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リベラティオ・コロナ  作者: 白黒 猫助
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荒野を駆ける2

「あれが今回のターゲットだよ!」


 蓮夜とジルは荒野の丘の上から双眼鏡で遠くを走る大型の輸送車を見ていた。車が引くコンテナの上には銃を持つ男たちが座っている。それを見て、蓮夜は何となくジルの言っていたことを察してしまう。


「まさか走るって、あいつらから逃げ回ることだなんて言わないですよね?」

「大正解!今の蓮夜君の体なら大丈夫だよ」

「無理無理無理、無理ですよ!初めて会った時から頭おかしいと思ってましたが………まさかここまでイカれてるとは」


 蓮夜は信じられないもの見るようにジルを見る。それを見たジルがすかさずツッコむ。


「ちょっと待て、僕は頭はおかしいがイカれてはいない」

「一緒でしょ!」

「お、喧嘩か?いいぜ、買い取ってお前名義でどこの馬の骨かもわからん奴に売りさばいてやる」

(この人面倒くさすぎる)


 あまりのウザさに蓮夜はジルとの会話を諦める。そんなことよりも今は目の前のピンチに目を向ける。これからあの武装集団からの攻撃を、ジルが何とかするまで逃げ続けなければならない。蓮夜は、捨て駒のような役割に怒りを覚えるが、一番は恐怖があった。

 蓮夜がわずかに震えていると、


「ほんとに大丈夫、僕が君に魔法をかけてあげるから」


 ジルが突然そんなことを言い出した。


「こんな荒野で俺のシンデレラストーリーの第一歩目を踏み出したくないんですけど」

「誰もシンデレラになれなんて言ってねぇ、よっ!」


 そう言ってジルは、蓮夜の背中をバシッと叩く。そして叩かれた瞬間、蓮夜の体は翼が生えたように軽くなり、頭がクリアになる。さらに高揚感が湧き出て先ほどまでの恐怖が消えていく。蓮夜が自分の変化に驚いていると、ジルがポケットから人の爪ほどの大きさの赤い宝石に穴をあけて紐を通した簡素な首飾りを取り出して、蓮夜に投げ渡す。


「これは?」

「お守りだよ。君が死なないためのね」

「はぁ、お守り」

「よし、そろそろウチのサポーターたちが仕掛けた罠に、奴らが嵌まる頃だ、そおら行ってこい!」


 ジルが蓮夜の背中を強く押す。蓮夜は転がるようにして丘から落ちる。

 そして、ここから地獄のランニングが始まるのだった。


 ~現在~

(駄目だ、ジルさんに振り回されてばかりで原因らしい原因は思いつかない。気になる事もあるけど、はぐらかされたり、スルーされる。二百年後とか、「君たち」とかいろいろと聞きたいことがあるのに)


 ジルが狙撃を初めておよそ十分、巣をつついた蜂のようにわんさかいた武装集団は両手で数えるほどまでに減った。輸送車もサポーターの罠によって炎上し、逃げることができていない。


(もうすぐこの地獄から解放される)

「あ、弾切れた」


 希望の光は泥沼に沈んでいった。


「ちょ、ちょっとジルさん!?それどういう」

「あー………うん、あとは任せた!」

「え、ジルさん、ジルさん!…切りやがった!?」


 インカムからジルの声が消える。蓮夜は最大の絶望を覚える。この荒野で初めて孤独を感じる。

 蓮夜の限界を超えた体を支えていたのは、気力と狙撃の頼もしさだった。それがない今、気力だけではこの体を支えることはできない。それでも、蓮夜は死にたくないという一心で足を動かしていたが、


「ぐっ!?があぁ!!」


 蓮夜の左肩に鋭い痛みととてつもない衝撃が襲う。その拍子に足がもつれてその場に倒れこんでしまう。

 蓮夜は歯を食いしばり、右手で左肩を押さえる。その右手はどろりとした湿り気を帯びる。震える手を見ると血で真っ赤に染まっていた。


「うっ、おえ」


 体力の限界を超えた体と、多量の出血によるパニックで蓮夜は強烈な吐き気に襲われる。しかし、何も食べていない蓮夜からは透明な液体しか出てこない。その液体が通ってきた食道はじんじんと痛みが残る。


「うっ、はあ、はぁ………死に、たく…ない」


 痛みと恐怖と疲労で体が痺れてくる。誰かに伝える訳でもなく、生きることへの渇望を零す。


『お守りだよ、君が死なないためのね』

(何がお守りだよ、めちゃくちゃ死にそうになってんじゃん、俺)


 頭上を飛んでいく弾丸の音を聞きながらジルの言葉を思い出して、自嘲気味に笑う。うつ伏せの状態から何とかあお向けになり、ポケットに手を突っ込む。

 綺麗だった。手に取った首飾りを取り出す。赤い宝石は、穢れを知らない純粋無垢。ただ勝手気ままにその美しさを蓮夜に振りかざしてくる。

 血で汚れ、砂ぼこりをかぶり、惨めに荒野を転がっている自分とはあまりにもかけ離れている物であると感じ、宝石とこれを渡してきたジルに腹が立ってくる。


「お守りなら、名前の通りに俺を、守れよ!」


 理不尽な感情を首飾りにぶつける。そして、首飾り投げ捨てようと強く握りしめる。


「…っ、アツッ!?」


 握りしめた瞬間、宝石が熱を帯び、発光し始める。蓮夜は反射的に離そうとしたが、それをしてはいけない気がして、暑さに耐えて握りしめる。

 変化があったのはその数秒後だった。


「これは…」


 宝石から光の繊維が放出され、蓮夜の手に集束する。集束した光の繊維は細長く伸びる。それはあるものを形作り、それを見た蓮夜に懐かしさを覚える。


「刀?」


 蓮夜の手に刀が握られていた。



 



 



 


 

ここまで読んでくださりありがとうございます。


ぜひともこの作品の評価をして頂きたいです!


よろしくお願いします。

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