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初詣

作者: 鱗川うろこ

 手を擦り合わせる。指先は氷のように冷たく、感覚はすでに機能していない。

 吐いたため息が夜空に消えていく様を目で追った。

 大晦日。がやがやと人が集う神社の隅で、一人ポツンと突っ立っているのには訳がある。

 恋人が来ないのだ。

 クリスマスに、大晦日の夜に待ち合わせて、日付が変わってすぐ初詣へ行こうと約束した。

 しかし向こうから言ってきたくせにそれ以降の連絡はなし。

 具合でも悪いのかと心配して家に行けば、友達と遊んでいた。

 バツの悪そうな顔をして「落ち着いたら連絡するから」と帰され、三日経った今でも連絡は無い。

 どうせ今日は来ないだろう。そしてこれからも。

 彼の人はたしかに子供っぽかった。恋人ごっこより友達と過ごす方が好きらしい。

 まぁクリスマスに一人にされるよりはマシだなと、鼻をすすりながら年越しの瞬間を待っていた。

 くん、と服を引っ張られる。

 後ろを振り返れば、着物姿の子供がいた。

「あそぼ」

 迷子だろうか、と周りを見渡せば、先ほどまでいた人々は誰一人いなかった。

 話し声も、車の音も、鳥や虫の声も、いつのまにか何一つ聞こえない。

 あまりの静けさにキィンと耳鳴りがした。

 視線を戻せば、子供も消えていた。

 耳元でクスクスと笑い声が聞こえ、振り返れば誰もおらず、今度は死角から手を引かれた。

 両手でこちらを引っ張る子供は着物を着てウサギのお面をつけている。

 そういえば、最初に服を引っ張った子供の顔を思い出せない。

「あそびましょ」

「あそびましょ」

 境内のあちこちから子供の声が聞こえた。

 これはきっと神様、あるいはその眷属の類だろう。悪いものでは無いはずだ。

 自分に言い聞かせ、おとなしく遊んでやることにした。

 きっと満足すれば帰してくれる。


 かくれんぼから始まり、お手玉に羽つき。

 懐かしい遊びは存外楽しく、気づけば寒さも、恋人だったあの人のことも、悲しみも、全て忘れて没頭していた。

「おねえちゃん」

「もうかえらなきゃ」

「あそんでくれてありがとう」

「またね」

 次は何をするのかと思えば、もう満足したらしい。

 背中を押され、鳥居をくぐれば、がやがやとした喧騒が戻ってきた。

 不思議な体験をしたなあとしばらく呆けたあと、軽くお辞儀をしてもう一度鳥居をくぐった。

 周りの人間が消えることもなく、無事に境内に入れたようだ。

 子供と遊んでいたうちに日付が超えたようで、長い列ができている。


 お詣りを終え、甘酒をもらい、おみくじを引いた。

(待ち人、来ず)

 去年は来ないまま終わった。おみくじの結果がこれなら今年も来ないということだろう。

 なんとなく分かっていたことだが、こうして紙に書かれるといっそ笑えてくる。

 彼の人へメッセージを送ろう。向こうだって気持ちよく新年を過ごしたいことだろう。

『去年はありがとう。そしてあけましておめでとうございます。去年で終わったことにしませんか。お互い、新年は明るく過ごそう。さようなら。』

 今年は自分のためだけに生きよう。クリスマスにもらった好みじゃないワンピース、一度も袖を通してないし売ってしまおうか。

 すっきりとした気持ちで、もう一度頭を下げ、神社を後にした。

 

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