手合わせ前
第七隊の訓練場に到着した。凛は一人「準備しに行きます」と言ってどこかに行ってしまった。
「早速だけど君の武器を出してもらってもいい?」
「武器って、あの時の」
蓮夜はあの荒野で召喚した刀を思い出す。
ズボンのポケットに入れていたあの赤い宝石の首飾りを取り出す。あの時召喚した要領で首飾りを握る手に力を込める。すると、首飾りが熱を帯び光の繊維が蓮夜の手を包み込み始める。段々と形が変形していき光の塊は蓮夜に圧倒的な力を与えた白い刀身を持つ刀となった。それと同時にあの時感じたような万能感がこみ上げてくる。
「ほおぉ、素晴らしい刀だな」
「僕もあの時は遠くからでしか見れなかったけど、こんなにきれいな刀とは思わなかったなぁ」
ゼンとジルは蓮夜の刀をまじまじと見ながらそれぞれ感想を述べる。二人の強い視線が集まり蓮夜は少し居心地の悪さを感じる。すると今まで刀を見ていたジルと目が合う。
「蓮夜くん、君は今身体能力が飛躍的に向上して何でもできる気になってない?」
唐突なジルの質問が自分にとって図星だったため蓮夜は動揺する。
「どうしてそれを?」
「蓮夜くんからすごい量の魔力が出てるもん。」
「俺から?」
「そう、医務室で話した魔力についてのことなんだけど、魔力を認知出来てなおかつ一回でも魔法を使えばその人は魔力のパスが体につながるんだ。そうなった人の体には血が流れるように魔力が循環するようになるんだよ。でも蓮夜くんはその刀を手にした瞬間に収まっていた魔力が膨れ上がって体から漏れ出し始めた。そうなれば君が魔法を使うとき媒介にする魔力は、世界に充満しているのと体内にあるのとの二つが使えるんだよ」
「へー蓮夜君、今そんな状態になってんの?おじさんには何が何だか」
「隊長、魔力感じれないし魔法使えないもんねー!」
「あいやーお恥ずかしい」
ジルは長々と説明をする。ゼンはそれを聞いて頭を搔きながら笑って見せた。今の蓮夜では説明を受けても魔力を感じることが出来ないためため、いまいちピンとこない。
頭に疑問符が浮かんでる蓮夜を見てジルはさらに続ける。
「蓮夜くんももう感じれるはずだよ。あの時五人を葬ろうとした技、雨染?を繰り出そうとしたときに手の周りにほわほわーって暖かいのが集まった感覚覚えてる?」
「ああ」
「じゃあその時の感覚を思い出してみ、温かい感覚を感じられるようになったら次に目に集中する」
蓮夜はあの時無意識に集めていた魔力を意識する。目をつむり、深呼吸をして体に流れる何かを意識する。すると、自分の体の感覚の中にあの時感じた暖かいものが体を巡っているのを感じて、ジルに言われた通り目に集中して目を開ける。
「首飾りから出てきた光の繊維が俺の体から出てる」
首飾りほど大量ではないものの蓮夜の体から光の繊維が出ている。いや漏れ出ていると言ったほうが正確だろうか。
「そう、それが魔力。じゃあ次はその垂れ流している魔力を外に出さないようにしようか」
「このままだとどうなるんだ?」
「戦地で自分の居所を教えてるようなものだから、遠距離から敵の攻撃が飛んでくる」
(何としてでも抑えないと死ぬな)
「あと蓮夜くんの今の状態はおそらくそんなに長くはもたないから、20パーセント位まで抑えないと戦えなくなるから気を付けて」
「どうしてそんなことが分かるんだ?」
「荒野で蓮夜くんが覚醒してから気絶するまでに三分もかからなかったし、今も額に汗かいてるよ」
言われるまで気が付かなかった。
確かに蓮夜は今、万能感と同じくらい疲労感を感じている。ただ疲労感でパフォーマンスが落ちるということは無く、この万能感がある限りは体を動かし続けられる。蓮夜のそれは「限界が来たら動けなくなる」という一時的なゾーン状態なのだ。
蓮夜は次に外側に漏れ出ている魔力に意識を向ける。体にふたをするイメージ。数秒後、体から魔力が出なくなった。
「す、すごいね蓮夜くん。もっと時間かかると思ったのに」
あまりに簡単にできてしまいこれでいいのかと疑っていると、珍しくジルが驚きながら蓮夜を褒める。褒められた蓮夜も満更ではない表情をする。置いてけぼりなゼンは話に着いていくことを諦めたのか、あくびを噛み殺してポケットの中の瓶を取り出して中の液体を飲んでいる。
「じゃあ準備運動しておいで。あ、武器をしまっても魔力を意識しながらね」
「分かった」
蓮夜はジルの指示の従ってこの訓練場を走り始める。
その後凛が来るまでの間、準備運動を続けた。
~現在~
ゼンは飲んでいた瓶を上空に投げる。
「戦う時くらい格好よく行こうや!」
落下する瓶。
張り詰めた空気。
視線が交差する二人。
ポップコーンを食べるジル。
それを呆れたように眺める凛。
瞬間、瓶の割れる音が二人の耳に届く。
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