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身籠った妻

ミセストンプソンに

良い産科専門の医療魔術師の方を紹介して貰い、

わたしは診察を受けた。


そしてやはりわたしは妊娠していた。


我ながら凄いわ、絶対妊娠魔法……。


これでも医療魔術師の端くれ、

十月十日と出産時、出産後と子どもへの影響。

(子どもへの影響は殆ど無いと確信した上で魔法を

用いたが)

全て自分で治験してレポートを纏めてから

上に報告しよう。

これが妊娠を希望されるご夫婦の助けになれれば

わたしも嬉しい。


10月の上旬が出産予定日だと診断された。


さて、これからどうしようか……


産科医療魔術師先生を紹介してもらう経緯で上官であるミセストンプソンには報告済みとなってるから、

それは良しとして……


セルジオ様にはどうしよう……


やっぱり報告した方がいいのよね?

だって離婚に応じて貰わないといけないのだし。

ん?この場合、離婚に応じるのはわたしかな?


とにかく離婚に必要な

手続きや書類など、色々と先立って調べておこう。

そう思い調べ始めたわたしは

あるショックな事実に辿り着いた。


『王命により国が定めた相手との婚姻は最低でも

二年は離婚が認められていない』


え………

に、二年も?

なぜ二年?

一年辛抱したんだからもう一年辛抱してみろという事かしら……。


二年後なら当然子どもは生まれている。

そこからの離婚か……

まだ子どもが物心つく前で良かった。


正式な離婚は二年後として、

その間はどうするのかやはり彼とはちゃんと

話し合っておく方が良さそうだ。


子どもはもちろんわたしが育てる。

母子家庭になるが、

ミセストンプソンに事情を打ち明けたら、

ご主人共々後見人になって下さるそうなので、

子どもが国に取り上げられる事はないらしい。

もしくは生家の男爵位を継いでくれた

叔父の養子にして貰う手もあるらしい。

優しい叔父だ。

きっと了承してくれると思う。


それにわたしには王宮医療魔術師という職がある。

だからべつに養育費も要らない。


……要らないが、

ひとつだけ彼に父親として頼みたい事があった。


子どもの名前を一緒に考えて欲しい。


わたしの名は両親に付けてもらったものだ。

母は早くに亡くなったが、

それでも父と一緒に名前を付けてくれたと知った時はとても嬉しかったのを覚えている。


だからこの子にも……

わたしはまだなんの膨らみもないお腹に手を当て

呟いた。


「両親からの贈り物として、名前を授けてあげたい」


それだけで、それだけでいいのだ。


他には何も要らないから。

どうかこの子に名を。


そんな事を考えながら王宮の回廊を歩いていたら、

不意に後ろから手を掴まれた。


「っアニス…!」


「!?」


セルジオ様だった。


彼はまた少しだけ肩で息をして

少しだけ額に汗を滲ませていた。


「良かった…追いついた……姿を見かけて、慌てて、

追いかけたんだ……」


もしかして走って追いかけて来てくれたんだろうか。


「大丈夫……ですか?」


わたしが声をかけると、

セルジオ様は少し困ったように笑う。


「大丈夫だ。また随分久しぶりになってしまってすまない……家にも全く帰れず。夫婦なのに互いの職場でしか会えないというのはどういう事だ……」


彼にしては珍しく最後の方の言葉はぼそぼそと文句を言っているようだった。


はっ、ここで会ったが百年目?


大切な話があると言わなくては。


少しでもいいから

時間が欲しいと頼まなければ。


わたしがそう考えていたその時、

セルジオ様が不可解な事を言った。


「いつも手紙ばかりになってしまって

本当に申し訳ないと思ってるんだ」


……………………手紙?


手紙、とは?

今の言い分だと、

セルジオ様がいつもわたしに手紙を

下さっているような感じだけど……?


わたしがあまりにも小宇宙を旅するような

目をしたからだろうか、

セルジオ様が急に訝しげな顔をした。


「……もしかして手紙を受け取っていない……?」

「……はい……ごめんなさい」

「いや何故キミが謝る」


二人不可解な謎に直面してしまい、

思わず黙り込む。



その時だった、


「ジオっ!!」


ドンッと音を立てて、

セルジオ様の背中に抱きついた人影があった。


〈え……?〉


「酷いじゃないジオ!私を置いてどこかへ行ってしまうなんて!私がどれだけ寂しかったか貴方にわかって?」


鈴を転がすような可愛らしい声。

一瞬、赤い薔薇の妖精が

舞い降りたのかと思った。


「……グレイス」


この国の第三王女であり、

隣国の前国王の元側妃、

そして今も昔も変わらない想いを

セルジオ様に注がれている人。


グレイス王女様が突然、

わたしの目の前に現れた。

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