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夏宮の主 3

気は進まないが足は夏宮に向かっていた。


このまま炎雄が汚宮で異臭を放ったままでも洋々には関係ないのだが、陛下に頼まれた任を途中で投げ出すような真似をしたくなかったからだ。


「失礼致します。」


珍しく部屋の窓が空いているようであったが、肝心の炎雄の姿が見当たらない。


一瞬、逃走したのかと考えたが表にも裏にも見張りの兵がいる。


不可能とは言わないが非常に難しいだろう。


あちこち探していると、裏庭から水音がした。


そっと覗いて見ると一心不乱に何かを洗っている炎雄の姿が見えた。


「炎雄様?」


声を掛けると、炎雄が振り向いた。


「その、昨日はすまなかったな。」


気まずそうな表情で侘びる姿に驚く。


昨日までの様子とは違い、まるで別人のようだ。


「何をされているのですか?」


大きな(たらい)一杯に押し込まれた様々な服が汚れた水のなかで泳いでいる。


「見て分からぬか?洗濯だ。」


綺麗にしていると言うかむしろ汚していると言った方が正しそうだが、黙っておいた。


「お手伝い致しましょう。」


洗ってはいけない素材や色落ちする素材が全て一緒にされていて、目眩がしそうになる。


時間はかかったが、何とか全ての衣類を干し終わった。


「洗濯ひとつにも、色々と決まりがあるのだな。」


風にはためく衣類を見ながら呟く。


よく考えれば良家の嫡男として育てられたのだ、洗濯など自分でしたことなどないのだろう。


「こっちの方も手伝ってくれないか?」


少し恥ずかしそうに掃除を試みた痕跡が見られる部屋を指差す。


「もちろんです。」


洋々はいつの間にか笑顔で答えていた。


それから少しづつ炎雄と洋々の距離は縮まっていった。


「洋々!稽古をつけてやる!」


「洋々、これはどうだ?」


「洋々、饅頭を食べるか?」


炎雄は最初の荒んだ様子が嘘のように快活で健康的な男になっていた。


「洋々、相談があるのだが。」


「相談ですか?」


日課の稽古を終え、炎雄の為に茶の用意をしていた洋々は手を止める。


「あぁ、その言いにくいのだが女人がどうなったのか知りたいのだ。」


「女人、ですか?」


「そうだ。連れていかれた二人がいただろう。」


炎雄が謹慎を受ける原因となった事件で投獄された女達の事だと気付く。


「俺が原因だということは分かっているのだが…。」


そう言って炎雄は大きく溜め息をついた。

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