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人には裁けぬもの

「この二人は呪いの中でも最もやってはならない

[大禁忌]を犯した、

そして侍女長、アンタは今も禁忌を犯し続けてる」



微笑をたたえているのに、

ダイ様は全く温度を感じさせない声で

仰いました。



わたしは震えそうになる

自分の体を心の中で叱咤しながら

ダイ様に尋ねました。



「ふ…二人はどんな禁忌を犯したというのですか……」


ダイ様はグレイスと侍女長を

一瞥し、そして仰いました。


「精霊を呪物にした」


「っ……!?」


わたしの隣でランバード伯が息を呑む。



「侍女長、アンタ、精霊を捕まえて

“呪物”にしたね。精霊を材料にした呪いなら、

相手がどんな格上の魔力保持者だったとしても確実に呪えるから」



……なんて事をっ!!



私が侍女長の方を見やると

彼女は手を握り締め、

小刻みに震えながら俯いていました。



「だけど()()を扱う者の力量を伴わねば

逆に呪い返される、そこまでは知らなかったんだ?

あぁ、アンタはこの術を王族のみが読める禁書を王女の名義でこっそり盗み読みして知ったんだっけ。

限られた時間しか読めなかったから、

術のリスクまでは知れなかったんだよね」


信じられないくらい重い空気の中、

ランバード伯が仰いました。


「……今も禁忌を犯し続けているというのは?」


「王女様に跳ね返った呪いの進行を抑えるために、

捕まえた精霊の涙を飲ませてる」


「「!」」


「昼間はそれでなんとかまとも(笑)に戻ってる

みたいだけど、夜は抑え切れないみたいだね、

夜に凶暴化するのはそのせいだよ。でもそれも段々

抑えられなくなるよ」



ダイ様はゆっくりと侍女長の方へと

歩みを進めました。


侍女長は青ざめた顔色で

俯いたままです。


グレイスは「ひっ」という消え入りそうな悲鳴を

小さく上げて、侍女長に縋り付きました。


「ねぇ、どうやって精霊の涙を手に入れたの?

やっぱり虐めて泣かせたの?痛い思いをさせて?

なかなか出来る事じゃないよね?

ねぇ、今すぐ僕を使って()()を再現してみてよ」



「お、お、お許しをっ……」


侍女長は歯の根が合わないくらいに震え出し、

その側のグレイスも怯えきっておりました。



「やってみてくれないの?

どうして?簡単でしょ?精霊に出来て僕に出来ないなんて事ないよね?」


ダイ様が侍女長の方へ手を出された時、

ランバード伯がダイ様の手首を掴まれました。


「待て、怒るなと言う方が無理なのはわかっている。でもここは他国だ、ほんの少しでいい、

自重してくれ。王太子妃(ジュリ)の為にも国同士の問題には

したくない」


「……わかった」


私はお二人に尋ねました。


「この二人、如何いたしましょう?

法で裁きたくとも、この国には精霊を害した事によって罰せられる法はありません。呪いもまた然り。

如何してこの二人に罪を償わせましょうか?」


私のその言葉を聞き、

グレイスは泣きながら私に縋り付いて参りました。


「叔母さまっ…!叔母さま助けてっ!

私は悪くないわっ!全部侍女長がやった事よ!

私は勧められてやっただけっ、アイツらに仕返しが

出来ると言われただけなのっ…!」


「グレイス、貴女は仮にもこの国の王女です。

民の手本とならねばならぬ身です。

それなのにこの失態……せめて潔く、

公明正大に裁きを受け、罪を償わねばなりません」


「嫌っ……!嫌よっ!私は知らないわっ、

知らないったら知らない!」


そう言って走り去ろうとしたグレイスの背に

ダイ様はすいっと人差し指を向けました。


するとその途端、

グレイスは糸の切れた操り人形のように

パタリと倒れたのです。


「うるさい、ちょっと寝てて」


よく見ると

グレイスは単に眠らされているようです。

まぁこれで大人しくしててくれるでしょう。


ダイ様は仰いました。


「これはもともと人には裁けないものだよ。

でもこのまま進めちゃってもいいの?

