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リベラティオ・コロナ  作者: 白黒 猫助
31/39

初任務13 目的

 ~side凛~

 凛とセルバは箱が初めて現れたあのパーティー会場で向き合っていた。


「ここなら戦いやすい」

「それはこっちの台詞だろ。私の魔法は広い場所の方が使いやすい」

「では、最後の戦いへと行きましょうか」


 最初に動いたのは凛だった。今までと同様に二丁の六花に引き金を引く。魔法の弾幕を張り巡らせる。

 構えたセルバは、魔法が発動し完全に凍てつく前であれば対処の使用があるとこれまでの経験から導き出し、身体強化を施したその体ですべて捌こうとする。


「はああああああああああああ!」


 眼前に迫る魔法を手の甲や指で触れ、発動を誘発させる。凍り付くそばから体を逸らしたり引いたりして避けていく。しかし、凛が笑う。


「バンッ!」

「!?」


 凛が人差し指を立てしたり顔でセルバを見ていた。

 セルバの右手には風穴が開いていた。終始余裕の表情を浮かべていたセルバから冷汗が流れる。抑える右手からはとめどなく血が流れている。

 順調に魔法を捌いていたセルバだったが最後の一発に触れた時、魔法は発動せず本物の弾丸のように、高速で動く質量の攻撃力をそのままにセルバに手を貫通した。


「魔法は私の一部であり、この銃は杖だ。どんな攻撃を放つかは私が決める」

「ははは、これは一本取られました!こうして目に見えるダメージを負ったのはいつ振りでしょうか」

「知るかそんなもん。それ以上傷を増やしたくなければおとなしく拘束されろ」


 セルバが凛との距離を詰めようとする。もちろん迎撃を試みるがこの広い会場の空間ではセルバも自由に動き回られ、接近を許してしまう。


「言ったでしょう?私は戦闘が好きだと。圧勝などつまらない。降参などつまらない。引き分けなどつまらない。私は、血反吐を吐くような、ギリギリの戦いを、望んでいるのです!」


 セルバの目は煌々と狂気に輝き、いまこの状況を心の底から楽しんでいるように見える。

 どうやら凛はセルバの頭のネジを外してしまったらしい。セルバは凛に熱弁しながら、重く鋭い連打を凛に浴びせる。凛は若干引きながら冷静にセルバの攻撃を避けていた。


(こいつの動き並大抵の訓練じゃ身につかないほどレベルが高い。どんな修羅場を潜ってきたんだ?)


 酔った状態のときは体が思った通りにはほとんど動かなかった。しかし、通常の凛であればセルバに後れを取ることは無い。


「勝手に盛り上がってろ狂人が!」


 凛は足元に向けて発砲する。着弾した瞬間、凛とセルバの間に極太の氷柱が生成される。強引にセルバと距離を取った凛は加えてもう一発、生成した氷柱に向けて発砲する。


「うまく避けろよセルバ」

「んん?何を……」


 言いかけたところで氷柱に変化が生じる。六花の一撃を撃ち込まれた極太の氷柱は不自然なほどに粉々に砕ける。上を見上げるセルバの視界にはパーティー会場の照明の光が乱反射して極彩色に煌めく無数の氷が映し出されていた。


「………beautiful」

「咲き誇れ、グレイ・ローズガーデン!」


 凛が白い吐息とともに言葉を紡いだ瞬間、破壊され一つ一つが個となった氷たちが種となり、葉となり、(つぼみ)となった。


 そうして会場全体を氷の薔薇が蹂躙した。


 ・・・・・


「いやはや、まさかこれほどとは」


 凛の目の前には、茨のツタが全身に巻き付き、体にはその棘が至る所で貫通して完全に動きを封じられたセルバがいた。


「……お前の目的はなんだ?」

「目的……欲しい魔道具の入手、と言ったところですね」


 凛の問いかけにセルバはあっさりと答えた。セルバの答えに凛はピンとくるものがあった。


「『具現化の魔導書』か。お前が襲っていた元運び屋(ベン)が当初運んでいた魔道具の中に一つだけ別格の魔道具があった。それがお前の目的の物なんだろ?」


 ジルが「やっべぇヤツ」と形容したものが『具現化の魔導書』だった。その効果は読んで字のごとく具現化である。使用者の頭にあるイメージを魔導書が内包する魔力を使って具現するのだ。それだけでも強力なのだが、特質すべきはその内包する膨大な魔力量である。普通の魔法使いの魔力量を百として、ジルはその五倍。そんなジルがドン引きするほどの魔力がたった一冊の魔道具に込められているのだ。


「その魔道具を手に入れることはただの過程だろ。もっとその先、お前は何をしでかすつもりだ?」


 凛は六花を突き付けながらセルバを尋問していく。しかし、セルバの余裕の表情がどこまでも不気味で凛に焦りの感情を煽る。


「何をしでかすか、ですか。ふふ、別に私はそんな大層なことをやろうなんて思っていませんよ」

「何?」

「天使を作りたいのです。私は、その魔道具で!」


 セルバは突然目を見開いて、大きく掲げるようにそう言い放った。


「天使だとぉ?」

「ええ、そうですとも天使です。天使はいるのですこの世に!」

(ついに頭おかしくなったかコイツ……いや元からか)

「私の親はひどい人たちでして、暴力、暴言、食事もまともに与えてはもらえませんでした。さらには金が必要という事で私をどっかの家に売り飛ばされました。運悪くそこでも私の扱いはひどく、嬲り殺されそうになりました。……しかしそんな時、私の目の前に天使が現れたのです。眩しく、美しく、神々しく」


 セルバの視界には今、何が映っているのだろうか。目の前にいるはずの凛でさえセルバには見えていない。


「その天使を作って何がしたいんだ?縋りたいのか?」

「いいえ、殺したいのです」

「は?」


 凛の問いかけにセルバは即答する。そしてそのあまりにも予想外の答えに凛も虚を突かれたような顔になる。


「その後、親が二人とも死んだそうです。とても恐ろしかった。ずっと恐怖を抱いていました。私を嬲り殺層とした大人たちも天使によって一瞬のうちに惨殺されました。…恐怖はあった。しかし感動もした。この手でこれほど殺してみたい存在に会えたことに」


 セルバの目は何かに取り憑かれたようにどす黒く濁っていた。その狂気的な目に凛は息を呑む。


「イカれてるよ、お前」

「とっくの昔に人生狂ってますよ、喜ばしいことにね!」


 そうしてセルバは俯いてその顔に影を落とす。

 一拍置いてセルバの喉仏が上下に動くのが見えた。嚥下だ。


「それはそうと、何を勝った気でいるのですか?」

「待て、今何を飲み込んだ?」

「まだ心臓は動いています」

「いいから答えろ!!」

「こんな氷のツタ切れで私を拘束できると本気で思っていたんですか?…フンッ!」


 瞬間、けたたましい音とともに氷の薔薇園がオランダの涙のように砕け散った。


 

ここまで読んでくださりありがとうございます。

評価【☆☆☆☆☆】、いいねよろしくお願いします。

もっと面白い話が書けるように精進します!

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