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リベラティオ・コロナ  作者: 白黒 猫助
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不穏な気配

 ~side蓮夜~

「小僧、技らしい技は雨染、嵐点、飛雨双撃しか覚えとらんのか?」


 玄時との稽古中、玄時は不意にそんなことを聞いてきた。もちろん弟子に打ち込む手は止まらない。


「どうしたんですか急に?、まあそうですね、今はその三つしか使えないです」

「いや何、戦闘中の選択肢を増やすことも必要だと思うたのよ」

(選択肢か…)


 玄時の話に耳を傾けすぎたことによりほんの少し隙が生まれてしまった。玄時その隙を逃さず蓮夜の足を払った。


「あで!?」


 勢いよく転んだ蓮夜の首元に木刀を押し当てて二人はその場で数瞬、そして静止した。


「お主は戦闘中、急に技を思いつくのだろう?武装集団を一掃するための雨染、ゼンの圧倒的な手数に対抗するための嵐点、箱とか言うふざけた強者に先手を取るための飛雨双撃。どれも状況が特殊過ぎる」

「………」

「そんな行き当たりばったり、運の要素も絡んでくる戦い方をしてるといずれ死ぬぞ?」

「おっしゃる通りです」

「それにお主の技は全て魔力によって完成する。いくらその刀の力で魔力が常人よりも多くなったからと言って枯渇しないわけでは無いぞ?」


 それは蓮夜も思っていたことだった。現状で使える技は三つのみ。もっと多くの技が使えれば戦闘中、臨機応変に対処が可能であろう。現状最も蓮夜を悩ませている壁である。


「随分動けるようになってきておるし、そろそろ技の習得と洒落こむかの」


 玄時は愉快そうにかっかっかと笑う。


「そんな楽しいものですか?」

「楽しいぞ、儂はな?」


 蓮夜の背中に嫌な汗が伝う。玄時は、蓮夜の様子を見てからかい過ぎたと片眉を上げて呆れるように笑った。


「そうビビらんでもよい。技の習得はただの打ち込みと違って体の部位ごとに意識を集中させる。故に脳みそが疲れるだけだ」

「はあ」

「では始めるぞ?ここからはあの刀を出せ」


 そうして蓮夜は技の習得に取り掛かった。その間、蓮夜は思い知った。脳はもちろんだがちゃんと体も限界ギリギリまで追い込んでくる玄時の恐怖を。


 ~sideジル~

「切り裂きジャック事件再来?」

「すごいですね、三百年以上前の事件が再び社会で話題になるなんて」

「さっきゅん知ってるの?」

「さっきゅん言うな……知らないんですか?ロンドンで起きた女性ばかりが殺害された正体不明の連続殺人事件の事です」


 ジルとさっきゅんこと和田幸来(わだ さく)はロンドン市内を散策中、偶然落ちていた新聞の記事に目を通していた。


「よく知ってるね。有名なの?」

「有名ですが、ジルさんのように知らない人もいます。ただ、能力者による犯罪が増え始めた頃、過去に起きた大犯罪を能力者が再現しようとする時期があったんです。その対策として、歴史に残る事件や犯罪を勉強するサポーターは少なく無いんですよ。私も勉強したので知っていました」

「サポーターのみんなもいろんな事やってるんだねぇ」

「まあ、今はそんなことはいいでしょう。どうします?おそらくほっといても他の機関が解決すると思いますけど」

「いや、この件は特別に首を突っ込ませてもらおう」


 幸来はジルの答えに意外そうに眼を見開いた。それは首を突っ込むと言ったことにではなく、いつものおちゃらけた表情からは想像できない真剣な表情で新聞を眺めていたことに驚いたのだ。


「被害者の中にリベラティオ・コロナで対処するはずだった人物が数名いる。もうこの事件の犯人は僕たちと無関係ではなくなった。敵か味方かは関係ないけど、一度接触する必要があると僕は判断する」

「それはあなた個人の意見ですか?」

「いや、第七隊副隊長ジル・クラウンとしての意見だ」


 ジルの真剣なまなざしに幸来は根負けする。


「分かりました。では帰るのはこの事件に首を突っ込んでからにしましょう」

「うん!ありがと」


 いつもの調子に戻ったジルに安心感を感じた幸来は、少し申し訳なさそうにジルに問いかける。


「あの……ジルさんの事を疑うわけじゃないんですが、一人で大丈夫なんですか?」

「心外だな~、戦う姿はあんまり見せたことないけど僕強いからね!ダイジョブダイジョブー」

「それは()()()を持つ者の自信ですか?」

「そんなとこ………あ、ちょっとそこの人!この事件について何か知らないかい?」


 ジルは幸来の顔を見ることなく答え、通行人に情報の確認のために行ってしまった。残された幸来は通行人と笑いながら会話しているジルを遠くから眺める。

 幸来はジルと通行人へと近づいて行くと段々と二人の会話が聞こえてくる。かなり大きな声で話しているようだ。


「僕の知ってることはこれぐらいかな、思ったよりも少ないね。申し訳ない」

「いいっていいって!情報が手に入るだけでこっちは助かるんだから」

「そうかい?………でも君たちは何で『切り裂きジャック事件』を追ってるんだい?」

「それは僕が探偵だからさ!こっちは助手のワダソン君」

「だれがワダソンじゃい!」


 通行人は面白いものを見るように眉を下げた。


「ははは、君たちいいコンビだね。健闘を祈るよ!」

「ああ、ありがとう」


 歩いていく通行人に手を振って見送った後、ジルは幸来に聞いた情報を共有する。

 今回の切り裂きジャック事件は過去の事件と比較すると、まず殺害時刻は深夜と共通している。しかし、今回の事件ではそれ以上に異なる部分が多いとのこと。過去の事件では犯人には解剖学や外科学の知識があったとされ、犠牲者の内臓などがきれいに取り出されていたらしいという事。対して今回の事件の犯人にはそんな知識を微塵も感じないほど被害者は惨殺されていた。文字通り胴体が切り裂かれた死体も発見された。また、被害者の特徴も異なっていた。娼婦の女性ばかりが狙われた過去の事件に比べ、今回の事件では男女バラバラで年齢層もかなり幅があるらしい。新聞にも書かれていることだが、被害者の多くは裏社会と繋がりがあったり、色々とブラックなことに手を出している人物がほとんどらしい。そのため、社会にとっての悪だけが殺されている今回の事件をよく思う人間も少なく無いらしい。

 ここまでが通行人から得られた情報である。


「一人目で十分すぎる情報が手に入りましたね」

「僕は運がいいみたいだね!ワダソン君!」

「…………」

「ごめんて。でもこれ以上の聞き込みは効果なさそうだね、あの通行人と話してる時、わざと声を大きめで話して他の通行人にも聞こえるように会話してたんだけど、ほかの通行人もこの話を知っているのか頷いたり、聞き耳を立てたけどすぐに興味をなくして離れて行っちゃってたからね、この情報はみんな知っていることなんだろうねおそらくは」


 幸来はジルの話を聞いて、心から感心した。今日初めて話した第七隊の問題児、ジルは噂通り掴みどころがない変人だという印象を抱いたが、今は変なところでセンスを光らせる変人という印象に変わっていた。あと、ワダソン君という響きが以外にも良く、面白いと思っている自分とさらっとぼけてくるジルが癪であった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

評価【☆☆☆☆☆】、いいねよろしくお願いします。

切り裂きジャックは紳士的な男性というイメージを私は持っていますが、皆さんはどんなイメージを持たれていますかね??笑

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