初任務4
前回の投稿から期間が開いてしまいました。
申し訳ありません。
結論から言うと、凛も気絶しながら完食した。
凛に奢れと言われたため蓮夜はあのマッチョたちの店に凛を連れて行った。最初は、「肉しかない!」とか「絶対大味」とか「うるさい」とか散々文句を言っていた凛だったが、料理を一口食べた瞬間に目を見開いたかと思えば丼が空になるまで無言で箸を進めていた。
食べ終えた後も気絶したままで蓮夜の呼びかけにも全く反応しなかったため、仕方なく会計を済ませ凛を背に乗せて店を出た。
「…………はっ」
店を出たところで凛の意識が戻ってきた。それを確認した蓮夜は凛を降ろすと、凛は店に居た記憶が最後だったためなぜ自分が店の外にいるのか分からずこの状況が飲み込めないでいる。
「うまかったか?」
蓮夜がそう言うと凛は首をかしげる。
「うまかったかって、何言ってんだよ?まだ何も食べて……いや、何だこの満足感は、それにお腹いっぱいにもなってる」
凛は身に覚えがない満足感に目をぱちくりさせている。事の顛末をすべて知っている蓮夜にはそんな凛の様子がたまらなく面白い。
「おい、蓮夜、どういうことだ?」
「どうもこうも、あのマッチョたちの料理が美味すぎて気絶しながら完食しただけだぞ」
「嘘だろ……」
「マジだ」
凛は恐る恐る振り向くとマッチョたちが店の奥で親指を立てながら白い歯を見せて蓮夜たちを見送っていた。それを見た凛は「ひっ」と、小さく悲鳴を上げて顔を青くしながら逃げるように歩き出した。
「おーい、そんなにふらふらしながら歩くと危ないぞ」
「…………………」ブツブツ
凛は知らぬ間に平らげた謎ウマ料理へに恐怖心と、その料理に満たされてしまった自分との葛藤に頭を抱えていた。前が見えていないのかふらふらと左右に揺れている歩いている。
凛の素の口調や雰囲気を知ってしまった蓮夜から見れば、少し弱弱しい今の姿とのギャップにときめいてしまう。
(これがギャップ萌えというやつか)
などと思っていると、正面右の曲がり角から人の気配を感じ凛の近くに寄った。凛が気づかないままぶつかる可能性があるからだ。
「うまかった?うまかったよな?でも味覚えてない……でも、お腹いっぱい、なぜ?」
案の定、凛はまだ自分の世界から抜け出せないでいた。
蓮夜は凛の肩に手をまわして軽く自分の方へ寄せる。
「きゃっ」
「おっと」
凛と曲がり角の奥に居た男は驚いたような声を上げる。そして互いにその存在を認識し、危うくぶつかりそうになっていたことに気付く。
「あっ、ごめんなさい。私まったく周りを見ていませんでした」
「こちらこそ、気付かずにそのままぶつかってしまうところでした。申し訳ございません」
二人は互いに謝罪をする。
男は蓮夜の身長よりも少し高いだろうか。体の線は細いがまっすぐに伸びた背筋とブレない体感が備わったいるように感じられて、ただ細いだけではないとすぐに分かる。
燕尾服に身を包んでいる。誰かに仕える執事なのだろう。
「失礼ですが、もしかして酔ってらっしゃいますか?」
執事の男は唐突にそんなことを聞いてきた。ふらふらとしていた凛は確かに酔っているように見えた。凛は先程に自分の姿を思い出し顔を赤くしながら反論する。
「よ、酔っていません!ただ前を見ていなかっただけですので」
「おや、そうでしたか。私の周りにはそのような方が多いので勘違いをしてしまいました」
凛は何とか笑って「そうですか」と言ってそこで会話が終了した。それぞれ挨拶を交わし、また歩き出した。そして男の姿が見えなくなったところで凛が口を開く。
「あのおっさん、また会うかもな」
(切り替えはや)
「そりゃどうして?」
「今夜、この船の中で開催される社長や財閥の代表たちのパーティーに私たちも参加するからだ。あのおっさんもどこかの金持ちの執事ならそのパーティーには参加するだろうからな」
「待って聞いてないんだけど」
「だって今言ったし」
「何でもっと早く言わなかったんだ?」
「…………吸いたかったから」
「おい」
凛は目をそらして言った。これには蓮夜も思わず突っ込んでしまう。
部屋の前にたどり着くとまた凛はその先にある自分の部屋に向かうのかと思いきや、そのまま蓮夜が鍵を開けるのを待っていた。
「何してんの?」
