好きになったら負け
農大の2年も後半になったとき、高校時代の友達である恵子や恵理子と映画に行ったり、初日の出を見に行ったりしていた。
そう、未だに二人友友達として付き合いがあったのだ。
俺は本当になんで・・・
そんなある日、同じ弓道部だった伊藤宣子と遊ぶ事になった。
最初は、専門校に行っていた宣子の所に行き他愛のない話で盛り上がった。
パスタが好きでよく食べに行っていた。
相手に本気で興味を持ってほしいと思ったのは初めてだった。農大を卒業し就職も決まっていたが、宣子の居ない所に行きたくなかった。
たまたま親から
「看板屋を買収したから戻って手伝って欲しい」
と言われ、実は花屋になりたく無かった事を言わず実家に帰った。
実家では日中は花屋、夜間看板屋をしていた。
てっきり1日看板屋をするものと思っていたのでストレスが溜まった。
しかも、支店の店長にされ動けなくなった。
部下もいるし、隣の売り場の人も毎日遊びに来てまぁ順調だったが思っていたのと違うので辛かった。
そんな状態でもドライブに誘い毎日のように愛をささやき夜共に過ごしたが、特に進展はなくいたずらに時が立ち夏になった。
良い人を続けるのだけでは駄目だと思い好きだと告白した。
雨の降る公園だった。
「ジオは良い人だけど友だちとしか見れないかな?」
と言い宣子は帰っていった。
そのまま動くこともできず雨の中ずぶ濡れになりながらベンチに座っていると宣子が戻ってきて
「なんで私なの?なんで諦めて帰らないの?」
と言ってきた。
「お前が好きだから。他になにもないよ。」
消え入る声で言った。
驚いた。
抱きしめられた。
てっきり不甲斐ない男と思いそのままどこかに行くと思っていた。俺はずっと強い自分を演じる事で相手の心を誘惑するものだと思っていた。弱い自分を見せることで誘惑される人もいる事を知った。
そのままキスをした。
そのキスは忘れない。
それから人生はバラ色に見えた。
今まで好きになられることに慣れていた俺は自分の手の届かないと感じた存在に手が届いた瞬間舞い上がった。
そんなハイテンション状態だった為か、誰にでも優しくなれたせいか困ったことに2個下のバイトの子がいきなり抱きついてきた。
(は?)
俺は自分がどうしようもないクズなのを忘れていた。ついついパーソナルエリアをぶち壊しバイトの子の心を蝕んでいた。
「彼女がいるの知ってます。でも好きなんです。今だけ一緒にいてください。」
「今だけ」はこの後「もう一度」、そして「いつまでも」と変わるのを知っている。
「ゴメン」
その一言だけ言うと離れた。
また少しずつ闇が心を濁していく。
俺は未だに人の心が分からない
そのすぐ数日後
支店横にあった食品売り場の10歳ぐらい年上のお姉さんが今度花火を見に行こうと誘ってきた。
ぶっちゃけ危機管理能力皆無な俺は年が離れてるし変な事にはならないだろうと思い一緒に花火を見に行った。
少し人のいない所がいいと言われ山の上から花火を見ていると突然
「あなたの事が好きでずっと見てました。最後に思い出をくれてありがとうございます。」
と言われ自分が何をされたのか分からなかった。
唇が熱かった。
その翌週そのお姉さんはお見合いをした事を聞いた。
まともに名前も聞いてないのにな・・・
俺は人の気持ちが解らない