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血の玉座
陽皇歴1238年未月。
暑い夏の盛であった。
一人の少女が皇となった。
建国以来、男が統治してきたこの国に年端もいかぬ女が君臨することとなるとは誰一人として、そして本人さえ想像していなかっただろう。
彼女の名は玉蘭。
黄金色に輝く豪奢な玉座に座る彼女の足元には大きな血溜まり。
力なく下ろされた手に握られた剣の先には若い男の首が転がっていた。
苦悶の表情を浮かべ死して尚彼女を睨み付けるのは兄、といっても異母兄弟であり先ほどまで皇であった者だ。
「これて終わったのか?」
玉座の傍らに立つ男に彼女は問う。
「いいえ。これが始まりなのです」
少し悲しげな表情で男が答える。
これから彼女に待ち受ける苦難や重責について思いを巡らせた男は自らに問うた。
この選択は間違っていたのだろうかと。
「英俊。少し休みたい。」
そう言うと少女は目を閉じた。
手から剣が滑り落ち、跳ねた血が彼女の頬を汚す。
そこに可憐で愛らしかった少女の面影はない。
後悔と己への嫌悪。
そして二度と戻らない日々を想い、彼もそっと目を閉じた。