「いいから開けろ、そして入らせろ」
(どういうことだってばよ?要件も言わずに入らせろなんて……まさか!、『自主規制』とか『自主規制』とか!?…………いや無いな)
蓮夜の心は思春期男子である。
すぐさま冷静になり、部屋の鍵を開け凛を部屋に入れる。自身の部屋に異性がいるという状況に蓮夜の心はうるさくなる。
「それで要件はなんだ?予定まではまだ時間あるし」
「作戦会議だ。と言っても今後の予定と私たちの戦闘能力の情報交換だけだが」
「なるほど」
そして凛は蓮夜が使うはずのベッドにどっかりと座って、人差し指を立てて話す。
「じゃあまず今後の予定だが、一つ目は今夜行われるパーティーの参加だ。そこでベンが依頼関係者と接触するらしいから私たちはその関係者を確認する」
「捕まえないのか?」
「馬鹿か、普通の一般人もいる中で暴れることなんてできないだろ」
「そりゃそうか」
次に中指を立てて続ける。
「二つ目、その後日にベンがそいつらと偽の取引をしている時に私たちが叩く」
「オーケー」
「ベンから後で大まかな情報が伝えられるらしいから、それまではいつ戦闘が起こってもいいように準備する」
「やっぱり戦闘はするのか?」
「一瞬で制圧できるならそれが一番いいんだが、そいつらもこっちの世界の人間だ。能力を持ってたっておかしくない。だから今からお互いの戦闘能力を把握しあうぞ」
蓮夜は無言でうなずく。
(あれどんな力なのか自分でも把握してないんだけど)
「じゃあ私から」
そう言って組んでいた足を組み替えて、凛は自分の力について説明し始める。
「まず私の能力『氷魔法』から。この能力は体内の魔力を使って氷を生成する力だ」
凛は説明しながら、右手の手のひらを天井に向けて魔法を発動する。すると手のひらから淡い水色の光の玉が出てきたかと思えば、それは一瞬で氷でできた薔薇に変わる。
「私はイメージで何でも作り出すことが出来るんだ。イメージが強いほど硬さや威力が変わる」
魔法らしい魔法を初めて見た蓮夜は凛が作った薔薇を目を輝かせながら見ている。しかしここである疑問が生じる。
「でも、俺が初めて魔法のことを知った時、必要な量の魔力があればいろんな現象を再現できるなんていう風に説明されたけど、凛は氷魔法だけなのか?」
蓮夜の何気ない一言に凛はピクリと反応し、とてつもなく不機嫌な表情になる。
「私、『氷魔法だけ』って言われるの一番嫌いなんだけど」
どうやら凛の地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「い、いやすまん!凛の氷魔法がずば抜けているっていうのが分かったから、ほかの魔法も使えるのか気になって」
「基本の身体強化しか使えませんが、なにか?」
「あー、いやその、それだけでこのリベラティオ・コロナの隊員になれるなんてすごいっスネ」
「…………」
「ア、ハハハ……」
凛の機嫌を直したい一心で頭をフル稼働させて言葉を続けるが、どんどん墓穴を掘っているようで蓮夜は焦ってくる。
「………はは、冗談だよ。やられっぱなしは癪だったからその仕返しだよ。……それでさっきの答えなんだけど、私のように一つしか属性を扱えない能力者っていうのもいるんだよ」
「……ハンデにならないかそれ?」
「確かに戦闘の幅は多属性を操るやつに分があるけど、私のように一つしか操れない奴はその魔法の練度が高くなる。例えば、私は今みたいに一瞬で薔薇を作り出せたけど、多属性の奴はできて氷の塊を作り出せる程度」
「結構差があるな」
「だろ?だからあたしはハンデとは感じない」
本当に一瞬だった。それだけの技術を習得するためには時間がかかるだろうが、それを簡単にこなしてしまうあたり凛の氷魔法の恩恵は大きいのだろう。
「まあでも、戦闘中私は氷を造形するなんて戦いはしないんだけどな」
「じゃあどうやって…」
蓮夜が言い終わる前に凛が嵌めているブレスレットの赤い宝石から光の繊維が出てきて右手に集束する。光の繊維はやがて形を変え、徐々に光が消えていく。
凛の右手にはそこにあるだけで冷気が漂うような銀色の拳銃が握られていた。
「私はこの『六花』で戦う」
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