秋 月抄 2
「敬意?そんなもの、とうの昔に捨てましたよ。」
月抄は鼻で笑うと玉蘭に自らの顔を近づける。
「でも陛下にとっては元婚約者でしょうから、情があるのも仕方ありませんね。」
玉蘭は慌てて周囲に誰も居ない事を確認する。
今の話を誰かに聞かれたくなかったのだ。
「大丈夫です、誰もいませんから。知られると困りますよね、色々と。」
英俊と玉蘭の婚約は、公にされる前に無くなった話であるため知る者は少ない。
先々皇と秋家の先代当主は親しく、次期当主とされていた英俊に末娘の玉蘭を嫁がせる約束をしていた。
急死して息子の浩全が皇になったことで婚約は立ち消えとなり、優秀だった英俊は官吏として浩全の側に仕えることとなった。
その後玉蘭と再会するまでの間に何があったかは知らない。
様々な噂が流れているが、あえて英俊には聞いていないのだ。
時が来たらいずれ本人が話すだろうと、それまで待つつもりだった。
「まぁ、これが何をしたか知ったら、そんな薄っぺらい愛情もすぐに消え去りますよ。」
「愛情、か。」
昔から何でも知っていて優しい兄のような英俊が好きだった。
ただそれは男女の愛情とはまた別物で、今の自分が英俊にどんな感情を抱いているのか分からない。
「これは人に取り入るのが上手ですから、騙されてはいけませんよ。」
「構わぬ。過去の英俊がどうであれ、今の妾には関係ない。」
それは真実だ。
地獄のような生活から抜け出し、今の地位を手に入れることができたのは英俊の力があってこそ。
例え騙され、利用されていたとしても良いと思っていた。




