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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
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第8話

前話のあらすじ:太一、フィールド演習のモニターの方法に気づく

「掩蔽系の魔法はそれなりに得意なものだったんだけどね...これは気づいた生徒全員に一律で聞くことになっているんだけど、モニターの方法(私たちの監視)にはいつから気づいていたんだい?」


「気づいたのは、前半のグループの演習の様子を見ていた時ですかね。戦闘の様子はともかく、移動の様子までリアルタイムでモニターされているのに、ほとんどの生徒が監視(それ)に気付く素振りすら見せていなかったことが妙だなと」


「機械を使って監視している、という可能性もあったはずだけど」


「ほとんどの生徒が監視されていることに気づいていないということは、それだけ高度な掩蔽系魔法を使って監視を行っている、ということですよね。実際、先輩が隠れている位置を捕捉するのにも多少時間がかかりましたし」


隠れた建物の小窓から周囲の様子を確認するため、視線を先輩から外へと移しながら太一は続ける。


「それをもし、ドローンのような機械を使って監視しているとしたら、使用されているドローンは各国の軍が使うようなハイスペックなものになると思いますが、そんな機材を数十機も大学のためだけに準備しているとは思えません。そして、それだけハイスペックな機材であれば、それを操作するのにもかなりの技術が求められるはずです」


「そういった人材を育成するための演習...ということも否定できないと思うけど」


「それだけ高度な機械と人材を魔法大学が今回の演習のために揃えたと仮定しても、たかが高校生の演習―――しかも、自身の魔法を乱発する可能性の高い初回のフィールド演習に、ドローン(それ)を使用するとは考えにくかったので、人による監視だろうなと思ったんです。ただまあ、この演習に『何かあるな』と感じたのは先生の説明を聞いてた時ですが」


「それについても聞いていいかな」


「教室での説明、というか、最後の質疑の時に『この演習は”どう戦ったか”と”魔法をどう使ったか”を重視する』みたいなことを先生が言ってましたよね?」


「たしかに、そう言っていたね」


「演習である以上、『戦い方』が評価指標の一つとして使われることは妥当だと思いますが、このフィールド演習が『魔法を使った実戦形式の演習』であることを考えれば、戦闘に魔法を使うのは当然じゃないですか。なのに先生はあの時、『魔法をどう使ったかを重視する』と、あえて分けて説明した」


「...」


「ということは、『魔法をどう使ったか』という言葉には、『”相手と戦う以外の目的で”魔法をどう使ったのか』といった意味が隠れているんじゃないかと思ったんです」


「...なるほどね。それから君はさっき、私が使っていた掩蔽系の魔法が高度なものだと言っていたけど、君は使われた魔法の種類までわかっているのかい?」


「使われている魔法の術式を実際に見たわけではないので、正確かはわかりませんが、大よその予測であれば」


「もちろんそれで構わないよ」


「使用されている魔法は、光系統の魔法をベースとした複合式の魔法。光系統以外で使用されている属性は風系統と水系統の2つ―――それぞれの魔法の目的は恐らく、光系統魔法が光学迷彩の発動、水系統魔法が光学迷彩の補助と熱探知の阻害、風系統魔法が音波探知の阻害と移動時等に発生する音の抑制―――といった感じじゃないかと」


「術式を見ないで私が使った魔法をそこまでそこま分析しているとは...私たちの監視を見破ることができた生徒はこれまでにも何人かいたけど、監視するために使用している魔法を術式を見ることなく正確に分析できた生徒は君が初めてだよ」


「そうなんですね、てっきり先輩も同じように監視を見破ったと思ったんですが」


「たしかに、私も監視があったことは見破ったけど、使われた魔法が光系統か風系統の魔法をベースとしているだろうってところまでは予想したけど、君レベルの分析までは流石にできていないよ」


「ほめたところで何も出てきませんよ。あとこのバッチですけど、配布時に説明はされてませんでしたが、ダメージの計測だけじゃなくて、生徒の位置を捕捉するための魔法式も組み込まれてますよね?これは薄々感づいている人もいるとは思いますが」


「―――流石だね」


「でなければ、演習開始早々からリアルタイムで生徒の状況をモニターするなんてこと、できないでしょうからね」


「モニターといえば、冒頭の先生の説明の意図について、さっき連絡があったんだけど、概ね正解だったよ。ちなみに、『どう戦ったか』ということについても、チームを組む以外にも”魔法以外の方法使って”という意図を隠していたんだってさ」


「”どう戦ったか(そっち)”の意図もバラしてしまっていいんですか?」


「まあ、君は既にやっている(・・・・・・・)からね。うまく隠されているから目視では見つけにくいけど、この建物の周囲にワイヤートラップをいくつか仕掛けていたよね?」


「俺はソロなので、そういったものを使ってでも時間を稼がないといけない場面も時としてはあると思いますから。それにトラップの設置なら、他にもやっているチームはあると思いますが」


トラップの設置(・・・・・・・)という行為だけを考えればね...ただ、何となく気づいていると思うけど、君以外のところはすべて魔法によるトラップで、物理的なトラップを仕掛けているところはないんだ」


