【7】運命の月⑥
突然現れた人影は銃を持っていた男の右腕を折っていた。
「…ツ、ツクヨミ…?」
返事は無い。
だが分かる。
コイツは人形だ。
「なんなんだよぉテメェ!!!俺の腕をこんなにしやがって!」
銃の男が叫びながら人形に向かって銃を連射する。
当然、人形であるためダメージは負わず、堅い装甲で弾丸は弾かれていた。
「ば、バケモンだ…」
「お、おい!逃げるぞ!」
「待て!俺を置いて行くな!」
男達は慌てたようにこちらに背を向け、車に向かう。
「く、逃げられたら別の日に報復されかねない…!」
痛みを堪えながら立ち上がる。
「ほう。君は同業者か。」
突然後ろ側から声が掛けられる。
同業者…?
振り向くとそこにはおしゃれな喫茶店のマスターをしてそうな格好をした男がいた。
ボサボサ気味だがむしろ似合っている黒髪と眠たげだが鋭い目つき、うっすらと生えた顎髭…。
「ん〜?君は初めて見るなぁ?新人かい?あんな雑魚達相手に怪我を負っているし…」
「あ、あの?何のことか分からないんですが…同業とは?」
「え?君まさか知らずにその自動人形を使ったのかい?」
「?」
「あー、今さっき覚醒したパターンか…」
side誘拐犯
「おい、さっきのガキといつの間にか来た奴が話しているぞ!」
「あのバケモンは!?」
「動いてねぇ!今が逃げるチャンスだ!」
「待て!逃げるんじゃない。」
「「は?」」
「あいつらまとめて轢き殺せ」
side剛
「ん〜、じゃ自己紹介するわ。俺の名前は各務一だ。普段は商店街にある喫茶ミラーでマスターをやっている。で、たまーに断罪者をやっている。」
「断罪者…?」
「うん。人知れず世間の闇を排除する仕事だ。ただ、この仕事は簡単にはなれない。なぜなら聖具の適性が無いと出来ないんだ。」
「聖具…。もしかして…!」
「その通りだ。君の自動人形も聖具だ。だから君は俺と同業者って事だ。」
口調は明るいが渋い無表情を消さずに話をする各務と名乗った男。
断罪者…
「おっとあいつら逃しちゃヤバイ。捕まえて今までの誘拐された娘達の居場所を聞き出さなきゃ。」
「ん?」
「ん?」
「あの車こっち来てません?」
「あ〜、ありゃ俺らをまとめて轢き殺す気だなぁ…」
各務さんは焦る様子を見せない。
え…俺ら轢き殺されそうなんすよね?
「ん〜、俺の聖具じゃあれは止められないな。」
はあぁぁぁぁ!?
俺達だけじゃなくて葵まで轢き殺されてしまう!
「…止める。」
「お、やる気だねー」
各務さんはヘラヘラと笑いながらこっちを見る。
「実力見せてもらうよ。」
俺は人形の方を向き頭の中で動けと命じる。
するとツクヨミはカシャっと反応した。
猛スピードで迫り来る誘拐犯達の車。
焦りから来る震えを深呼吸をして落ち着かせる。
大丈夫だ。失敗はしない。
あと、10m…!
車の窓が開き、銃を持っていた男が叫ぶ。
「シネヤァァァァァァ!!」
焦るな!
あと5m…
4m…
3m…
2m…
今だっ!
人形が右腕を後ろに引き、拳を握る。
そして、近くまで来た車に向かってその拳を放つ。
バアァァァァァァァァン!
盛大に物と物が衝突した音が辺りに響く。
誘拐犯の車は突風を正面から受けたかのように後ろに吹っ飛んでいった。