動き出す歯車
目が覚める。
最初に目に入ったのはいつも見る白い天井ではなく限りなく真っ白な空。ベットに寝転がっていた筈なのに背には硬い床しかなかった。
ゆっくりと体を起き上がらせる。
「ここは、どこだ・・・」
周りを見て確認する。空と同様限りなく続く、白い空を持つ空間。夢ではないかと考えてみたがやけに感覚がリアルで何より意識がはっきりとしている。
それより。
「なんで、隣で寝てるんですか? 凛音さん」
先程からチラチラと視界には入っていたが「それは無いだろ」と無視してきた。が、さすがに触れずにはいられなくなった。ていうかぐっすり寝てるし起きる気配もない。少し悪い気がするが起こすしかなさそうだ。
俺は仕方なく肩に手をやり揺らす。
「あのー、起きてください。凛音さーん」
改めて美人だなとつくづく思う。本当になんで彼氏がいないのかわからん。
肩を揺らし続けると凛音の目がゆっくり開き出したと思えばといきなり目が一気に開く。そして一気に起き上がる。
「な、なんでここに白鐘くんが、ていうかここどこ!?」
「なんでここにいるのかはわからないし。ここがどこかもわからない。だから、気持ち良さそうに寝ているところを起こした」
そう言うと凛音は口に手を当てごにょごにょと話出した。
「いびき、かいてなかった?」
「全然かいてなかったよ」
「何もしてないよね?」
「してないですよ」
まぁ、女の子としては普通のことか。寝てるところを異性に見られたのだし。無防備な状態では何をされるか分かったものじゃない。勢いでしてないと言ったが、そこまで落ちてないし理性も保てる。
「お! お二人さんお熱いねぇ」
後ろから美咲らしき声が聞こえてくる。ゆっくりと後ろへ顔を向けるとそこには案の定美咲と秦、飛鳥がいた。
「いや、全然お熱くはねーよ」
「そう? ぱっと見俺にはそう見えたんだけど」
「ないない」
「それよりここはどこなんだろう?」
話の内容を変えたく強引に別の話を始める。
「わからないよ。俺達もさっき起きたばっかしだし」
「まぁ、そうか」
結局誰も分からない感じだった。もし何か知っていると言うならばきっと教えてくれるはずだし。
『それは私が教えましょう』
どこからともなく聞こえた誰のものでもない女性の声。
「誰だ!」
とっさに美咲が反応する。皆もそれに対して声がした方向へと顔を向ける。
そこには青い長髪の女性が立っていた。女性と言うよりは同い年に近いような気がする。白いドレスのような服装で身を包みどこか神々しく感じられた。
恐らくこの人が全てを知っていると仮定する。先程教えると言っていたので確信を持っていいだろう。
「ここはどこですか?」
俺はゆっくりと立ち上がりその人と向き合う。
『まぁ、そう思うのは無理ないですね。ここは私が作り出した一時的な空間です』
「一時的に作った空間? あなたは神的な何かで・・・」
『そうです。私は世界のバランスを保つ役割をもつ神アーシェア』
なるほど。非現実的すぎではあるが理解せざるおえない状況のようだ。アーシェア。そんな神の名前なんて俺の人生の中で見たことも聞いたことも無い。その部分で見れば信憑性が薄いと言える。
「俺達はなぜここへ?」
「それは・・・」
それから俺達は話を聞いた。
俺達がここへと連れて来れられた理由はこことは違う場所つまり、異世界を救うものに選ばれたという。
そこは剣と魔法が発達した世界。魔物という生物が生息し人や亜人、エルフや悪魔などが暮らす実に定型的な異世界。
異世界を救う。
何をするか。それは世界を支配しようとしている悪の権化、魔王を倒すためではなく、逆に悪魔達を守るために正義の権化、勇者を倒すものでもない。
かつてその世界では邪悪な魔王がいた。全てを自らのものにしようとする欲の塊。それに対して悪を倒すため勇者と言う者がいた。一件反対に見えるような二人だが、そこには唯一の共通点があった。それは異世界から生まれ変わり、前世の記憶を持ち合わせているという異世界転生者と言うものだ。この物語の結果は皆さん承知、正義が当然のごとく勝利を収めた。が、そんな綺麗事で物語は終わりなんかしなかった。
その世界で最強だった対峙する二人、当然の片方がいなくなればそれは唯一無二の最強となる。当然勇者は正義の権化。その力は弱きものを守るために使われるはずだった。だが、勇者は何を考えたか私利私欲のためにそれを使い始めた。
気に入らないものがいれば自らの力で消し去る。そんなことを繰り返し、勇者は女を囲い豪華な食事を食べながらまったり過ごし楽しく暮らしていた。
魔王種と言うのは定期的に悪魔の中で生まれてくる。勇者が好き勝手に暮らしているその間に魔王種は次々に誕生していった。気付けば勇者一人で対応できるようなものではないまでに。
それを見かねた神々は勇者の代わりに、沢山の転生者をその世界へと差し向けた。世界を救うために異世界へと強力な力と前世の記憶を持って生まれた転生者。
