初任務10 第二ラウンド
蓮夜が回避したすぐ後、蓮夜がいた場所には無残にも大きくひび割れ破壊されていた。
蓮夜の背中がじとりと嫌な汗が流れる。乱れる呼吸を必死に整え、巻き上がる埃の向こうにいるゼンと同等かそれ以上の相手に意識を集中する。
(似てる。あの時と。隊長との模擬戦の最後の攻撃を受けた時とおんなじ気配。つまり、箱の能力者は隊長と同等かそれ以上ってことか?……結構ヤバくね、これ)
最悪なデジャブを感じながら自身のいた場所を再度見る。見るとパーティーの時に現れたあの箱が床を破壊してめり込んでいた。
次の攻撃に備えようとすると余計に刀を握る手に力が入る。力を抜いたほうがいいことは蓮夜自身も自覚しているが、それでも得体のしれない恐怖にどうしても思った通りに体が動いてくれないのである。
(箱の能力者はどんな力だ?ゼン隊長と同じ実力?…恐怖を覚えた?)
蓮夜が逡巡していると舞い上がった埃が晴れてきて箱の能力者の姿が見えてくる。
再び強烈な気配を感じて、ようやく体を動きだす。
どんな顔をしているのか。なぜあの時、人を殺してあんな注目されるようなことをしたのか。目的はなんだ。誰と通じているのか。果たして勝てるのか。
「は?」
そんな疑問は宙を舞う今の自分によって吹き飛ばされる。
~side凛~
凛はセルバの能力に手こずっていた。何かしらの能力による影響を受けているのだろうが、状態異常の種類が多すぎて何が何だか分からないでいた。
「あなたの攻撃、先程から当たっていませんが、どうしたのですか?」
「あーもう!白々しい!うるさい黙れ」
「あらら」
続けざまに発砲する。大半は当たらず、数発当たりそうな魔力弾は魔力で強化した肉体で簡単に防がれる。
「っく」
凛の視界がめまいで歪む。その一瞬の隙にセルバは凛との距離を詰めて回し蹴りを放つ。凛は横からくる衝撃を緩和するために左腕で防御するが、すさまじい衝撃に凛の体は壁に叩きつけられる。
「かはっ」
体がバウンドするタイミングでガラ空きとなった腹部にセルバが掌打を放つ。その掌打の威力に本能で察知し、強引に体を捻り回避しながらほぼゼロ距離となったセルバに六花を向ける。
「ブルーシャウト」
右手に持つ六花をセルバに向けて発砲する。発射された弾丸はセルバの胸に当たり、着弾した瞬間、氷が爆発的に増殖し、セルバの体を凍り付かせる。そして動きが止まったセルバの足元に衝撃が残る左手の六花で発砲する。
「ちょっと止まってろ」
床に着弾した魔力弾から電柱並みの氷柱が発生し、天井を破ってセルバを上の階へ弾き上げた。
壁に寄りかかって深呼吸をする凛。あのセルバがあの程度の拘束で長い時間動けなくなるとは思っていない。
こんな状況ではすぐに起き上がって次の行動に移した方がいいのだが、謎の状態異常で体が動かない。
(はぁくそ、体が動かない。何なんだよあいつ、魔法当たんねえし、私の体に打撃バンバン打ち込んでくるし、体めっちゃ痛い。……あーなんか、懐かしいな。訓練生時代に隊長やジルにボコボコにされてたなぁ確か。…………私ってこんな弱かったっけ?)
どんどん体に倦怠感がのしかかり、ずるずると膝を曲げて床に腰を下ろす。天井を見上げると、廊下に灯る照明が不思議と凛を落ち着かせる。
(ん?……なんで私こんな時に弱気になってるんだ?弱気になる時は酒に酔った時ぐらいしか……そうか、酔ってるんだ私)
辻褄が合った。頭痛、めまい、吐き気、感覚のズレ、そして弱気な自分。すべて酒に酔った時、さらには泥酔した時の自分の身に起こる症状なのだ。
酒を飲んでいない凛が酒に酔う状態に陥ることはあり得ない。つまり何かしらの能力による影響を受けているのだ。そして、能力を扱えるのはこの場においてセルバ以外にはありえない。
凛が能力について考えていると、氷柱全体にひびが入り、崩れていく氷柱とともにセルバが下りてくる。
「遅かったじゃねぇか」
「私はおそらくあなたの倍は生きていましてね、それほど長く生きていると自分が好きなものがより明確になっていくものですよ。無抵抗な貴方をいたぶっても何も面白くありません。やるなら、存分に戦いたいのですよ私は!」
「はっ、戦闘狂ってことかよ!その割には能力使って私の行動を阻害してたなぁ」
「あれは振るいにかけていたようなものですよ。本当なら私の『酒添』にあてられた者は気絶、最悪脳が麻痺して死に至るというのに貴方は酔っぱらうだけで済んでいる」
セルバは心底愉快そうに笑いながら凛を見る。今この瞬間、凛はセルバからの敵意が完全に無いことを感じていた。しかし、効果と原因が分かったところで凛にセルバの能力を対処する術はまだ無い。
ふらつきながら立ち上がり、はっきりとしない意識を無理矢理セルバに集中させて臨戦態勢に入る。
すると、セルバはパチンと指を鳴らした。
「あ?」
凛の体から状態異常が嘘のように消えていく。
「ここからは互いに本気で戦いましょう!」
「はぁ、むかつく。ずっっと手加減されていたなんてな!」
凛は一度、脱力するように上半身だけうなだれて、すぐに顔を持ち上げてストレスを払うかのように頭を左右に振る。ショートの髪の端が頭を振るごとにふわりと触れる。
「……ここからは、第二ラウンドだ!」
六花を構えた凛が不敵な笑みを浮かべながらセルバにそう言い放った。
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