初任務6
「これ、どうすんだよ?」モグモグ
「分かんねぇよ」
蓮夜の問いかけに凛はお手上げとでも言いたげな様子で返答する。
このパーティーの始まりの時間が近づくにつれて段々と人が増えていき、始まる頃には二人に想定以上の人数が会場に居た。人の波に圧倒されて二人は端の方へ追いやられていき、壁に寄りかかって会場全体を眺めていた。
目を離してはいけないベンもすでに見失ってしまっている。
「……」モグモグ
「……」
「……………」モグモグ
「いや食ってんじゃねえよ」
そんな状況にもかかわらず呑気に飯を頬張る蓮夜にイラっときた凛は無防備な蓮夜のすねを軽く蹴る。料理が運ばれてきてすぐに蓮夜は皿に山盛りの料理をのせて食べ続けている。
「だってようやく味の分かる飯にありつけるんだぜ?ただ満腹になっただけじゃ人間満足できないんだよ」
「確かに……一個くれ」
そう言って凛は素早い動きで蓮夜から一つ料理を奪い取り、口に運ぶ。
「あ、はしたないぞ凛!…………凛?」
料理を口にした凛は急に静かになりその場で立ち尽くす。その様子はまるで、
「…………はっ、蓮夜、今私何秒気絶してた?」
「うっそだろお前…」
あのマッチョたちの料理を口にした時のようだった。
「安心しろ三秒程度だ」
「こんな罠があったなんて」
凛はまた味を感じることが出来なかった。二人は蓮夜の手にある料理に恐怖を抱き、もったいないと思いつつも机の端にそっと置き、あの料理のことはもう忘れて任務に集中することにした。
「じゃあ私はあの密集地帯の中に行ってくるわ。仮にベンを見つけられなくてもこのパーティーの中ではいろんな取引が行われるはずだから何か情報が得られるかもしれない」
「分かった、俺は端から全体を観察してみる」
凛はうなずいて人は集中する中央付近へと消えていった。凛を見送った蓮夜は再び壁に寄りかかって全体を眺める。
「おや、やはりお会いしましたね」
知っている声が聞こえ、その方向に視線を向けると昼間に会ったあの執事がいた。
「あなたは」
「セルバと申します。あのお嬢さんは一緒ではないのですね、付いていなくて大丈夫なのですか?」
「ああ、俺は蓮夜です。そちらこそ主人に付いていなくていいんですか?」
「ご主人様は酔ってしまわれたみたいで、今はお部屋でお休みになられています」
「なるほど、こっちはまあ……諸事情で」
「……そうですか」
蓮夜ははぐらかすことにした。同じ会場にいるにもかかわらず一緒に居ないというのは流石に不自然だと思ったが、適当なことを言って逆に怪しまれても困るので曖昧な答えを返した。
セルバは笑顔を張り付けたまま返事をする。
その後、互いに当たり障りのない会話が続く。
(くそ、会話を終われない。任務に集中したいのに話のペースがおっさんに傾いててなかなか理由をつけて切り上げられない)
蓮夜は改めて目の前に広がる景色に目を向ける。横からの話しかけで集中力を欠くが見ることはできる。
そして、蓮夜は思った。
自分にとってこれらすべてが非日常であると。
リベラティオ・コロナに入ったことも、人と戦うことも、殺すこともまだ非日常。そして、こんな豪華な船の大きな会場に品の高い人間が大勢集まっているのも蓮夜にとっては非日常である。
逆に言えば、蓮夜にとっての非日常は、その場所その人々にとっては日常であると蓮夜は感じた。
だから、その大勢の人の隙間から見えたボーリング玉ほどの真っ黒な『箱』もその日常に該当するものだと思った。
「キャアアアアアアアアア!!」
「!」
女性の悲鳴が会場に響き渡ったのは、蓮夜がその箱を見たすぐ後の事だった。
何事かと身構えていると、人の波の中から凛が走ってきた。
「蓮夜、能力者だ!私が会場の中央付近のいた時に急に突然箱が出現して中に入っていた人の首を床に落として消えた。私はあの箱は能力者の力だと考えてる」
会場がパニックに陥る中、凛の声はよく聞こえた。蓮夜も箱を認識していたため凛の言ったことを理解するのに時間はかからなかった。
「箱の能力者が今回のターゲットなのかカンケー無いのか全く分からない。情報がない状態で動きたくはない、でも死者が出てる。私はベンの部屋に行ってくる。お前はこの会場に残っている箱の魔力を追ってくれ」
「分かった。凛、気を付けて!」
「!……分かってるよ」
凛は一瞬目を見開いて、一拍置いて僅かに笑って見せた。
その後、一人残った蓮夜は箱が出現した中央付近に寄り、ジルの魔力の扱い方の説明を思い出して集中する。足元には男の首が転がっている。
「……………!これだ」
魔力を感じられるようになった蓮夜の視界には魔力がその一点に濃く集中し、そこからうっすらと細い魔力が流れているように見えている。
(魔力の残滓が見えた。あとはこれをたどっていけば能力者にたどり着くかもしれない…………何か忘れているような)
~ベンside~
パーティーが始まった直後、人の視界が一番散漫になり一番注目が集まらないタイミングで取引相手と接触していた。
ベンと話しているのは、身長が高く肩幅が広い男と眼鏡をかけた細身の男の二人。眼鏡をかけた男が中心に話しているため大方、もう一方はボディーガードといったところだろう。
「今すぐに?」
「ああ、頼む」
ベンは困った。想定していたよりも人数が多く、ベンも蓮夜たちを見失っていた。ベンの方から見つけられなくても最低三十分は会場にいるつもりだったのだが、「今すぐに」と言われて変に時間を稼いでいると怪しまれてしまう。
おそらく目の前の男たちは能力者である。非能力者であるベンは太刀打ちできない。
仕方なくダミーのある自分の部屋に二人を案内した。
「さあ、早く魔道具を渡せ!」
部屋に入るや否や大柄の方の男が命令口調で取引を迫ってきた。いや取引と呼べるほどきれいな状況ではない。
「分かってる!魔道具は渡す、だが金が先だ」
「いや、魔道具が先だ」
ベンは若い頃、そういわれて魔道具を一方的に奪われたことがあった。元運び屋としてそこは譲れないところであり、蓮夜たちが気づくまでの時間稼ぎの意味も込めて、ベンは一歩も退かない気でいた。
金だ、魔道具だと言い合っていると眼鏡の男が静止をかけ口を開いた。
「金はすぐに用意できない。こっちも依頼主から急に言われたのです、私たちはただの仲介人ですから、あなたも上や依頼主は大事にしたいでしょう?」
「……」
ベンは黙って男を見た。男たちが金を持っていても、いなくても今は先に出す気は無いという事を確定づけるような発言。いつもならベンももっと粘るのだが今回は何も準備できていないのでこれ以上同じことを繰り返すのも不自然になってしまう。
沈黙が流れる。ベンは何と答えたものかと考える。男たちはベンの答えを待っている。
「……じゃあ」
ようやくベンが沈黙を破ろうとしたその瞬間、
ジリリリリリリリリッ!!
廊下側から非常用の警報器が鳴り響く。
「何事です?」
眼鏡の男が怒り交じりに静かに警報器の音に反応する。眼鏡の男の声にあるものが返答した。
「外は、大変なことになっているみたいですよ」
三人の視線がその者に集まる。そこには薄気味悪い笑みを張り付けた執事服を着た男が立っていた。
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