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これからのこと

〈そ、そんな大変な事が……〉


わたしは今

セルジオ様のご実家の侯爵家にて、

グレイス王女の呪いに関する事の顛末を聞き終え、

言葉を失っていた。



「それでは伯父上とグレイスは精霊界に強制的に

送られたんですね?」


セルジオ様が確認するように

お尋ねになった。


「そういう事になるわね」


お義母さまが疲れたお顔で仰いました。


「王太子殿下の即位は間違いないとして、

それをどのように公表するつもりなのか……」


セルジオ様が呟くように言うと、

お義母さまは少し投げやりな感じで仰った。


「隠したってしょうがないわ。

正直に公表すればいいのよ。王家が大賢者の怒りに触れた。

その責を負って王は退位したと」


「ははは、なるほど」


報告に同席して下さった、

ハイラム王国のランバード辺境伯が

感心されたように言われた。


セルジオ様はランバード伯に

ソファーに座りながらも頭を下げた。


「この度はこのような事に巻き込んでしまい、

申し訳ありませんでした。ご尽力戴きました事、

本当に感謝しております」



するとランバード伯は


「いやいや。丁度貴殿にお会いしたいなぁと思っていたところに手紙を貰い、これは恩を売りつけるには都合が良いと企んでの事です。それに精霊が犠牲になる前に知れて本当に良かった。きっと大賢者も感謝していると思いますよ」


と仰った。

なんと良い方なのだろう。


「私に会いたい?」


セルジオ様がそう尋ねられると、

ランバード伯はすこし悪戯っぽい顔をされた。


「じつはですね……」






◇◇◇◇◇



「大賢者に精霊界に精霊王なんて……壮大過ぎて、

なんだか理解が追いつかないお話だったわね」


侯爵家で用意された自室に戻ったセルジオ様と

わたしはテラスに出て夕涼みをしていた。


「……そうだな……」


セルジオ様は顎に手を当てられ、

考え込んでおられる様子だった。


「先程のランバード伯のお誘いの事?」


「ああ」


「国を出るのを迷っているの?」


「まさか、伯父上(国王)が引き下がってくれなかったら

アニスを連れてとっとと出奔しようと思っていたくらいだからな」


そんな事を考えてくれていたなんて……。


早まらなくて良かったと

わたしは心から思った。


わたしは夕闇に変わってゆく空を見上げた。


黒と紫と橙色が織りなす

ビロードのような空に瞬きはじめた星たちが

散りばめられている。


空を見上げるわたしの肩に

セルジオ様は自身の上着をかけてくれた。


「体を冷やしたら一大事だ」


「ふふ、ありがとう」



あの日、


わたし達が初めて想いが通じ合った日、



わたしは彼に子どもが出来た事を告げた。



セルジオ様は最初はポカンとしたお顔で

わたしの話を聞いていたけど

段々と目を見開き、

次の瞬間には強く抱き締められていた。


『アニスっ……アニス!

 ありがとうっ……ありがとう!』


そう言ってしばらく離して貰えなかった。


あまりに強く抱き締めるものだから

苦しくなって彼の名を呼ぶと、

慌てふためいた様子で謝ってくれた。


その姿がなんだか可愛くて、

わたしは思わず笑ってしまった。


良かった。


子どもが出来た事を喜んでくれて

本当に良かった。


まだ実感が湧かないけど、

離れる事を考えなくてもいいのよね?

この子と共に一緒に生きてゆけるのよね?


わたしは隣に立ち、

空を見上げるセルジオ様の肩に頭を寄せた。


すると彼はわたしの肩を抱き寄せ

わたしのこめかみにキスを落とす。


わたしはくすぐったさと

嬉しさで思わず身を捩ると

離さないと言わんばかりに今度は

口付けをされた。


優しく、そして深く。


今まで何度も口付けを交わしてきたけれども、

想いが通じ合ってからの口付けは

こんなにも心が満たされるものなのかと

わたしは思い知る。


セルジオ様の心の中にいたのは

グレイス王女ではなく

わたしだったなんて、


出会った時から

わたしの事を想ってくれていたなんて、


そんな奇跡に近い幸運が

わたしの側にずっとあったなんて、


わたしは知らなかった。




あのまま気付かず

手放してしまっていたらと思うと、

恐怖で身が竦む。


きっとわたし達だけだったなら

すれ違ったまま終わりを迎えていただろう。


わたし達の背中を押してくれた人達に

心から感謝したい。



「すごく誉れ高い事だわ、

他国の騎士団にスカウトされるなんて」


「かなり異例だと思うよ。

でも国境騎士団の古参騎士達が軒並み

退団年齢を迎えるそうだから。

新しい騎士の補充が急務なのだそうだ」


「フリーの騎士たちは国を越えて所属したりするのよね?」


「そうだよ」


「セルジオ様もフリーになるの?」


「ハイラムに行くならそういう事になるな……」


「王宮騎士に未練が?」


「まさか。こき使われてもうウンザリだ」


「ふふふ、家に帰して貰えないくらいね」


「ホントに勘弁して貰いたい。

危うくキミを失うところだった」


セルジオ様は困り果てた様子で

自分の額をわたしの額にコツンと押し付けた。


「じゃあ決まりね」


「付いて来てくれるか?」


「もちろん。当たり前じゃない」


「アニス……」



そう言って彼はまたわたしに口付けを落とす。


わたしはそれに応えながら

ミセストンプソンに辞表を出さないと、

なんて事を考えていた。

























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