プロローグ
『――お前でよかった―――』
――遡ること数年、または数か月前――
「失礼します」
「最近の調子はどうだい、アイザック」
《訳:新しい依頼だ》
「可もなく不可もなく」
《訳:殺しですか、調査ですか》
「それは良かった」
《訳:殺しだ》
その時、アイザックのスマホが通知音を鳴らした。
「失礼」
《訳: 確認します》
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名前:琉浪
性別:男
生年月日:不明 ※25歳前後と推測
国籍:日本
現住所:◯◯◯◯◯◯◯
依頼内容:対象者の暗殺及び調査
備考:─────
________________________
(海外住みの日本人か……… しかも備考欄に何の記載もない。何かが引っかかる…………)
「ところでこの企画書だが、少し不明瞭な部分がある。もっと分かりやすく、説明を付け加えた方がいい」
《訳:空白の備考についてだが、この男は、何か厄介なものを持ち合わせているらしい。詳しいことは我々も聞いていないが、「及び調査」の内容はそれだ》
「このグラフも工夫しなさい。見やすい色を使うんだ」
《訳:しかし私は調査を強制させない。いつも以上に危険だ。この調査は後で付け足されたものだから、暗殺だけでも報酬はもらえる。やるかやらないかはお前の自由だ》
「よろしく頼むぞ」
《訳:死ぬなよ》
「はい、失礼します」
彼らは独自の暗号で会話していた。
(本当にここなのか………? だってここ──)
「ここ、何もないぞ…………」
「何もない」というのは語弊があるだろう。というのもこの辺り一帯、対象者の家以外何も建っていないのだ。
アイザックは警戒態勢に入り、琉浪の家を近づく。
「やあ。久しぶりだね、俺の親友」
アイザックは銃口を改めて琉浪に向ける。
「待って待って」
そう言って琉浪は両手を挙げて、降参の意を示す。
「お前のことだ。どうせ『琉浪を殺せ』とかなんとかって命令が出たんだろ。そうじゃなきゃ疎遠になってた琉浪のとこに来ない。そうだろ、アイザック」
「! …………なぜ、俺の名を」
「実はさ──」
次の瞬間、琉浪はアイザックに銃を向けた。
「俺にも命令が来てんだ──『アイザックを殺せ』ってさ」