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帰らない夫

セルジオ様が家に帰らなくなって一週間が経った。


その間、

一度だけ彼から手紙が届く。


王太子付きから

帰国した王女付きの騎士となった事を告げられた。

王女たっての希望を

王が叶えられたのだとか。

降嫁となるか

新たな諸外国と縁を結び直すかで議会は揉めており、

王女の身辺が騒がしくなるため暫く帰れないと

書いてあった。

まぁそれは建前なんだろうと

最後に見たセルジオ様の姿で察せられる。

セルジオ様の背に手を回し、

これまでの距離を埋めようと縋る王女と

それに応えきつく抱き締めるセルジオ様の姿が瞼に

焼き付き離れない。


でもそれを、略奪されたとか寝取られたとか

(体の関係があるのかまではわからないけど)、

わたしが悋気を起こすのは間違っている。

だって二人はもともとそういう絆で結ばれていて、

割り込んだのはわたしなのだから。

あるべき姿に戻るという事なのだろう。


わたしが彼に抱くこの感情が

“横恋慕”と呼ばれるものなのか……。


でも……困った。

魔力を持つ子どもを作れという王命なのだから、

たとえ一人でもそれを成さなければきっと離婚などは認められない。

性格の不一致……などと理由付けると

それならなぜ数回行う顔合わせの時に分からなかったんだと、

離婚届けを却下されそうだ。

それに……

わたしはどうせその後も

子を産め子を産めとせっつかれる。

セルジオ様と離婚した後に

どうせまた他の人と添わされるくらいなら、

セルジオ様のお子を一人生み、

離婚した後でも体調不良を理由に次の結婚を

回避する事が出来るのではないだろうか。


それと

わたしはもう一人ぼっちは嫌だ。


心を寄り添い

共に暮らしてゆける家族が欲しい。

普遍的な愛を注げる存在、

つまり子どもが欲しいのだ。


身勝手なのはわかってる。

セルジオ様の事を思えばすぐに離婚に応じるべきなのはわかってる。

でも縁あって夫婦になったのだから、

せめて子どもを儲けてから別れるという猶予が

欲しい。


我儘だろうか……


わたしが王女の立場なら嫌だな。


でもわたしに子を産めというのは国なんだから、

王女様として我慢して貰いたい……

と思うのも我儘なんだろうか。


でもいい。


我儘でもいい。


子を生そう。


それからセルジオ様を解放しよう。


あれから寝る間も惜しんで、

(というか悩み過ぎて眠れなかった)

成功させた医療魔法がある。

排卵を誘発して

受精と着床を確実なものにする魔法。

まだ名称を付けてないな……

絶対妊娠魔法……ダサいな。

確実結実魔法……もイマイチ。

まぁそれは置いといて

この魔法を使えば排卵日でなくても

どんな条件でも絶対に一度で妊娠出来る。


………“種”さえあれば。


またまた困った……。


いくら魔法で妊娠を確実なものに出来ても子種がないと妊娠出来ない。


しかも帰らない夫の子種など

どうやって戴けばよいのだ。


最後に一度だけ抱いて欲しいから

帰ってきて欲しいと手紙でも書く?

もうこれで金輪際関わらなくていいから一度だけ

抱いてくれと頼む?


うーん…どうしよう。


とりあえずわたしは、

下着などの着替えを渡すという口実を

仕立てて彼に会いに行くことにした。


近衛の詰所で訪問を告げ、

面会が可能か申請を出す。

セルジオ様は今

ほとんど王女宮に詰めておられるらしく、

少しだけ待たせるが会う事は可能だそうだ。

わたしはとにかく一度帰宅して欲しいとお願いする

ために、待つ事にした。


詰所にいた見習い騎士が

わたしを個室の面会室に案内してくれる。

面会室に一組の大き目の応接ソファーが置かれていたのに少し笑ってしまった。


騎士は体が大きい人が多いから。

ソファーも大き目なんだなと、

そんな事をぼんやり考えながら彼を待つ。


でも待たせるってどのくらいだろう。

まあ今日は非番だからいいけど。


ややあって、

ドアをノックする音が聞こえた。

彼かな?と思いながら返事すると、

入ってきたのは侍女風の女性だった。

年は40代くらいかな?

一介の侍女というには失礼にあたるのでは?と

思うくらいの風格を持っている人だった。

もしかしてかなり身分の高い方の侍女?

そんな事をぼんやり考えていたら

目の前にお茶が差し出された。

「ありがとうございます……」

わたしが礼を述べると、

その侍女風の人が言った。

「ローバン卿の奥様でいらっしゃるとか?」


?ローバン卿の奥様……あ、わたしか。

「は、はいそうです。アニス=ローバンと申します」

と、まだ名乗っていいのよね?

わたしは心の中でひとり言ごちた。


「……私は第三王女、グレイス様の侍女長を務めさせていただいております。ローバン卿は只今、姫さまと昼食を共にされております。奥様にお待ちいただくのは申し訳ないとは思いますが、突然押し掛けたのはそちらでございます。ですのでもう暫くお待ち下さいませ」


王女様の侍女長であらせられましたか。

どうりで他の侍女さんとは違う雰囲気を

お持ちでいらっしゃると思った……。

ん?昼食を共に……?

あ、いや愛し合うお二人だ、 

そりゃ昼食くらい共にするわよね。

侍女長さんの仰る通り、

勝手に押し掛けていたのはわたしだものね。

申し訳ない。

「大丈夫です、もちろんお待ちします。どうしても

主人に伝えたい事がありますので」

「……やっと帰国出来たと思ったら……まさかこんな若い妻を迎えているとは……」


「え?」

すみません、よく聞き取れなかった。


「とにかく、本来ならローバン卿は姫様の元を離れられないお方なのです。ご用件は短めにお願いいたしますわね。そして少しでも早くローバン卿を姫様にお返しいただくよう、お願いしたくて参りましたの。どうぞ?お茶が冷めてしまいます。私はこれで失礼しますので、お召し上がりください」

そう早口で申し立て、

侍女長さんは部屋を出て行った。


「……」

わかってますよ。

わたしだってわざわざこんな、

お二人の間に割って入るお邪魔虫みたいな事はしたくないのですよ。

でも仕方ないじゃないですか。

帰って来てくれないんだもの。

子を成さなければいけないんだもの。


出されたお茶を飲み、

どれくらい時が経ったのだろう。

夕方に向け日が傾きつつある頃に

ようやくセルジオ様が姿を現した。


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