最初の晩餐
三時間ほど眠った後、蓮夜は空腹を感じて目を覚ました。そういえば昼食を食べてないことに思い出し、それを自覚した瞬間に蓮夜の腹の虫が大きく主張してくる。
時間は午後の六時ほど、大体この時間に食事が提供されていたがもう正式にリベラティオ・コロナに入隊した蓮夜は客人として扱われない。凛からこの建物内ではカードを使えば何でも買い物ができると言われたことを思い出し、腹を満たすために外に出ることにした。
「「あ」」
扉を開けると正面の扉も開いて、その部屋を使っている住人と対面することになる。そして互いに顔を見合わせ、蓮夜はげんなりした顔になり、対象に相手は顔をほころばせる。
「あれー、蓮夜くん今からごはん?なら僕と一緒に行こう!」
「別にいいけど、今日はもうお前のテンションには付いて行けないからなジル」
「あーうん、いいよ。僕もごはんは静かに食べたいし」
「は?お前が?冗談だろ」
「流石にキレるぞ、僕だって」
そうしてジルと軽口をたたきあう蓮夜は、ジルと一緒にレストランへ向かった。
「何だこの店の数」
蓮夜は目の前に広がる光景に口を開けずにはいられなかった。
蓮夜がまず驚いたのが、その店の量である。部隊のフロアのような廊下に部屋が等間隔に構造あるではなく、建物内のフロアが丸々店が立ち並ぶ構造となっていて、ショッピングモールのような光景が広がっていた。かなりの人数が集まっており賑わっているのを見て蓮夜は少しテンションが上がる。
「すごいっしょ!このフロア全部がこんな感じなんだよ」
「確かにすごい」
腹が減っていたため真っ先に目に飛び込んできたのは飲食店のエリアだったが、ほかにもエリアが分かれているようで服や生活用品なんかも揃えられるようだ。
「今日はどこにしよっかな、蓮夜くんは何食べたい?」
「俺は何でも」
「それが一番困るんだけど、じゃああそこに行こう!」
と、行く店を決めたジルは歩き出し、蓮夜もそれに続いた。
そして、ジルに連れられ大きく【麵屋・寿】と書かれた店の前で止まった。このフロアの多くの店が近未来的な外装が目立つが、この寿は少し古臭い雰囲気を漂わせる少し異質な店だった。
蓮夜がその異質さに圧倒されていると、ジルは気にすることなくガラス扉をガラガラと音を立てながら開ける。
「おっちゃーん!飯食いに来たー!」
「おう、ジルか!、っと、今日は連れもいるみてぇだな」
「そうそう、期待の新人!」
店に入ると、タオルを頭に巻いた男が湯気が立ち上る鍋を並べて立っていた。見た感じでは、蓮夜がこれまで会ってきたどの人物よりも年を重ねているように見える。
「紬蓮夜です」
「おう、俺のことは気軽におっちゃんでい会って」
「おっちゃん、いつもの二つ」
「まかせな!」
ジルがメニューを見ずにいきなり注文するが、いつもの事なのかおっちゃんもジルが入ってきた時点で調理の準備を始めていた。
「何頼んだんだよ?」
「ラーメン」
「ラーメン?」
聞きなれない単語に思わず繰り返してしまう。すると、ジルが見たこともない表情をして驚いてから、少ししてすぐに納得したように頷いた。置いてけぼりな蓮夜は不服そうな顔を浮かべるとジルが口を開く。
「ラーメン知らないなんて人生損してるって言おうとしたけど、そうだよね、蓮夜くん記憶無い設定だったよね」
「設定とか言うな、ホントに覚えてないんだから」
「はいはい、まぁ来てからのお楽しみってことで」
ジルと時間を潰しながら店内を見まわしてみると蓮夜とジル以外には客が居なく、繁盛していないように思えるがジルによると客のピークはもっと遅い時間帯だという。
一体どんな料理が出てくるのかと、ソワソワしていると店主が盛り付けられた器を二人に差し出してきた。黄金色のスープの中に綺麗に揃った麺、短冊型に切られたメンマ、分厚い肉が盛り付けられている。さらに、ネギや海苔が添えられている器はさながら一つの芸術品のようである。スープの香りが鼻孔をくすぐり蓮夜の口の中がジワリと唾液で濡れる。
「さあ、君の初任務前の最初の晩餐だ。おごってやるから存分に食え!」
ジルが気持ちのいい笑顔を浮かべながら割り箸を割ってラーメンを啜り始める。それを見て蓮夜の我慢も限界を迎え、その一つの芸術品に自分の欲望をぶつける。
「「うまい!!」」
その日、蓮夜が食べたラーメンの味を蓮夜は一生忘れないだろう。
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今回の回を書いてるときに無性にラーメン食べたくなりました。