それはまた悲劇を繰り返す。
ほとんどの転生者は勇者と同じくその力を私利私欲へと使い始めた。
神の慈悲からか酷い人生を送り酷い死を迎えて死んだもの優先的に選んだ。
だからだろう。一度楽なものを知ると人間それが止められなくなる。決して苦労をしようとしない。それらは外来種の如くあたりを淘汰し増え続けその自らの力に自惚れ、世界の平和を壊してきた。
今もエルフの村が襲撃を受け幼い少女がさらわれている。その子達は奴隷として売り飛ばされ酷い扱いを受けている。
今も亜人の少女もさらわれている。その子達も同じく奴隷として売られ酷い扱いを受けている。いくつもの村がつぶされ何人もの人が命を奪われている。
それも神が転生者に与えた力によって、自らの欲のために。
同じ元人間だとは思いたくなかった。
『これが君たちにやってもらうことの動機』
「つまり転生者を殺す、と?」
凛音が頬に手を当てながら言う。
『そういうことです。あなた達には異世界に召喚されし者、異世界召喚者として転生者を殺してもらいます』
俺達が平和に暮らしている中で、別の世界では常に無慈悲に命が奪われている。もし、その命を俺達が救えると言うのなら俺は救いたい。それが例え偽善だと言われようとも。
先ほどの話を聞き俺の中にはそいつらを殺すことに対する抵抗など微塵もなかったのかもしれない。
「俺はやります。どうせ何事も成し遂げない人生だ。なら、命を救うためにこの命を使いたい」
「白鐘くん・・・」
俺の一言に何かを感じたのであろう、凛音が俺の名前を一言こぼす。
皆が黙り込む中俺は一人堂々と答える。どうせ何も長所の何も無い身、そんな俺が誰かの命を救えるというのならそれは本望だ。
「俺もやります!」と美咲が言い、秦と飛鳥もハッキリと頷く。
「私も同じく」美咲の一言を聞き凛音も答える。
それを聞いた神様はどこか納得したような表情で軽く頷く。
『たまたま私はあなた達を見ていましたが、ここまで優しい人達だったとは。ですが、最後に忠告を。転生者はとても強いです。持っているスキルも多種多様。それに対して召喚者のスキルは平民よりやや高め程度、生半可な努力ではとても倒せるようなものではありません。もちろんこちらもそれにともなった衣食住を提供し、自らが望むスキルを与えましょう。それでもやりますか?』
こう言われれば少し戸惑ってしまう。しかし・・・
「別に倒せないわけではないんでしょ? 神様」
その質問に対して俺も質問で返す。
『えぇ、確かに強いですが相手がどれだけ強かろうと勝てないなんて道理はないで』
「それなら、僕達の答えは変わりませんよ」
「そうですよね。みんな」
俺の一言を聞き凛音が相槌を加える。それを聞きみんなはゆっくりと頷く。
『わかりました。では、自分が欲しいスキル名を言ってください。ですが、強すぎるスキルはダメです。召喚される際に世界の抑止力が働いて何かしらの障害が発生する時がありますので。ですが、その世界にある薬を使えばほとんどの場合は治るのでご安心を』
強すぎるか・・・
まぁ、俺は複製術にする気だし。どうせ武器を複製するだけのものだ。できることなんてたかが知れてるだろうし、問題ないだろう。
『それでは皆さんどうぞ』
それを聞きまずは、美咲が答える。
「俺は超体術で」
その一言に続き秦は銃火器創造、明日香は絶対切断、凛音は超回復。タイミングよく話あっていたせいか、みんな答えるのが早い。
あと残るは俺だけ。
「まさか、こんなにはやく蓮くんが欲しいスキルが聞けるとは思ってなかった」
飛鳥がこちらを見てニヤニヤしながら言ってくる。さすが、話題を持ち出した張本人、それ相応の興味を持っているようだ。
俺達が戦うのはチート級に強い転生者。その能力は多種多様で全てが無慈悲。それに対して俺達は民間人と全てがさほど変わらないと言われた身。転生者に勝つにはもちろん互角がそれ以上の力が必要だ。だが、僕達にはそれができない。それでも俺達は世界を救いたいし、生き延びたい。
欲張りな考えだが、その願いを自らの手で叶えたい。
複製術、今の俺にあったスキル。世界を救うため、自らの誇りを張るため、生き延びるために一番最適で最短ルートとなるはずのスキル。だから俺は胸をはって言う。
「複製術」と
『これから召喚の儀を開始致します。私はあなた達の召喚後迷わないように導きます。異世界に行けば苦しいことも辛いこともあるでしょう。ですが、あなた達は世界を救う者。どんな無慈悲にも立ち向かい人々を救う、見せてやってください。本当の正義と言うものを、本当の優しさを。そのどちらを持っているあなた達なら出来るはずです。偽物の正義を壊せ、最悪をなすものをどんな手を使ってでも殺してください』
『健闘をお祈りします』
登校前に出すつもりでしたが、次話の出し方に戸惑ってしまい放課後に出す結果になってしまいました。