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大禁忌

おのれ……


よくも……よくも私の姫さまを……


あいつらのせいで姫さまは流産まで……


許せない、絶対に許せない……





◇◇◇◇◇



「叔母さまっ!ジオは?私のジオはどこ?」


姪のグレイスが迷子の幼な子のように

セルジオの母である私、

ガーネット=ローバンの腕に

縋り付いて来ました。


「あなたのジオではないわ、セルジオには

既に妻がいるのよ」


私は25歳の姪に、

まるで子どもに言い聞かせるように言いました。

今の彼女は中身は15歳なのだそうです。


「でもきっとジオは私の方が好きなのよ。

だっていつも側にいてくれるもの」


「……それは任務だからです」


「酷い!叔母さまっ、どうしてそんな意地悪な事を

仰るの!?」


「それが真実だからです」


「酷いわっ、みんな意地悪ばかりっ……」


私は段々、辟易としてきましたわ。


昔はこんな感じでは

なかったのだけれど……


でも昔は“無邪気”で済まされていた事も

今ではもう許されません。


「ローバン夫人、

姫さまのお心を煩わすのはお()めください」


出ましたわね、ヒステリ侍女長。


「煩わせているわけではありません、

言い聞かせているのです。セルジオは既に既婚者です、可愛い嫁がいるのです」


それを聞き、

侍女長は鼻で笑いながら言いました。


「しかし、あのような身分卑き出自の娘と姫さまでは比べようがございません。

ローバン侯爵家のためにもなりませんでしょう」


この女……


本当に不敬罪でとっ捕まえてやろうかしらと

思ったその時、近くから声が聞こえました。



「ははは、ご婦人方の言い争いとは

かくも冷たい空気が漂うものなのですね」


「あら、ダイ=ケンジャ様」


柔らかな物腰と穏やかな微笑みを湛えながら、

精霊魔術師のダイ=ケンジャ様が

近づいていらっしゃいました。


青い髪に黒い瞳。


なかなかに美形の若き精霊魔術師。


その正体は謎に包まれたお方ですわ。



「ローバン夫人、

そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」


ダイ様が私を見てそう言われました。


「ええ。是非よろしくお願い致します。

サクッと終わらせちゃって下さいな。

国王()はともかく王太子()からは許可は取ってありますから」



「ははは、サクッとはどうでしょう。

しかし全力は尽くす所存です」


ダイ様はそう言われ、

姪のグレイスの前に置かれた椅子に座られました。


「な、な、何をする気ですの……?」


グレイスは怯えた声でダイ様に聞きました。


「何も。少し覗かせていただくだけですよ。貴女はただ座っておられるだけでいい」


そう告げた後、

ダイ様はグレイスの眉間に人差し指を

当てられました。


「何よっやめてっ」


「しーー……」


嫌がりながら頭を振ろうとしたグレイスを

ダイ様は静かに制止なさいました。


そして真剣な眼差しで

グレイスを見つめ、

眉間に当てた人差し指から何か読み取ろうと

なさっているようでした。


そして、


「ほー……」とか


「へーー」とか


「なるほど」とか


「あぁ……」とか


「……ぷ☆」とか

仰いながら何かを探っておられるようでした。


……ぷ☆?



その後もしばらく眉間に人差し指を

当てたままでしたが何も仰らず、


最後にぽつりと


「ふーん……」とだけ仰って、


グレイスから指を外されましたの。


そしてそのまま沈黙を続けられて……




私は何がどうなっているのか訳がわからず、

思わず隣におられたランバード辺境伯の方を

見やりました。


するとランバード伯は肩をすくめられながら

首を横に振られたのです。


要するに彼にもわかりませんのね。



「あの……?ダイ様?」


と私がダイ様の様子を窺うと

彼は突然、



「あーー!もう面倒くさっ!

真面目モードやーめた!」


と大声を出しながら

髪をぐしゃぐしゃに搔き乱しました。



そしてランバード伯に、


「凄いよローガン!

めくるめく愛憎劇場だ!

後宮は伏魔殿というけどホントなんだね!

僕、今度は女官か宦官に化けて後宮に潜り込もうかな?

面白そうだよね!」


と、大興奮といった感じで

捲し立てられていました。




……えっと……


私はいきなり豹変した彼の人格に

只々、呆気に取られてしまいましたわ。



「おい、バル…じゃないダイ……」


ランバード伯が

気遣わしげに仰られました。


でもダイ様は止まりません。



「このお姫様、15歳で嫁いだ隣国の後宮でやりたい放題!一国の王女なのに礼儀も作法もなっちゃいない!

前国王の寵愛を受けちゃったりなんかしたものだから更に怖い者ナシでさ、

それで王妃の怒りを買っちゃったんだねー。その後はもう見るも語るも無残な虐め劇場だったよ」


まさか人差し指を当てただけで

ダイ様は全てがわかったというの?


でも事前にグレイスの詳細を

お話ししておく機会はなかったと聞いております。



同じように目を丸くしてダイ様の話を聞いていた

グレイスがやっと我に返ったように叫び出しました。



「な、なんなのです、この方はっ!