(おー)様の耳に入れとかなくていいの?後々面倒な事になって、ハイラム(ジュリ)に迷惑かけたくないからね~」


「お前さんにしてはまともな事を言うな」


「まあね、だって僕はジュリの子孫達とも

ウフウフきゃっきゃ♪しながら生きて行きたいからね~」



私は少し考え、言いました。


「そうですわね、侍女長はともかく、

グレイスを黙ってこのまま収監するわけにはいきませんわね……私が話を付けて参ります、少しお時間を

戴けますか?」


「え~イヤだよ~待つの嫌いなんだ。

ここでのやり取りを王様の頭にブチ込んでここに

呼んじゃうよ」


「え?」


ダイ様が何を言ったのか意味がわからず

聞き返したのと同時に、


グレイスの父であり

私の母親違いの兄である国王が

瞬時に姿を現しました。


「あ、兄上っ!?」


私が仰天して兄を見やると、

兄はすぐさま「グレイス!!」と言って

娘に駆け寄りました。


どうやら本当にここでのやり取りが

既に頭の中で知らされているようです。

グレイスが倒れている事を知っての

行動でしょうから。


「おぉ…グレイス……可哀想に……」


私は兄に話しかけました。


「兄上、今のやり取りを全てご存知であると

踏まえて申し上げます。

残念ながらグレイスは大罪を犯しました。

罪を償わねばなりません」


私のその言葉に兄は激高しました。


「大罪っ!?大罪とはなんだっ!

たかが精霊一匹を害しただけで、何故(なにゆえ)グレイスが裁かれねばならんのだ!ワシは絶対に許さんぞ!

どうしてもこの子を裁くと言うならばっ

貴様ら全員、縛首にしてやる!!」



兄上の声を聞きつけて、

周辺にいた近衛や兵たちが駆け寄ってきます。


まずい空気になってきました。



「兄上っ……!」




「へぇ……」


でもダイ様のその声を聞いた瞬間、

私の背筋は凍りつきました。

きっと隣にいた

ランバード伯もそうだったと思います。



「たかが精霊一匹、だって……?

へぇ~…人間の王って、そんなに偉いんだ」



そう言ったダイ様は右手をすっと

掲げられました。


すると駆け寄って来ていた

騎士や兵たちの動きがピタリと止まります。


「うっ……」「くっ……!?」


皆一様に金縛りに遭ったかのように

その場に縛り付けられています。


人間の王(お前如き)が誰を縛首にするって?」


ダイ様のお顔からは

既に微笑みが消えておられました。


ランバード伯が慌てて

ダイ様を制します。


「待てっ!バルク!しばし待てっ!」


そしてランバード伯は兄や兵たちに向き直り、告げました。



「こうなったらもう、

この男は何をするかわかりません。

軽挙妄動はお慎みくだされ。

私はハイラム王国のローガン=ランバード。

そしてここにいるお方は、

私がその名を語るのも烏滸(おこ)がましい、

大賢者バルク=イグリード様であらせられます。

ご一同、努努(ゆめゆめ)早まられますな、この方を

怒らせたら、国一つなど簡単に消滅しますぞっ」



……バルク……イグリード!?



「大賢者バルク=イグリードっ!?」


私は思わず叫んでしまいました。


こ、こんなチャラ…こほん、

()()の青年が、500年生き続けているという

あのバルク=イグリードですって!?


兄や騎士たちも

驚愕の顔を向けてダイ様……改め、イグリード様を見ておりました。


「王、ご理解戴けましたでしょうか?