「前半のメンバー含めて参加しているメンバーほとんど身軽な格好でしたもんね」


「『演習への持ち込みは魔法具を含めて原則自由』というのは予め説明してあることだけど、魔法を使った演習だから、君みたいに魔法具以外の道具を持ち込んでくる人は圧倒的に少ないんだ...もちろん過去には事前説明の趣旨を理解して、ワイヤーに限らず、色々なものを演習に持ち込んだ先輩もいたらしいけど」


「実戦を想定した演習なんですから、演習中に魔法が切れた場合などを想定した準備もした上で参加するほうが本来は普通だと思いますよ?そういえば、今度の冬か春あたりに魔法大学の先輩方との合同演習がありましたね。その演習でそういった先輩方とチームを組むことは可能なんでしょうか」


「ああ、あの演習だね...詳しくは教えられないけど、君のような人たちがチームを組んだら間違いなく、戦う前から対戦相手を同情したくなるような最凶のドリームチームができると思うよ...いや、この場合は『最凶』ではなく『最狂』といったほうが正しいのかな」


先輩は苦笑いを顔に浮かべながら続ける。


「ただ君みたいに、演習場に魔法具を一切(・・・・・・・・・・)持ち込まなかった生徒(・・・・・・・・・・)は過去にもいなかったと思うから、実際組むことになったらどんなチームになるのか、全く想像できないけどね」


「今この手元にないだけで、一応準備はしていますよ?」


「そういうことならこれからは、その点も含めて監視させてもらうよ...さて、いろいろと話し込んでしまったけど、最後に1つお願いがある」


太一の監視をする先輩が姿勢を正したのを見て、太一も外に向けた視線を再度先輩へと向けた。


「今回君は監視者である私を発見したこと、監視に使用されている魔法を当てたこと、そして先生の説明の意図に気づいたことによってこの演習の成績の加点が決まったわけなんだけど、今回気づいたことを他の生徒には絶対に口外しないでほしい」


「そのくらいはいいですけど、何故ですか?」


「それは、この演習が『魔法の技を鍛えていくこと』だけを目的としているのではなくて、今はまだ見えていないもの、気づいていないことに気づくためのスキルや経験を培うことも目的としているからなんだ。もしこの意図を教えてしまうと、点数稼ぎをする生徒たちが出てきてしまう―――そうなってしまったら本末転倒なんだよ」


「そうしたくないのであれば、加点されることを学生に言わなければいい話なのでは?」


「言わなかったら、『みんなが気づいていないことに気づいたのに評価されなかった』と不満を持つ人が出てくる可能性もあるから、『評価している』ということはきちんと言っておかないといけないんだよ」


「あー...なんか容易に予想がつきました。たしかにそういった人っていますね」


「その代わりペナルティーもある。演習で気づいたことを口外した場合は、それを説明した人だけではなく聞いた人も含めて演習の評価が最低評価になってしまうんだ...もちろん、意図せず聞いてしまった場合は考慮するらしいけどね。この演習の評価は今後の進路においてかなり重視されていて、ここで最低評価を取ってしまうということは、自身の将来を潰してしまうことに繋がりかねないから、誰も言わないみたいだけどね」


「ああ、だから監視(これ)について知っているような人がいなかったんですね」


「私が今こうやって説明しているのも、口外させないためにわざとやっているところもあるんだ、言ってしまえば一種の脅迫...みたいなものかな?私からの説明は以上になるけど、最後に何か聞いておきたいことはあるかな?答えられる範囲で答えようと思うけど」


「じゃあ、2点だけいいですか?」


「何かな?」


「まず、先輩の名前をお聞きしたいと思いまして」


「そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前は烏岩(くろいわ)(りょう)、少し珍しいけど、『烏』に『岩』と書いて『くろいわ』と、読むんだ」


「烏岩先輩ですね、覚えておきます」


「それで、もう一つの質問は何かな?」


「居場所がばれたときに烏岩先輩が『あの人が注意していただけのことはある』って言ってましたけど、その人の名前を教えてもらってもいいですか?恐らく...というか十中八九、俺の知り合いのあの人だとは思いますが」


「君が通っている高校の近くにある洞宮寺の住職だよ。あの方は時々、魔法大学で掩蔽系の魔法や情報管理に関する講義を行っているんだけど、この前の講義の時に君のことを少し話されていてね、それで覚えていたんだよ」


「ああ、やっぱりあの人か」


「ただ、『自分のことは”和尚”と呼んでくれ』としか言われなかったから、フルネームは私も知らないんだけどね...さて、質問は以上で大丈夫かな?」


「はい、大丈夫です」


「演習ももう少しで開始から半分が経過しようとしているけど、これから君がどう動いていくのか周囲からしっかり観察させてもらうね。最後まで隠れてやり通すというのもありかもしれないけど、個人的にはそろそろ動き出したほうがいいかなと思っているよ。ではね、鎖藤太一君」


その言葉を最後に太一を監視していた先輩は再度魔法を発動させ、自身を周囲の景色に同化させるようにしながら姿を消すのであった。


第8話更新しました。


会話が多くて主人公の戦闘シーンになかなか入れていませんが、次話以降から増えていく予定です。


これからもよろしくお願いします。

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