新たな出会い
初任務を終え本部に帰還して数日が経った現在、蓮夜は羽織を羽織った老人と木刀で打ち合っていた。
「坊主、視線が撃ち込む箇所に集中しておるぞ。それじゃどこに撃ち込むのか教えてるようなものじゃ」
「は、はい!」
「誰が視線を離すなと言った!」
老人が振り下ろした木刀が蓮夜の頭部をクリーンヒットした。
「ぐおおおおお」
悶絶する蓮夜を見て、老人はかっかっかと歯を見せて笑う。
「少し休憩じゃな、儂は孫の様子を見てくるから戻ってきたら再開じゃ」
「わ、分かりました、師匠」
「うむ」
頷いた老人は腕を組んで訓練場を後にした。
蓮夜を指導していた老人、鳴海玄時は元第一隊隊長であり、医療部隊のトップである鳴海舞花の父親である。今は現役を退き、孫娘を預かるこの第七隊によく顔を出している暇な老人と化している。
「なんか見透かされてる気がするんだよな」
玄時との訓練は常に蓮夜は掌の上で転がされているような感覚に襲われる。とにかく指導は正確で次に何をしようとしてもまるで分っていたかのように簡単に対処される。白輝夜を使えばまだ善戦できるのだろうが、そこは魔道具の性能に依存した戦いをしている蓮夜自身の戦闘力を底上げする目的がある。
ちなみに白輝夜という魔道具の名前は蓮夜と鬼の少女が初めて会話したときに頭に情報が流れ込んできた。
「もうあんな無様は晒さねぇ」
木刀を握り直して箱の攻撃をもろに貰い気絶し、あの場に凛を一人にしてしまったことを思い出す。結果的には二人とも生還できたが一切納得できていない。あの場を切り抜ける力を今の蓮夜は欲しているのだ。
「小僧戻ったぞ、再開するとしようか?」
「はい!」
そう言って蓮夜は立ち上がって握りこんだ木刀を玄時に打ち込んだ。
~side凛~
凛は今、隊長室にいた。目の前には凛が制作した報告書に目を通すゼン。紅い髪に隠れた青藍色の瞳が文字の羅列をなぞっていく。
「支配の魔石、それを生み出した存在、天使の存在、箱。……いやはやこれは」
ゼンは報告書を机に置いて、深く溜息を吐く。凛も同じ気分なのだがそれは上司の前なので押さえた。
「今回の任務だけで、しかもたった一夜の出来事か、これが」
「はい、言い訳にはなりますがあまりにも多くの事が起き過ぎました」
「本当によく生きて帰ったね、よくできました!」
「………はあ」
ゼンはへにゃっと笑って凛を労った。凛はゼンにもう少しシャキッとしてほしい反面、褒められたことで少しだけ気分が上がった。
ゼンはうんと頷いた後、また顔を引き締めた。
「で、ここからは真面目な話。今回の任務はセルバの確保だけで完結するはずだったけど、箱の能力者?の乱入によって、対処しなきゃいけない案件が増えた。しかも、そのどれもが一部隊が一つ抱えるだけで年単位の時間を奪われそうな案件だ」
「そうですね、支配の魔石はその効果が決して悪用されてはならない代物ですし、そんな魔道具を個人が制作したとは考えにくい。もっと大きい。組織で動いてる可能性があります」
「と、いうことは支配の魔石以外にも凶悪な魔道具が生み出されてる可能性が高い。世に出回らないようにすることも必要だね。もしくはもうすでに出回っているか」
「考えられる可能性は全てあるものとして対処していきましょう」
凛は何か決意したかのような強い意志が感じられる瞳をゼンに向ける。ゼンはそんな凛の瞳を見て頼もしさを感じるとともに危うさも同時に感じていた。
「凛ちゃん、今回は別に失敗したわけではないでしょ。セルバの確保とは言ったものの、彼はもともとリベラティオ・コロナ内では知る者も多かった人物だし、死んだら死んだで別に問題は無いとおじさんは思うな?」
「いえ、失敗は失敗です。想定外の事態にも対処しなければいけない。そればかりかパートナーも……」
「ストップ!確かに反省は必要だけど、君のそれはただ自分を追い込んでるだけだよ。もっと蓮夜くんと話し合うべきだ。今の君は前のような仕事人間みたいな雰囲気はなくなった。いろんな感情が湧いてくることはいいことだ。だからもっと自分とパートナーに向き合いな」
「…………はい」
ゼンの言葉で少しだけ肩が軽くなったような気がした。
「今回新たに明確になった問題は第七隊だけで対処することはできない。おじさんが上に提言するから今回の凛ちゃんの仕事はここまででダイジョブだよ。お疲れ様でした!ゆっくり休みな」
「はい、そう言っていただけてありがたいです。もっと強くなって次は成功させます」
「いいね、その意気だ」
「…………ところで、本部に帰ってから一度もジル、さんの姿を見ていないのですが、任務ですか」
通常の構成員なら見かけなければ任務という事で納得するのだが、ジルに関しては今まで見かけない日が無いほど任務に行っているという話を聞かない。
ゼンは痛いところを突かれたように苦笑いをする。そんなゼンの様子に凛は嫌な予感を感じずにはいられない。
「実は…………彼、行方不明なんだよね」
「行方不明?」
あまりに予想外の答えに思わずオウム返しする。
「君たちの任務の行き先が豪華客船だったこともあってジルも行きたがってたんだよ」
「それで行かせたと?」
「いやいや!おじさんは止めたよ?でも君たちが行った後にこっそり付いていったらしくて、第七隊全員がそれに気が付いたのも数日後だったんだ。」
凛は軽いめまいを感じる。ゼンの姿はまるで話を聞かない子供を世話する父親のようであった。
「でも、私たちがいた一週間、ジルさんとは一度も会わなかったですよ」
「だから行方不明なんだよ」
今度は二人して溜息を吐く。
「ほんとどこをほっつき歩いてるのやら」
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