初任務16 最後の戦い
「あなたはもっといちゃダメ」
幼い声の主は凛とそれの間に割って入るように降り立つ。少女の背中を見た凛は不思議と気持ちが緩み、恐怖や緊張から解放される。
突然現れた名も知らぬ少女の手には、蓮夜が使っている白輝夜が握られていた。少女の気配を感じ取り、具現化したそれは心底愉快そうに口の部分が弧を描いて裂けた。
「い、いな……………お…え…………ま…か、おれ…………に、こん………と、な」
「まさかあなた………いや、ありえないか。どっちみちお前はこの世界に存在してはいけない。今からお前を殺す」
凛は理解が出来なかった。何を言ったのかは分からないが目の前のそれは明らかに人間の言葉を発した。しかし少女は何か心当たりがあるらしく、一言言葉を発した後、急に雰囲気と口調が変わる。持っていた白輝夜をそれに向け、少女の周りに急速に魔力が集中し始める。
「ケケケケケケ」
不気味な笑い声をあげてそれは少女に襲い掛かる。それは自身の手に禍々しい魔力の塊を出現させ、少女に向けて手を突き出す。それが放った魔力の塊はそれぞれに散らばり、剣となり、槍となり、矢となり、少女の幼い体を串刺しにしようと飛来する。
「そんなものでは私を殺せない」
そう言った少女は、白輝夜を振るい幾数の斬撃を放ち自身を守る斬撃の盾を生成する。少女の斬撃によって飛来した魔力の武器たちは悉く粉砕される。
「これで終わり………一刀流『泡沫』」
そして少女はそれを切り刻んだ。抵抗する素振りを見せたそれだったが、動こうとした瞬間にはその部位は切り飛ばされる。
永遠にも思えた少女の斬撃の雨も終わりを迎え、切り刻まれたそれは、つまらないものを見たかのように裂けた口を下げ、水面に浮かぶ泡のように儚く散り始める。
「なん……だよ…、つまん………ね…えな」
霧散していくそれを眺めながら凛は静かに体を寝かせた。すると圧倒的な強さを見せていた少女がくるりと体を捻ってこちらを向いたことで凛に少しの緊張が走る。
コツコツと少女が履く小ぶりの下駄の音が近づいてくる。
「お姉さん」
「な、なに?」
「これ呑んで」
そう言って、少女は何処からともなく大きな瓢箪を取り出し、中に入っている液体を飲めと催促した。通常ならば警戒して絶対に飲まないのだが、少女から差し出されたものには特に警戒する必要はないと体が訴えかけている。
「全部治るから」
少女は瓢箪を凛にずいっと押し込み、凛の口の中に冷たい液体が流れ込む。その味に凛は覚えがあった。
(こ、これ日本酒?)
凛は一口その日本酒を飲み込むと体に変化が生じる。なんと、ボロボロだった凛の体は瞬く間に回復し、傷を負う前の体に元通りに戻ったのだ。凛が驚いていると、少女は歩き出しその場を立ち去ろうとする。
「あ、おい。ちょっと待てよ!………て、いない」
凛が気づいた時には少女の姿は消え、大きくひび割れめちゃくちゃに破壊された会場にただ一人取り残されていた。あまりにも現実離れした出来事に凛は今でも夢を見ているかのような感覚に陥る。
「りーーーーん!」
瓦礫の向こうから蓮夜の声が聞こえた。凛は思考を中断して、未だにボロボロであろうパートナーの元へ急いだ。
蓮夜と凛がセルバ、箱、それと激闘を繰り広げ衝撃的な幕引きを迎えた日から二日後、現在蓮夜は豪華客船の大浴場で戦いの疲れを癒していた。
「あーーーーーーーー、疲れたぁぁ!」
蓮夜は大きく息を吐きながら足を伸ばしてジャグジーバスに入っていた。
「お前さん、昨日からそればっかだなww、まあ、初日で任務に片が付いたが、それ以上にお前さんと嬢ちゃんの負担が大きかったのは知ってるぜ」
隣ではベンが並んでくつろいでいる。
「ほんとだよ全く。俺の初任務こんなに過酷なのおかしいだろ!」
「俺だって疲れたんだぞ、お前たちが戦いやすいように人除けの魔道具を設置しまくってたのは俺なんだかんな」
ベンは蓮夜たちが戦闘中、客船の中を走り回り人が無意識に近づかなくなる結界を張る魔道具を設置していた。そして、すごかったのは戦闘後の事だ。ベンが誰かに連絡し、すぐにリベラティオ・コロナのサポーターたちが到着し、客船の破壊された壁や床の修復をわずか一時間で完了させていた。
「疲れを癒すためにこの客船で残りの時間を過ごしていいって言われたけど、正直まだまだ緊張が抜け切れてない」
「はっはっは、お前もまだガキだな。こういうときゃ図太く楽しむんだよ」
ベンは生気の抜けた蓮夜の肩を叩いた。蓮夜はお湯を手ですくって顔にかけて、そのまま髪をかき上げる。
「そうだな、まだ五日もこの船でゆっくりできるんだもんな。てかこんなこと言うのもなんだけど、数日前は剣を向けてたお前と風呂に入ってんの、なんだか変だなあ」
「何をいまさら、それに言ったろ?俺は生に執着してるってな。生きるためならいつでもお前らを裏切るし、いくらでもお前らを助けてやる。ま、今のうちは慣れ合っていこうぜ」
「ベン、お前それ俺以外の奴に行ったら殺されるぞ」
「リベラティオ・コロナで信用してるのはお前だけだからいいんだよ」
そう言ってベンはまたケラケラと笑う。蓮夜は苦笑するとあることに気付いた。腹が減ったと。思えばこの船に乗って味を覚えている食事はほとんどない。原因は全てあのマッチョたちなのだが、濃すぎた初日によって昨日は一日眠っていた。その間、凛が蓮夜を看病していたのはここだけの話だ。
「なあベン、この後飯食いに行かねえか?」
「マッチョたちのとこか?」
意外な返答が帰ってきた。
「何だ知ってたのか」
「いや、腹が減った時に嬢ちゃんに店を聞いたんだが、マッチョには気をつけろだけ言ってお前の看病に戻っていったぜ」
「そんなことが…………」
蓮夜はベッドで目覚めた時に隣に居た凛の顔を思い出し、顔に熱が灯る。少し黙った蓮夜をベンは面白いものを見るように口角を上げる。蓮夜はそんな自分の顔を見られたくなくてジャグジーバスから上がる。
その後、少しだけビビるベンを引っ張って蓮夜と凛の意識を飛ばしたあのマッチョたちの元へ向かった。そして案の定、二人は最高の満足感のまま気絶した。
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