小さくも大きな一歩
着替え始めてから数分が経った。
今は着替え終わり姿見と向き合っている。
そこに立つ少女はとても愛らしかった。巫女服が似合うけも耳少女。身長のせいもあってか幼さは残っているが、それが表に出た。
本当に自分なのかと疑うレベルなのだが、これが現実。
この姿になって失ったものも大きかったが、どうやら得るものもあったようだった。
「可愛い・・・」
「ですね・・・」
二人が俺の後ろに立ちそうつぶやく。
「私たちは努力をして可愛さを繕っているのに、蓮ちゃんはこれで素って」
「寝て起きただけでそれは羨ましいです」
褒められているのか、それとも愚痴られているのか分からない会話に返答を困らせた。
「ありがとう」
俺はとりあえずお礼を言った。
「さて、そろそろ出よう」
今日はきっとやることがまだ沢山残っている。俺のコーディネートに時間をかけている暇などないのだ。二人は楽しそうだが時間が惜しい。
そう言って部屋から出ようとした時だった。
「ちょっと待って、まだ話が残ってる」
俺は引き止められた。まだ話が残ってる?
「女の子についてのあれこれ」
そう言えば部屋に入ってすぐにそんなことを言っていたな。先程まで濃い時間を過ごしたため影が薄れて忘れてしまった。
「と、言っても今はそこまで言うことはないんだけどね」
俺はベットに座り飛鳥と向き合った。
「性別が変わって分からないことがあると思うけど、なにかあったらちゃんと私達に言うこと。もちろん女性陣にね」
俺はコクリと頷いた。当たり前のことだが、分からないことがあれば相談をしておいた方がいい。自分だけで解決できるほど人間は万能ではない。だから感情というものがある。まぁ、それが私利私欲に走る原因でもあるのだろうが。
「それだけ?」
俺は聞いた。
これだけだったらさほど苦ではない。対して気にすることも無くやって行けるのだけど。
「いや、あとひとつ」
飛鳥は人差し指で一を作りながら言った。
「完全に女の子として偽って欲しい」
「え?」
俺は意図の分からない言葉に対して一瞬だけ固まった。
「理由はまぁ、その見た目で俺とか言われたら違和感すごいから、出来ればまず一人称を変えて欲しいの」
まぁ、そうか。確かに俺は違和感があるな。男だった時が惜しいが今は割り切ってなりきった方が吉なのかもしれない。
「分かった。わたし頑張る」
「そうそう、その調子」
そう言いながら飛鳥はわたしの頭を撫でた。
なんだろうか、この姿になってからどこか下に見られているような気がする。しょうがないのかもしれないが。
「これでとりあえずは終わり?」
「うん」
飛鳥がそう言ったのを聞いて凜音の方へと目を向けた。
先程まで静かだなと思って見てみたら、どうやら服の片付けをしていたらしく、先程まで無造作に置かれていたはずの服たちが全て綺麗に整頓されていた。
「凜音、ありがとう」
「別に、暇だったからしていただけです」
凜音は軽く微笑みながら立ち上がった。
「そろそろおりますか?」
「そうね、男性陣が私達をまっているだろうし」
飛鳥は立ち上がりドアの前に立ちドアノブ力に手をかけた。
「んじゃ、そう言うことでよろしくね」
「分かった」
わたしも立ち上がり二人のあとを追う。
今は二人と合流してリビングにいる。
「可愛くなったなー、蓮ちゃん」
「そうだねー」
二人は笑いながら言った。完全にいじりにきているのだと思うが、どこか隠し切れてない二人の同様を感じた。
『可愛いわよ。蓮』
アーシェアがわたしの頭を撫でる。どこか安心感を感じてしまった。神様だからだろうか。
まぁ、そんなことは今は関係なく。
「これからどうします?」
凜音がみんなに問いかけた。
「一応、お金の仕分けはできているよ」
美咲は五つに分けられた袋を一人一人に渡して言った。
それを見ていたアーシェアはどこかハッとした様子を見せたのをわたしはたまたま見てしまった。
『あ、大事なことを言い忘れてた!』
一体なんなのだろうか。言葉通りに重要なことだとは思うのだが・・・
『あなた達が持ってる他のスキルについて』
「他にもあったんですか!?」
わたしはアーシェアに聞き返した。
てっきり召喚前に頼んだスキルだけだと思っていた。
みんなも驚きが隠せない様子だった。
『まぁ、残りは全部みんな同じスキルなんだけどね』
アーシェアは少し下を向きながら苦笑した。
『まずは、みんな観察眼と言うスキルをもっているの。これは、気になる物を詳しく見ることができるスキルで、自分も見ることができるわ。試しに自分を詳しく見ようと意識してみて』
わたしは言われたら通りに自分を詳しく見ようと意識する。
すると視界に何やら文字が浮かんできた。種族や魔法へ適正、スキルへの対抗力や自分の持つスキルがそこには書かれていた。
ゲームで言うステータスと言う認識でいいだろう。
わたしはその中で極めて気になる物を見つけた。
「アイテムボックスってなんですか?」
『それはですね、アイテムをしまえるスキルです。色々なものを簡単に持ち運ぶことができます』
そんなに便利なものが・・・
もしかして自分たちは優位な立場にいるのでは? わたしは一瞬だけ思った。
「抑止力の影響は受けないのですか?」
抑止力の影響を受けたわたしにはととても気になることであった。
『それがね、この二つのスキルはどういう訳か抑止力に引っかからないの。わたしはこの二つのスキルは利便性に富んではいますがそれ以上ではないと思っているわ」
なるほど。二つとも使いやすいが、周りに大きな影響を与えるようなものではないと言うことか。
一瞬だけ期待をしてみたが、あまり優位に立てるものではないようで少し残念だった。
『まぁ、その他のことに関してはこれから機会がある度説明するから今は話を進めた方がいいわよ』
それもそうだともわたしは頷いた。
「さて、当初の予定通りギルドに行って冒険者登録をするってことでいい?」
「いいと思う」
と美咲が。
「異論なし」
と秦が。
「「いいよー」」
凜音と飛鳥が仲良さげに同時に。
「じゃぁ、行こう」
進み出そうとするとアーシェアから呼び止められた。
『私は外に出ることを控えたいし、仕事も残っているから神界に帰るは。もし、何かあったら言ってちょうだい。その場には行けないけど語りかけることくらいはできるから』
「わかりました」
返事をしながらわたし達はドアの元へと向かった。
「行ってきます」
わたし達は小さいが、大きな一歩を進んだ。
学校がやっと休みだよぅ。なかなか投稿できない・・・
次和がいつ出るかわからないので、ブックマークに登録していただけると早く気づけるはずです。あと、励みになります(笑)