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怪人 “I “の人狼  作者: シズマ
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1.アイとの出逢い

筆者の人狼好きから生まれた作品です。

人狼ゲームで実際にあった騙された経験や驚かされた戦法などのプレイ記録も参考にしつつ、お話を考えております。


人狼が好きな方や、興味が少しでもある方に読んでいただければ幸いです。

 

 まぶしい陽の光を感じて目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。


 僕はベッドから身を起こすとあまりの寒さに身震いした。時期は冬、それにしても今日はよく冷えている。再びシーツに包まり、部屋の周囲を見渡した。


 こじんまりとした部屋は木造の壁に囲まれ、白いマットが敷かれた木のベッドとアンティーク風の机と椅子が置かれている。レースのカーテンがかかった小さな窓からは日差しが差し込んでおり、陽の高さから今は昼頃だろうとうかがえる。




 どうして僕はこんな場所にいるんだろう?

その理由を思い出すべく、僕は昨日の朝から起きた出来事を思い出そうとした。


 昨日は小学校が休みだった。家族は僕と母さんの二人きり、だから母さんは僕にかかりきりになる。僕が少しでも怠けるとお小言が始まり、終いには”ひすてりー”を起こす始末だ。昨日も母さんが”ひすてりー”を起こしだしたから、僕は家出するために繁華街に繰り出した。

 


 そこでちょっと汚れた白い犬に出会った。この犬の名前はシロ。シロも僕と同じように家に居場所がないからか、よく繁華街でうろついてはゴミを漁るような犬だった。

 

 僕らは似たもの同士で友達だった。シロと一緒に繁華街をぶらぶらと散歩しているとあっという間に夜になっていた。そろそろ帰ろうってシロは言いたげだったけど、僕はもうちょっとって、駄々をこねて道端に座り込んでいた。

 


 そうしていたら、若い女の人に声を掛けられた。彼女は、ミニ丈でスミレ色のドレスを着て、肩には白い毛皮を羽織っていた。いかにもド派手なギャルといった装いだったが、顔立ちはキリリとした知的な美人といった雰囲気で、赤い口紅が印象的だった。厚化粧だけど、僕の担任の教師みたいな嫌な匂いは不思議としない。

 

 肩にかかるくらいの金髪をふわふわと風に吹かせながら、彼女は柔らかい声で僕らに尋ねた。”私と一緒に来る?”って。僕はどうしても家に帰りたくなくてその人について行くことした。すると、シロも僕の後をついてきていた。シロは僕を心配してくれたのかな?




 だから僕はこんなところで寝ていたのかと、ひとりで納得した。だけどやっぱり少し不安だ。ここがどこだか分からないままだし、もしかしたら誘拐かもしれない。のこのこついてきた昨日の自分が恨めしい。一人であれこれ考えているうちに、どんどん不安が募ってきた。


 考え事をしていても不安になるだけだ。そう考えた僕は自分をここに連れてきた彼女を探すために、やっとベッドから抜け出した。机の上に置いてある赤いキャップを被り、つばを180度回転させた。この被り方が僕のスタイルだ。


 外に出ようとすると部屋には鍵がかけられていた。内側から鍵を外しドアノブに手をかけた。ガチャッ。ギギギギギギィ。扉を開ける音はここが相当古い建物であることを物語っていた。




 部屋を出ると目の前は木の壁、床には赤い絨毯が敷かれた廊下が続いており、この部屋の両隣に同じくらいの大きさの部屋があるらしい。

 

 自分の部屋に向かって左手の部屋の扉には白い菱形の装飾が、右手の部屋の扉には紫色の菱形の装飾が施されている。よく見ると僕の部屋の扉にも赤い菱形がついていることに気がついた。




 部屋に誰かいないか確認しよう。そう思ってまず紫色の扉をノックしてみたが返答がない。ドアノブに手をかけ、回してみるとすんなり開いた。中をこっそり覗いてみたが誰もいなかった。中は僕の部屋と全く同じ間取りで、置かれた家具も配置も同じだった。ベッドのシーツは綺麗に整えられていて、人がいた形跡すら見つけられない。


 紫の部屋は特に変わったところがなかったので、つぎは白色の扉の部屋を調べることにした。ドアノブを回すと、驚いたことにこちらには鍵がかかっていた。遅ればせながらノックしてみたが、やっぱり返答はない。


 ここで僕の”特技ピッキング”の登場だ。どうしてこんな特技が自分にあるのか、僕もよく分からない。ただ、小さい頃から”指が器用”で、悪戯に手を染めているうちに身につけたんだろう。この程度の鍵なら楽勝だ!そう思ってドアノブに手をかけたところ、



 “ピッキングなんてしちゃダメよ。”



そう声が聴こえた気がした。僕はびっくりして周囲を確認したけど誰もいなかった。僕は怖くなって、気のせいだと自分に言い聞かせた。再びドアノブに手をかけた瞬間、

 


 “私は貴方の相棒よ。”



と頭の中で声が響いた。僕は恐る恐る頭の中の声に尋ねた。



 “お前は誰だ?”



答えはすんなり返ってきた。



 “だから言ったじゃない、貴方の相棒だって。”


 

 僕はほとんどパニックになりかけていた。だって僕は頭の中で他人と会話しているんだから。自分の脳を誰かに乗っ取られているんじゃないか?そう思えて怖くて仕方なかった。

頭の中で声がまた語りかけてきた。



 “怖がらせてごめんなさい。でも安心して。貴方を悪いようにはしないから。だって貴方の相棒だからね。”



こんな言葉は少しも信用できなかったし、頭の中で声が聞こえるなんてことを信じたくなかったけど、僕も



 ”分かった。でも、君の指図は受けないから!”



とだけ返事をしてピッキングを開始した。



 ガチャ。という音でピッキングが成功したと分かった。ドアノブを回して中を確認すると、ベッドの上には白い塊が乗っかっていた。くるくるした黒い瞳でこちらを見つめていたのは、紛れもなくシロだった。



「シロ!」


 

 僕がそう叫ぶと、シロはベッドから飛び降りて僕に飛びついてきた。シロは尻尾を激しく振りながら僕の顔をぺろぺろと舐め回した。僕はシロに再会できたことで不安だった心が幾分か安らいだ。


 シロを抱き上げて部屋を観察すると、やっぱりこの部屋も全く同じ内装をしていた。ただ、犬のシロにも個室を貸し与えて、そのうえ鍵が掛けられたていたことに違和感を覚えた。この家の主人は変わり者だなぁ、なんて僕は思った。

 



 そういえば、頭の中の声はさっきから静かだ。僕の悪いようにはしないっていうのは案外本当かもしれない。だからといって、頭の中に自分以外の何かがいるのは不快だ。頭の中だけは僕だけの世界のはずなのに。そこすら何者かに侵蝕されるのは不愉快極まりない。そんなことを考えていると、また頭の中の声が話しかけてきた。



 “ふふっ、大丈夫よ。貴方の頭の中にずっといる訳じゃないから。”

 


 コイツのことを僕はまだ信用しきれないけど、この言葉だけは僕の精神衛生を保つために信じようと思った。そして僕は相棒と名乗ったコイツのことを”アイ”と呼ぶことにした。

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