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リベラティオ・コロナ  作者: 白黒 猫助
14/39

蓮夜VSゼン決着

 瞬間、蓮夜はすさまじい衝撃とともに壁に叩きつけられていた。


「がはっ!?」

(何が起きた!?……蹴りか?拳か?どっちにしたって今までより早くなるとかチートだろ、いやそうじゃない!立て、今すぐ立て!次に備えろ………………………諦めるな!!)


 叩きつけられた衝撃で体に力が入らず、何とか息を吸おうとするが肺に酸素が届かない。片膝をついてゼンのほうへ視線を飛ばすと、また武器が変わっていた。


(今度は弓かよ!?)


 ゼンは弦を引き絞った状態で蓮夜が立ち上がるのを待っている。本物の戦場なら今頃、射殺されて終わっていた。

 蓮夜はようやくまともに空気を吸えるようになり、体に鞭を撃つように立ち上がる。


「はぁ、はっあぁ、はぁ…………ふぅぅう、強すぎます」

「あはは、よく言われる。さあ、もうちょっと頑張ってみよう!」


 ゼンは終始蓮夜への教育を行っているような様子で戦っている。おそらくゼンが本気で蓮夜を叩き潰そうとすれば、十秒も掛からないだろう。そんな実力差を前に蓮夜は半分諦め、胸を借りるつもりで全力で叩きのめされよう、と。そう思って刀を構えた。


「行きます」

「来な」ニコッ


 ゼンは少し怖い笑みを浮かべる。しかしそれ以上に恐怖を覚えたのは、蓮夜に向けられたあの矢だ。

 時間が経つほどにその存在感は増していった。重さ、強さ、殺傷性。その矢に秘められた魔力は言い表せない恐怖を蓮夜に与えた。

 蓮夜はゼンの一射に集中する。


「一射千殺」


 ゼンは放った。一射で千の命を刈り取る鮮血の矢の雨を。


「っ!?…クッソがぁ!!」


 『点』ではなく『面』で襲い掛かる矢の雨を今の蓮夜で防ぐことはできない。蓮夜はすぐさま刀の力を全開放する。これまで以上に万能感が溢れ出て、荒野で弾丸を捌いた時のように視界がスローモーションになる。


(今はこの万能感に浸っている余裕はない。気合い入れろ!捌かなければ人生終了だ)

「はあああああああああああああぁぁぁぁ!!」


 蓮夜は叫ぶ。

 スローモーションになった世界で自分に当たる矢をすべて切り落としていく。最適な角度で、最速で対処できるように、寸分の狂いもなく刀を振るえるように、視覚と触覚に全神経を集中して迫りくる「死」の情報を脳で処理していく。

 ゼンも流石に突っ込んでくるとは思ってもいなかったため、思わず笑ってしまう。


「恐ろしいね、若いって」


 そう言って二の矢を放つ。端で観戦しているジルと凛はあまりの容赦のなさに少しだけ引きつった笑みを浮かべる。

 鬼気迫る勢いで刀を振るう蓮夜の目の前に第二の『面』が迫る。


嵐点(らんてん)!」


 蓮夜は刀ではなく自身の体に魔力を込める。第一の『面』を捌いた時とは比にならないほどの速度で刀を振れるようになる。一切体力面を考慮せずにゼンへと突き進む蓮夜。

 終わりが近い。全員がそう思った。蓮夜自身もそれを分かり切っているため力をセーブすることを頭から捨て去った。


「ここに来てまだ強くなるだなんておじさん嫉妬しちゃうなぁ、…ならこれはどうかね?」


 と、呟いたゼンはジャケットに手を入れて投槍(ジャベリン)を生成したように試験管を取り出して蓮夜のほうに投げる。

 蓮夜は矢の雨を対処することに集中しすぎて、ゼンのつぶやきも試験管の存在にも気づいていない。


「らああああ!!」


 何とか矢の雨を抜け出すことが出来た。まだ万能感は続いているが想像以上に体力を消費してしまい足が動かなくなる。何とか呼吸しながら次の敵の攻撃に備える。


 パリンッ


 不意にガラスの割れる音が蓮夜の耳に届く。音の方向に視線を向けると割れた試験官がそこにあり、中の赤い液体が地面に流れていた。

 それがゼンの血であることはすぐに分かった。しかし、不思議なことに蓮夜はなぜかその血から目が離せないでいるのだから。


「はぁ、はぁ……」


  否、離すことを蓮夜自身が許さないのである。それだけに集中して、来たるその瞬間を全力で回避するために視線を離すことを蓮夜自身が許さないのである。

 心臓がうるさい。


「っ!!」


 瞬間、蓮夜は全力で地を蹴り横に飛ぶ。着地だとか次のことだとか、そんなことは置いておいて本能に従って全力で逃げる。

 一泊遅れて蓮夜の背後からバキバキバキとけたたましい音が鳴り響く。蓮夜は倒れこみながら「それ」から距離を取るように転がる。

 止まった後、息をするのも忘れて振り返ると、そこには敵を刺し殺そうと天井付近まで伸びる赤黒い血の剣の山がそびえ立っていた。


「………………………」


 蓮夜が言葉を失っていると、肩に槍の切っ先を置かれ、後ろからゼンが蓮夜に喋りかける。蓮夜は反応することなく剣山を見ている。


「チェックメイトだ、よく戦ったね」

「…」

「本当、あんなに君が戦えるなんておじさんびっくり」

「………」

「なんか反応してよ、あ、もしかしておじさんの事嫌いになっちゃった?」

「……………」


 あまりにも反応しない蓮夜にゼンも少しうろたえてしまう。蓮夜は静かに首飾りの宝石を触り、紅い宝石もそれに応えるように光り始め、鞘が形成される。


(まだ戦える、まだ動ける、まだ一太刀も浴びせてない………まだ、まだ)


 蓮夜の耳にゼンの言葉は届いていなかった。蓮夜の体から万能感が消え、思う通りに体が動かせない。鞘に刀を収めて脱力する。


(まだ、………敵が残ってる)

「!」


 ゼンは目を見開く。先程まで動く気配もなかった目の前の男から急に自分に向かって強烈な殺気が発せられたからだ。

 戦闘中の蓮夜とは比べられないほどの殺気。ゼンは予測不能な蓮夜の変化に対応するべく身構える。

 蓮夜は刀に手を置き、一瞬で体を翻す。


「■■■■■!」


 抜刀。そしてその技を敵に叩きこもうとした最後の瞬間、ゼンの拳が蓮夜の眼前に迫るところで蓮夜の記憶は途絶えた。


 


ここまで読んでくださりありがとうございます。

自分のペースで投稿していきますので、気長にお待ちください。


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