荒野を駆ける3
「刀?」
蓮夜の手には、刀身が白く揺らめく美しい刀が握られていた。見る者を全てを魅せる魔力を秘めたようなその刀によって、不思議と蓮夜の体は突き動かされる。
「なんだ、これ?」
立ち上がろうと体に力を入れると、蓮夜の体がふわりと浮く。普通の蓮夜にこんな事はできない。ましてや疲労困憊な上に、初めて銃で撃ち抜かれた今の蓮夜では起き上がることすら難しいのだ。
あまりに素早く、あまりに自然に起き上がることができた。
(体、軽い。痛みもない。息も苦しくない。ジルの強化を受けた時みたいだ、でもなんか違う。)
そう、あまりにも自然なのだ。ジルからの魔法による付与とは違う。自分の身に起こった変化が一切の違和感もなく体に溶け込んでいくようであった。
(冷静だ、俺。………あ、弾飛んでくる)
蓮夜はスローモーションになった世界で、目で追えるほどの速さになった弾丸を見て思う。
「邪魔だな」
瞬間、蓮夜は一閃する。
爆発ともいえる風圧が生じ、砂ぼこりが舞い上がる。その砂ぼこりが目隠しとなって、武装集団からの攻撃が一旦止まる。そして、再び手に力を入れて、今度は地面を抉るようにして刀を振るう。
「よいしょっと」
小気味のいい掛け声とともに亀裂の入った地面に向かって強く踏み込み、ちょうど人ひとり隠れられそうな大きさに隆起させる。できる気はしていたが本当に隆起させてしまい、蓮夜は少し苦笑いをする。
蓮夜は隆起した地面の陰に隠れるように座り込む。
(冷静に考えて、こんな任務?だか何だので準備を怠るはずないし、弾切れなんて嘘だよな。どうして嘘ついたのか分らないけど、とりあえずこれが終わったらジルを一発ぶん殴ろう)
武装集団に突っ込むために、いつここから飛び出そうかと考えていた時に、インカムからジルの声が聞こえてくる。
「やあ、蓮夜くん数分ぶりだね、調子はすこぶる良さそうで何よりだよ」
「………お守り、ありがとうございました」
「うんうん」
「後でぶん殴ります」
「うんう、ん?……やめて、乱暴はやめて!!僕のきれいな体に傷をつけないで」
「………………………………………………ッチ」
「あ、ちょっと今舌打ちした?ねぇ聞いてる?無視すんなよぉ」
蓮夜は、いい加減鬱陶しくなってきたので、インカムを外して投げ捨てる。耳にあった違和感がなくなる。
蓮夜は一度深呼吸をして、目を閉じて静かに集中する。また孤独を感じるが、この孤独は心地が良い。自分から沈んでいった。孤独戦うと決意した孤独。孤独を殺す孤独。
「よし、行くぞ」
足に力を入れ、勢いよく相手の前に出る。今度は背を向けない。ただ前に、敵に向かってツッコむのみ。
一瞬の静止。そして互いに動き出す。
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