どうか、激情で事を構えるような事はお慎みくださいますよう……」


ランバード伯は頭を下げられました。


胸に手を当て礼をするのは臣下のみ。


彼はこの国の臣下ではありませんものね、

当然の事です。


……このような方のいるハイラム王国が

少し羨ましゅうございます。



私は改めてイグリード様に尋ねました。


「イグリード様、

ではお伺いいたします、王女グレイスとその侍女、

如何裁きを下しましょう?」


「あはは!ローバン夫人、さっき僕の事チャラいって思ったでしょ☆」


ぎくり。

何故わかったのかしら。


私は鉄壁防御、“貴婦人の微笑み”を貼り付けて言いました。


「まぁそのような事、思うはずがございませんわ。

イグリード様の気のせいでございましょう」


「お~、これが熟女の貫禄か☆

ジュリもいずれこうなるのかな?

まあいいや、さっきも言ったでしょ、

これは人に裁けるものではないよ」


「ではどうすれば?」



「精霊を傷付けた罪は精霊王が裁く」



その言葉の意味を正しく理解するのに

私は不覚にも時間を要しました。


でも仕方ありません、

彼は常人には理解出来ない高みにおられる存在なのですから。



「この二人は精霊界に連れて行く。

向こうで精霊王の定めた法によって裁かれるさ」


「そ、それはどのような裁きとなりましょうか?」


精霊界の法など、

人の身である私が知りようもございません。


「うーん…どうなるかなぁ。

まぁ王女様は10年くらい向こうの牢屋に入るんじゃない?直接精霊を傷付けた侍女長はちょっとわからないなぁ……。

極刑かもしれないし、そうでないかもしれないし」


その言葉を聞き、

侍女長はもはや意識を保てなかったのでしょう。

その場に卒倒していましました。


その時、

兄がようやく口を開きました。


「ま、待ってくれ……大賢者……

どうか、どうか娘は、グレイスは許してやってくれまいかっ、哀れな娘なのだ、

金でも名誉でもなんでもくれてやるっ、だからどうか娘は許しやってくれっ……!


「ふーん、親子愛ってヤツかな?

僕にはわからないけど。でも僕に言っても無駄だよ、精霊界(向こう)で精霊王に言って。一緒に送ってあげるからさ☆いつ戻って来れるかわからないけど、

愛する娘と一緒ならいいよネ」


「は?え?ちょっ……!?」


イグリード様がそう言うや否や、


たちまち兄上、グレイス、侍女長の

姿が消えました。



「ハイ、終了☆っと」


「も、もう精霊界に送られたのですか?」


「うん。あ、でも王様居なくなっちゃった。大丈夫だよね?この国にも王太子はいたよね?」


「え、ええ……兄より為政者として相応しい王太子が……」


「じゃあもうその王太子が王様になっちゃえ☆」


「そ、そうですね……」


もはやそう答えるしかないでしょう。


これからしばらく王宮内は

ごった返しますわね。


でも叔母の贔屓目から見ても

王太子()は優秀な男ですから

大丈夫でしょう。


王太子は王妃の子、

そして世継ぎとして厳しく育てられ、


グレイスは側妃の子だからと

存分に甘やかされて育って来ました。


兄妹でありながら

ほとんど接点もない二人。

今回の結果に王太子が物申してくる事は

ないと思いますわ。




その後、イグリード様は

侍女長の部屋から捕らえられていた精霊を救い出し、


「手当をしてあげたいから先に帰るね

ローガン、後はよろしく~☆」


と言って消え去ってしまわれました。


本当に嵐のようなお方でしたわね……。




わたしは………



もう………



どっと疲れが出て来ましたわ。



とにかく代わりに見届けるとセルジオ(息子)に約束したのですから、

事の顛末を伝えに戻りましょうか。


ランバード伯にもご同行を願い、


我が家に滞在していただきましょう。



あ~疲れた☆(←あらやだ感染(うつ)ったわ)




























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― 新着の感想 ―
何度か面白くて読み返していたのですが、ふと。 エピソードタイトルは ひとには裁けぬもの ではないでしょうか?
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