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ここからはじめよう

どこぞの精霊魔術師に物語をめちゃめちゃにされる前に主人公二人のお話しをお届けいたします。

お義母様が勇ましく出て行かれてから数時間後、


セルジオ様が侯爵家邸に帰宅された。


わたしのために用意してくださっていた部屋で

知らせを受け、

わたしはセルジオ様をお迎えするために玄関ホール

まで急ごうとした。

でも丁度その時、

セルジオ様はもう部屋へと入って来ていた。


「セルジオ様……!おかえりなさい、お仕事は大丈夫だったの?」


「アニス、ただいま。待たせてすまない」


「い、いえ、わたしの事はお気になさらず……

っ!セルジオ様!?」


久しぶりに会う彼の顔をよく見ようとして、

わたしはハッとする。

セルジオ様は左頬を酷く腫らしてしたのだ。


「その顔、どうしたの!?」


「……母上に殴られた、右手で、しかも握り拳でだ。相変わらず凄い母親だよ」



お、お義母さまに!?


セルジオ様の顔の腫れ、

もの凄いんですが……。


お義母さまはなかなかに

力持ちでいらっしゃるようだ。



わたしはセルジオ様の左頬に手を当て、

消炎鎮痛魔法を施した。


痛みと腫れは引いてゆくが、

まだ痛いのだろうか?

セルジオ様がとても辛そうにわたしを見る。


そして治療のために左頬に当てていたわたしの手に

そっと自分の手を添えた。


そしてセルジオ様は何かに苦しむように

目を閉じた。


その姿があまりにも痛々しくて

わたしは不安になる。


「セルジオ様?どうしたの?辛いの?大丈夫?」


わたしがそう言うと

セルジオ様はわたしの目を見て、

そして告げた。



「……母上から全て聞いた、俺とグレイスが

抱き合っていたのをキミが見たと」


「……!」


「庭園で手を繋いで歩いている姿も見たと」


「はい……」


「それで俺とグレイスが未だに想い合っていると

考え、身を引こうとしていると」


「……はい」


「ずっとそのつもりで?」


「はい」


「今も?」


辛いけど。

側にいたいけど、

貴方の幸せのためなら耐えられる。


わたしは意を決して答えた。


「……はい」


「っ!アニス!」


セルジオ様はいきなりわたしを抱きしめた。

いや、縋りついたと言う方が正しいのかもしれない。



「違うんだっ……違うんだアニス!」


どうしたの?

そんなに悲痛そうに。

何が違うの?



「セルジオ様……?」



「確かに幼い頃はグレイスが好きだった、言うならば初恋というヤツだろう。でもそれは本当に昔の事だっ、あの抱擁はイトコとして慰めていただけで、手を繋いでいたのは転ばないようにしたのと感情が戻りそうな兆しが見えてホッとした嬉しさからなんだっ……、もしかしたら近々家に帰れるかもしれないと考えて……!」


「……?」


どういう事だろう。


何故セルジオ様はこんなにも必死な形相でわたしに

縋っているのだろう。


でも……

あの部屋で抱きしめ合っていたのは

恋情からくるものではなかったという事?


そして手を繋いでいたのも

想い合っての事ではなかったと?



「俺が愛しているのはアニス、キミだけだ!」



……………え?



「わかってる、キミにとっては俺との結婚は王命によるものだという事は。でも俺は違うんだ。キミに初めて医務室で会った時からどうしようもなくキミに惹かれて、そして誰にも渡したくなくて強引にキミの夫となったっ」



………え?


「王女宮にいたのは本心、任務としてだけ。

そこに私情があるとすればイトコとしてだけだっ、

俺が心底愛しているのはアニスだけなんだ!」



えぇ?



「……セルジオ様……?」


「信じられないかもしれないが信じて欲しい。俺はキミに去られたらきっともう生きてはいけないっ‥‥」


今、捨てられまいと必死に

わたしにしがみ付いてるこの人は誰?


本当にセルジオ様なの?


え?


わたしを愛してるって……


強引に夫になったって……


ミセストンプソンの言っていた事は

本当だったの?


「そ、それは本当、ですか……?」


わたしは震える声を絞り出して言った。


「本当だ。真実、本当だ」


セルジオ様の瞳を見る。

焦りの中に強い光が見える。


嘘偽りない言葉だったと

心から信じられる、そんな光だった。


信じたい。


許されるなら、信じたい。



「わたしを……愛してるの?」


「ああ」


「わたしだけを?」


「そうだ

 

出会った時から。


キミだけを。


今は同じ想いでなくてもいい、


いつかキミも同じ想いを寄せてくれるよう


るよう努力するつもりだ」



あぁ…わたし達はこんなにも互いを想い合い、

愛しく想ってきたのに、

肝心な言葉を交わし合って来なかったのか。


彼は心を尽くして告げてくれた。


なら、わたしも怖がっている場合ではない。



「セルジオ様」


セルジオ様は黙ったままわたしを見つめている。


今、きっとわたしの瞳にも

強い光が宿っているのだろう。



「わたしも、心から貴方を愛しています。

きっと出会った時から同じように。

ただ、わたしはぼんやりで自分の気持ちに気付くのがセルジオ様より少し遅かっただけです。

だから……」


その続きは言わせて貰えなかった。


セルジオ様に強く抱き締められたからだ。


「あぁ……!アニスっ……!」



力強く、でも優しく、

彼はわたしを抱き締める。


こうやって抱き締められてみると、


あの日見た王女様を

抱き締める感じと全く違うのがわかる。


あの時セルジオ様から感じたのは

哀愁だった。

その時は結ばれない悲しみだと思ったけど、あれはそう、今ならわかる。

名付けるとしたなら“憐れみ”だ。


他国で呪いに手を出し、自ら振りかぶった王女への憐れみの感情だったのだ。


そして今、


王女様には申し訳ないが

わたしを包み込むセルジオ様からは

慈しむ心しか感じない。


わたしを心から求め、

愛おしみ、慈しんでくれる心。


それは大地に水が浸み込むように、

わたしの心にセルジオ様からの想いが沁み込んでゆく。


あぁ…こんな幸せな気持ちになれるなんて……



わたしは心から幸せだった。



その時、


わたしの下腹部にぽこりとした

感覚がした。


「……!」


ぽこ、ぽこり。



これは……きっとそうなのだろう。


初めての妊娠なので確信はないが、

これが母親の勘というものなのか

すぐにわかった。


わたしは今、胎動を感じた。


妊娠4ヶ月に入り、

少し早いと思うがおかしな事はない。


セルジオ様と想いが通じ合ったその日に初めての

胎動を感じたのにはきっと意味がある。



お腹の子に

背中を押されている。


今こそちゃんと告げるように、と。


ここから始めるように、と。



ごめんね、ありがとう。


頼りないお母さんでごめんね。



そうだね、


ここから始めよう。



「セルジオ様」



わたしは多分、


今まで見せたことのない笑顔で


彼を見つめているに違いない。



「セルジオ様、あのね……」



























アニスに妊娠を告げられた時の

セルジオの様子は後で出てくる、かも?

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