無礼だわっ、人の苦労も知らないでっ」


グレイスがヒステリックに

言い募っている間、

ダイ様はご自分のハンカチで

グレイスに当てていた指を丹念に拭いておられました。



「まぁ確かに15歳で家族と別れて遠い地で暮らすって大変なんだろうねー」


ダイ様がそう言うと

グレイスは首を縦に振った。


「そうよ!みんな知らない人ばかりだし、意地悪だし、陛下はおじさんだし、帰りたくて仕方ありませんでしたわっ」


「でもさ~僕、

キミよりもずっと幼い10歳の時にね、我儘王太子によって家族と引き離されて、城に監禁された娘を知ってるんだよねー。

でも彼女はいつも前向きで明るくて逞しくて、

いつしか自分の居場所を勝ち取ってた」


「誰の事言ってるんですの!?

今は関係ないでしょう!」


グレイスは金切り声を上げました。




でも本当に……誰?


ダイ様はどなたの話をなさっているの?


私はふと隣にいたランバード伯の方を見ました。


すると彼は指で目頭を押さえていましたの。


涙……?何故?



「だからキミには同情できないなーー。

心労から流産したのは気の毒だとは思うけど」


「な、何が言いたいのですっ……」


グレイスの顔は怒りの所為か

辱めを受けた所為か真っ赤になっていました。



「逆恨みでもただの恨みつらみでもなんでも、

呪いに手を出すべきではなかった」


「………!」



一瞬、ほんの一瞬だけダイ様から

表情が消えた気がしたのだけれど……

気のせいかしら?



その時、

不意にダイ様が言われました。


「あれ?ジュ(リン)(ジュリに渡した呼び鈴の略)

が聞こえた。ローガン、

ジュリが呼んでるみたいだからちょっと行ってくるよ、

すぐに戻ってくるからよろしくね~☆」


「ジュリが!?

ちょっ……待て!どういう事だ? 

おいっ!」



ランバード伯が止める間もなく

ダイ様は一瞬で姿を晦ましました。



私はもう、

先ほどから度肝を抜かれすぎて

何がなんだか理解が追いついておりません……。



「ランバード伯……あの方、いつもあんな感じなのですか?さっきの感じがダイ様の本性なのかしら?」


私が尋ねると、

ランバード伯は顎に手を当て

少し考え込んでおられるようでした。


どうされたのかしら?


「ランバード伯?」


「あ、あぁいや……すみません。

いつもあんな感じなのは確かです。

でも……あいつ……」


「どうされましたの?」


「あいつ……もしかして怒っている…?

喜怒哀楽の喜と楽しかないやつが……?」


ランバード伯?どうなされたのかしら。



そんな事を言っている間に


ダイ様は戻って来られました。


ほ、本当にすぐでしたわね……。



「お待たせ~!もーローガン、

あっちは犬も食わない奴だったよ~

夫婦喧嘩なら勝手にやって欲しいよね」


「ジュリが?いやすまん……」



「まぁいいや、さて!」


そう言ってダイ様は

パンッと手を叩かれ、場を仕切り直されました。



「グレイス王女、キミには魔力が無いね。そんなキミが呪いという魔術を用いるのは無理だよね。

当然、手引きをした者がいる筈だ」


ずっと俯いていたグレイスが

はっとして顔を上げました。



そしてダイ様は

その者の方を見て、言ったのです。



「侍女長、アンタだよね」



その言葉を聞き、

わたしは思わず侍女長の方へ振り向きました。


侍女長は狼狽える様子もなく、

泰然としてダイ様を見ております。


「……何故そのような事を?

 何故私が呪いを手引きした者だと

 仰るのですか?」


「だってアンタからは特殊な魔力を感じるんだもん。アンタ、精霊が見えちゃったりするでしょ?」


「え?」


今の声はランバード伯ですわ。


まぁ確かに驚きますわよね、

たとえ魔力を持っていても

精霊の姿が見える者はそうそう居りませんもの。


なるほどね、

呪いの出所に疑問がありましたが、

グレイスに心酔しているこの女なら

やりかねませんわ。


幼いグレイスに不思議と懐かれ、

それを見た国王()が気まぐれで

当時15歳だった彼女をいきなり

侍女長に大抜擢したという経緯が有り、


彼女にとってグレイスは己のアイデンティティそのものであるような印象を受け続けてきましたもの。


それにしても……

なんて愚かしい事を……!



「あ、ちなみにローバン夫人」


「っはい?」


不意に名を呼ばれ驚きましたわ。



「この王女さま、呪い返しに遭ったんじゃないよ。呪うために用いた呪物に逆に呪われたんだ」



「……え?」



そんな……事が起こり得るの?


それが起こり得るとすれば、


それは呪いを扱うものが

その“呪物”よりも下位な者。


もしくは

その“呪い”自体が常人には扱い切れぬ

大術(おおじゅつ)であった時。


そしてその大術とされる魔術の殆どが、


[禁忌]とされている悍ましき魔術なのです。



わたしの額から

嫌な汗が滴り落ちました。


それを見たダイ様は


「貴女は聡明な方だね」と仰いました。


「この二人は呪いの中でも

最もやってはならない[大禁忌]を犯した」



「……大禁忌……」



まさか、まさかそんな事が……



私はその時、


部屋の温度が急激に冷えてゆくような


感覚を覚えました……。





















しつこいようですが、

このお話しは作者の多作品、

『だから言ったのに!〜婚約者は予言持ち〜』と

リンクしております。

もちろんそちらをご覧にならなくても問題はありません。

もし、お手隙の時にでもお読み頂ければ幸いです。

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