荒野を駆ける6
ベンたちの目の前には、目を疑うような光景が広がっていた。
淡々と作業をするかのように人を切っていた男が、仲間であろうはずの男に後ろから撃たれて膝をつかされている。
ジルの接近にベンを含む五人はおろか、覚醒した蓮夜でさえ気づくことができなかった。そして、魔法によって作られた特殊な弾を撃ち込まれ、蓮夜は力を出すことができない。
「何、しやがる、ジル!?」
「おおっと、随分と気が大きくなったね蓮夜くん。分かるよ!僕も初めてこれを手にした時、情緒不安定になったからね」
蓮夜の怒鳴り声に対して、ジルは手に持つハンドガンをクルクルと回しながらおどけたように話す。
蓮夜はジルの態度でさらに苛立ちを覚え無理矢理動かないからだ動かそうとするが、片膝をついた状態から少しも動くことができない。
「主人公、殺りすぎだ。仲間が強くなることは嬉しいんだけど、人を殺すのにもやり方がある。今の君の殺し方はだめだ」
もがく蓮夜を見て、ジルは急に真面目な顔つきになり、蓮夜を諭すように話し始める。
「うるせぇよ、元はと言えばお前が俺をこんなところに送り込んだのが原因だろ?」
「それはごめん。でも君が今やっていることは、将来確実に君の体に呪いとなってのしかかる。破滅へ導く。この先君がどういう生き方をする人間になるかは分からないけど、命を奪うという行為に対して常に恐怖心を持て。先輩からのアドバイスだよ」
「…………」
「そして、改めて言う。死なせる気は無かったとはいえ君を危険に晒してしまった。本当に申し訳ない」
「!」
突然のジルの謝罪に少し驚く。
蓮夜の手から刀が消える。蓮夜も落ち着いたのかジルの話を黙って聞いている。一度深呼吸をしてジルの言葉を咀嚼する。
「さて、そろそろ限界だろう?緊張を解いてその倦怠感に身を委ねてみたまえ」
「……はい」
蓮夜はジルの提案に素直に従う。意識的に全身の力を抜くと心地よい睡魔が押し寄せてくる。睡魔に抵抗することなく身を委ねると、簡単に意識が遠のく。
「ありゃ、寝ちゃった。このまま地べたに寝かせておくのは流石に可哀想だから早めに終わらせますか」
ジルは状況についていけていないベンたちに向き直る。
「抵抗するなよ。僕は蓮夜くんよりも強いからお前らじゃ勝てないよ、運び屋ベン」
「ああ、降伏する。…なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「答える義理はないんだけど、ここに僕らが来てるってことはそう言うことだよ」
「どんな情報網を持ってるんだか」
ベンは自嘲気味に笑う。話している間にもジルは五人を拘束する。
二人が話していると、遠くからジルたちが乗ってきた車とサポーターが呼んだヘリが来るのが見える。
「あんたには聞きたいことがあるから、本部に戻ったら話してもらうよ」
「………ああ」
ベンは俯きながら返事をする。
その後、到着したサポーターたちによってベンたちは車に乗せられ、連れていかれた。気絶した蓮夜はジルと一緒にヘリに乗り込み、ジルが所属する組織の本部に向かった。
「いやぁ、帰ったらいい報告ができるぞ!……これで蓮夜くんを無断で連れ出したことへのお咎めをちょっとは軽くできる、かな」
もうすでに『墓までもっていく!蓮夜くんには絶対に教えない事リスト』は生まれていた。
ジルがはっはっは、と機内の中で笑っていると一人のサポーターが話しかけてきた。
「ジルさん今いいですか?残った魔道具の確認が終わりました」
「うん、それで?」
「気づいてるかもしれませんが、その中に一つ明らかに他と格が違う物がありました」
「ああ、あのヤッベェやつ?」
ジルは蓮夜と合流したときに異質な気配を感じた。おそらくベンの依頼主はその一つを運ばせるために大量の魔道具に紛れ込ませたのだ。そうまでして手に入れたい魔道具には一体どんな力が秘められているのか、依頼主の目的は何なのか。
「この世界にいると不安要素が尽きないね!」
「言ってる場合ですかまったく」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これからも自分のペースで投稿していきますので、気長にお待ちください。
最近、水が美味しいです。今までは結構ジュースとかお茶とかを飲んでいたのですが、一周回って水ばっか飲んでますw