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多分、最後の逢瀬

今回、少しだけ性表現があります。

物語中盤の最後の方です。

苦手な方はご遠慮ください。


ノックも早々にドアが開けられる。

面会室に慌てて入ってきたセルジオ様は

少し息が上がり、

額には薄らと汗が滲んでいた。


彼は詰襟の騎士服の襟元を少し寛げた。


一週間ぶりの夫の顔。


でもなんだかもっと永い期間会っていなかった

ような気がする。


少し痩せた?


王女の身辺が慌ただしいと言っていたから

大変なのだろうか。


そんな忙しい時に押し掛けて申し訳ないな。

早く着替えを渡して

早く要件を告げて

早く帰ろう。

わたしは早速セルジオ様に話しかけた。


「突然押し掛けてごめんなさい。そろそろ着替えに

困るんじゃないかと思って持って来たの」

わたしが話終えても

セルジオ様は黙ったままだ。

どうしたのかな?


「セルジオ様?」


するとセルジオ様はハッとして

わたしの手から着替えの入った荷物を受け取った。


「わざわざありがとう。かなり待たせてしまって

すまない。全然帰れてないし……変わりはないか?」


「わたしは大丈夫よ。それよりセルジオ様は

少し痩せた?体は大丈夫?」


わたしが言うと、

彼はなんだか少し気まずそうに言った。

「あ、ああ。体は大丈夫だ。

仕事に忙殺されてはいるが……」


“体”は大丈夫なのね。

でも“精神こころ”は大丈夫じゃないという事かな。

きっと板挟みで苦しんでいるんだろう。


そしてわたしは例のお願いをするべく

セルジオ様を見上げる。


すると、

彼の頬に小さな切り傷を見つけた。


「頬……」


わたしが言うと、セルジオ様は

「ああ、朝練の時に、少しな」とだけ言った。


「……」


わたしは彼の頬に手を添える。


ほとんど無意識だった。


彼が感じる痛みも苦しみも全て取り払ってあげたい、そんな事を思った。


頬の切り傷に手を当て

「早く治りますように」

といつものまじないを掛ける。



淡い光が頬を包む。


離婚したらもうこうやって

まじないを掛ける事もなくなるのかと

淡い光を眺めながらぼんやりと考えた。


すると突然、

セルジオ様がわたしに口付けをした。

「……!」


堪らず、といった衝動的な様子だった。


その瞬間彼の香りに包まれ、

わたしは何故か酷く懐かしさを感じて泣きそうに

なった。


口付けは段々深くなり、

きごちなくだけどわたしもそれに応える。


すると急に背中に何かが当たる感じがした。


いつの間にかソファーに押し倒されていたのだ。

あの大き目のソファーに。


こんな時間のこんな場所で?


でもわたしもやめたくなかった。


どうせ妊娠するために抱いてくれと

頼むつもりだったのだ。


でもそれよりも、

今はこの瞬間を手放したくないと強く思った。


今この時だけは彼はわたしのものだ。


彼の愛する王女様も誰もいない、

二人だけの時間だ。


辛くなるだけだから

自分の気持ちに蓋をし続け

鈍感なふりをしてきたけど

そう、

わたしは彼の事を好きになってしまっていたのだ。


彼をなんとか繋ぎ止めたい、

そんな衝動に駆られてしまう。


でも……


これが最後になるだろう。


だからせめて

彼の全てを記憶として体に刻み付けたい、

そう思った。


彼と肌を合わせながら

わたしは脳内で術式を詠唱する。


そして挿入された瞬間と

吐精された瞬間も

わたしは術式を詠唱した。


彼が魔術師でなくて良かった。


例え詠唱が聞こえなくても

わずかな魔力変動で魔術師なら気付いてしまう。


彼を求めながらも

どこか冷静にこんな事を考えてる自分が可笑しい。


ありがとう、ごめんなさい。


あなたと夫婦だった証、

確かに戴きました。


絶対妊娠魔法(結局この名前)を掛けたのだ。

確実に妊娠するはず。


これで最後。


これで最後だから。


もう少しだけこうやって抱き締めていて欲しい。


わたしはセルジオ様の首に手を回し、

彼にぎゅっと縋りついた。


すると何が彼のスイッチを入れたのか

わからないけど、

2ラウンド目が始まってしまった。


え?


え?


その後のわたしはもう、

魔法も詠唱も何も頭に浮かばないほど

彼に翻弄された。


その後はどうやって家に帰ったのかは覚えていない。

なんかセルジオ様に馬車までは送って貰ったような

記憶があるが、

その後はもう何がなんだか覚えていなかった……。



とにかく子種は貰えた。


あとは確かな結果が出るのを待つだけだ。


その後もセルジオ様は帰って来ない。


医療魔術師の先輩から聞いた話によると、

最近の王女宮がとても騒がしくなっているそうだ。

王女付きの騎士も増やされ、

まるで何かを警戒しているようだと

先輩は言っていた。


セルジオ様が帰って来ない事と

何か関係しているのかな。


だけどその後

王宮内の人気の少ない庭園で

一度セルジオ様の姿を見かけたが

その時もやはり王女様が側にいた。

王女様と手を繋ぎ、

二人笑顔を交わしながら歩いていた。


王女と近衛騎士、

幼馴染のイトコ同士、

それだけではない空気が

あの二人からは漂ってきていた。



あの日、彼がわたしを抱いたのは

義務を果たそうとしたものだったのかもしれない。

疲れていそうだったし、

そういう衝動を抑えきれないだけだったのかもしれない。


大丈夫、貴方はちゃんと務めを果たされましたよ。



そう、月のものが止まり


わたしは彼の子を身籠ったのだった。

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