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リベラティオ・コロナ  作者: 白黒 猫助
20/39

初任務2

 筋肉が迸る。


「ん、むううぅぅぅん!」


 まぶしいマッチョたちが一つの作品を創り上げるために肉体を躍動させる。それはさながら空を舞う蝶のように鮮やかで、


「おらあぁぁぁぁぁあ!」


 それでいて大地に君臨する猛獣のように荒々しい。およそ人間一人では到底言い表すことの出来ない美しさを孕んだ目の前の光景に、


「ッ!やああああああああああああああああ!!!」


 蓮夜は涙を流した。

 そして、蓮夜の目の前には光り輝いていると錯覚してしまうほどの作品(料理)が置かれていた。


「お待ちどう!ガチムチマッチョ特製、スーパープロテイン丼です!」

「「「パワアアアアアアアアアア!!」」」


 建物が揺れるほどの声量でマッチョたちが叫ぶ。完璧に仕事を遂行したマッチョたちの体をいくつもの水滴が流れ落ちる。肩で息をしながら絶えず白い歯を見せながら蓮夜に笑いかけている。

 そんな彼らの芸術とも言えるそれをしかと目に焼き付けながら蓮夜は料理を受け取って、誰もいない店内の席に腰掛ける。そして未だ涙が流れている目を隠すように頭を抱え、小さく呟く。


「………………………ここまで来てしまった。

(豪華客船のレストランの中で一つだけこんな異質な店があったらそりゃ気になるだろ。店の名前、『マッスルパピー(筋肉の仔犬)』だし、てか意味わからん。異質すぎて客全然来てないじゃん!客が来なくて仕事できなくて、捨てられた子犬みたいな顔になってる黒光りするマッチョたちがいたら気にならない訳ないだろ。注文したら急に元気を取り戻すし、体が一・五倍くらいに膨らむし、調理うまいし、感動するし…………感情がバグる!!)


 蓮夜は静かにうるさかった。

 席に座って改めて輝く料理を見る。スーパープロテイン丼。見た目は完全に焼き肉丼だが、今の蓮夜になら分かる。この丼にはあのマッチョたちの愛と情熱とマッスルが詰まっている。

 うまくないはずがない。と、


(いざ、実食!)


 箸を手に取り、にじみ出る唾液を呑み込み喉を鳴らす。箸で持ったそれは依然としてその輝きを保っていた。そうして蓮夜は一口目を口に運んだ。


「あむ……っ!うm」


 そこからの記憶が蓮夜には一切残っていなかった。そして気が付けば、いつの間にか空になった丼の前で手を合わせていた。


「ん?プロテイン丼は!?さっきまで肉が山盛りに積まれていたはずなのに」


 動揺する蓮夜は途中である違和感に気づく。


「いや、満腹感がある。……まさか、あまりのおいしさに気絶しながら全部食ったのか!?」


 蓮夜は恐る恐る振り向くとそこには親指を立てながら白い歯を輝かせる黒光りしたマッチョたちが蓮夜のほうを見ていた。


(恐るべしプロテイン丼、恐るべしマッチョ……)


「正直、気絶していて味わかんなかったな」


 飲食店のエリアを後にした蓮夜は外の広いデッキに来ていた。見渡す限りの海。天気は晴天。海の青さが一層際立っている。なかなかこんな景色を拝む機会は訪れないと思い、蓮夜は辺りを歩き回ってみることにした。


「まあ、どこ歩いても景色は変わらないんだけどな……ん?」


 歩いていると前方から知っている顔が近づいてきた。


「よう、蓮夜。調子はどうだい?」

「……良くないと言えば良くないが、悪くないと言えば悪くない。だからお前の質問の答えは、『不思議』だ、ベン」

「なんじゃそりゃ」


 蓮夜の頭にこびりつくマッチョたちとの思い出によって飯を食べたことによる調子の改善が阻害されて、蓮夜の調子は絶妙に良くならないのだ。

 蓮夜の曖昧な答えに透かし困った表情を見せたベンだったが、すぐに落ち着いた様子に戻り、会話をしようとする。蓮夜にとってはベンはまだ、苦手意識を払拭することが出来ていない相手なのでどうしたものかと少し緊張している。


「すげぇよな、この船。俺始めて乗ったん」

「どうして、お前はリベラティオ・コロナに入ったんだ?」


 蓮夜はベンの話を遮って、無理矢理質問した。ベンは一瞬こちらを見たがすぐに海のほうへ視線を戻して躊躇うことなく話し始めた。


「死にたくないからさ」

「……」

「少しは聞いているだろ?魔法や能力といったものの存在を知ってしまった人間が裏の世界で生きていくのは常に命懸けだ。小さなミスでも、その理不尽な力で簡単に命を刈り取られてしまう。お前がやったように、そりゃ簡単に……」


 ベンは蓮夜と初めて対峙したあの時のことを思い出していた。それを聞く蓮夜の手がわずかに震える。


「俺たちのような人間は大抵、まともな育ちはしてない。俺は、明日生きれるかも分からないようなスラムで育った。盗み、殺しは当たり前。血のつながった親でさえ俺を殺そうとしていた。…でも俺は生きたかった。たまに捨てられている新聞なんかを読むと分かるんだ。この世界は広い俺たちのような世界があれば、働けて最低限生きていける世界もある」

「憧れたのか?その世界に」

「憧れというか野望?かな、一度でいいからそんな世界の生活を謳歌するってね。それで新聞や落ちてる本なんかで勉強して商売をしていた時に、魔道具運びに手を出した。持ったこともないような金が手に入って震えたよ」

「……」

「お前が切った連中もそのほとんどが生に執着するあまり、この危ない橋を渡った連中だ。仕方ないことだ。……だから、俺たちは生きれるチャンスがあれば貪欲にしがみつく。それにここで働いたほうが死ぬリスクは少ないに決まってる」


 話し始めは重い雰囲気で始まったが、話していく中で段々とベンの生への渇望が垣間見える。


「簡単なことさ、俺たちは死にたくないからな!」


 最後、ベンは力強く言葉を紡ぎ、笑って見せた。そんなベンの姿に蓮夜は感動を覚え、この男を認めようとしている自分を自覚した。


「そうか、分かった。ベン、俺はまだお前を認められないかもしれない。だけど、」

「待った」


 今度はベンが蓮夜の言葉を止めた。


「俺たちはついこの前まで敵同士だった。俺だってまだお前への恐怖心は少しだけある。だからお互いに心の底から認め合った時、その言葉の続きを聞かせてくれ」

「………分かった」


 蓮夜はベンの言葉に深く頷いた。

 二人の間に不吉なフラグが立った気もするが、新たな決意を胸にした二人は一切気づかないのであった。


 

ここまで読んでくださりありがとうございます。

自分のペースで投稿していきますので、気長にお待ちください。

是非とも評価、いいね、感想をいただければ嬉しいです。

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