?

そんな物は考えるまでもない。


「強者が自分の思うままに力を振るう。それ自体は間違ってはいないだろう。少なくとも魔界では……大魔王の支配する世界ではそうだった」


「俺が……大魔王に似てるとでも言いたいのか?」


「さあな。だが……暴君の行きつく先は、どれも似た様な物だろう?」


「………………そうだな」


気絶しているテライルを見る。

正直、こいつへの憎しみが止まらない。

だが、だからと言って、怒りに飲まれて行動するのは余りにも愚かな事だ。


確かに、顔向けできないよな……


俺は善良じゃない。

だからこそ、自分の行動には何時もちゃんと合理的な理由を付けて来た。

コーガス侯爵家に、最低限恥じない人間である為に。


所詮、それは自分満足でしかない。

けど、それすらも放り投げる様では……


「ま、お前の言う通りだな。大魔王云々はともかく……怒りに任せて行動なんかしてたら、いつか大きな失敗を犯す事になりかねない。物事を完ぺきにこなすには、常にクールでないと。エーツー、忠告感謝する」


「別に感謝などいらないさ。私はただ……仮初とは言え、自由を与えてくれた男が大魔王の様になるのは好ましくなかったから釘を刺したまでの事」


エーツーは自身の意思を封鎖され、長らく大魔王の操り人形として生きて来た。

なので、俺が大魔王の様になるのを好ましく思わなかったのだろう。


まあ彼女の意図がなんであれ、エーツーには借りが一つ出来た。

何かの機会があったなら、その時は借りを返すとしよう。


「さて……」


自身の怒りを完全に呑み込み、気絶しているテライルの首を俺は跳ね飛ばす。

これでこいつへの断罪はお終いだ。


……気分は全く晴れないが、まあ仕方ない。


「ひぃ……」


その様を見ていたバイカーが悲鳴を上げる。

首が飛んで血が飛び散ってる訳だからな。

一般人には少々刺激的だろう。


「バイカーさん。提案があるんですが?」


「は、ははははいぃぃ……な、なんでしょう……」


「コーガス侯爵家で働く気はありませんか?実はこの後、私はジャッカー商会を跡形も無く潰す予定になってるんです。そうなると貴方はまた無職だ。生活レベルを維持したいですよね?お給金は弾みますよ」


俺は笑顔で一瞬、その視線をテライルへと向ける。

断ったらどうなるかを示すために。


「よ、よよよよ喜んで!このバイカー!喜んで侯爵家にお仕えいたしますぅ!!」


交渉成立。

こいつは監視を付けてさえいれば、まあ問題ないだろう。


「エーツー。ここの片づけは頼む。俺はちょっと出かけて来るから」


これからテライルの残した情報を元に、片っ端からその財産を処分して周る。


まそうなると、商会で働いていた人間は全員路頭に迷う事になってしまうだろう。

だが安心して欲しい。

従家の従業員達には、コーガス侯爵家がちゃんと救いの手を伸ばすので。


旧魔王領で、高給取りの仕事という救いの手を。


此方は領民が増え。

相手は職を得る。


これぞ正にウィンウィンって奴だ。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
どっちつかずな印象もあるけど、伏線ならよし。
前話でおいおいと思ったけど、まさかの悪の魔王に諭される正義の勇者 これからの忙しさ考えると一か月ネチネチ拷問(分身がするとはいえ)するとかコスパ悪そうだしこれでよかったと思う
なんか色々な意味で勿体ないね。
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