第56話
前話のあらずじ:太一、大学生の先輩相手に圧倒する
「―――姫川、蒼真」
肩で息をしていた大学生の1人は槍状の魔法具を肩に担ぎながら近づいてくる蒼真を視界に入れるとそう言った。
―――――しかしその発言は、今回に限って言えば悪手であった。
「...へぇ、俺のことを知ってるってことは、お前らが魔法大学のキャンパスに通ってるやつらってのは間違いなさそうだな」
そう言いながら蒼真は太一たちのところへと歩を進める―――のだったが、
「―――けどよ、残念ながら俺はお前達のことを知らないんだわ」
「―――っ!!!」
蒼真が続けて放った発言に、その大学生の背筋に戦慄が走った
「悪りぃけど、|一体どこのやつらなのか《お前らの所属と名前》、ちょっとこの場で教えてもらおうか」
―――自分たちの正体と目的がばれている
蒼真の発言からそう感じ取ったその大学生は、隣で剣を杖して蹲っていた仲間を急いで担ぎ上げると、煙幕の魔法を急いで発動した上で、蒼真が入ってきた門とは別の方向にある門へ向けて走り出した。
「おいおい、敵前逃亡を俺がみすみす見逃すとでも思ってるのか?」
そう言いながら蒼真は、この場から逃げようとする2人に向けて槍を構え、何か仕掛けようとしたのだが...
「...鎖藤、これは一体どういうことだ?」
構えていた槍を太一が左手で掴み、追撃を制止したのだった。
「姫川先輩、今日は目的があってわざわざ関東第一まで足を運んできただんじゃないんですか?だったらあんな奴ら、相手にする必要ないですし、そもそも追う時間が無駄です」
「お前、言ってることがわかっているのか?あいつらはもしかしたら―――「ええ、わかってます。わかった上でそう言ってるんです」―――何か策があるってことだな?ならまずはそれを聞いた上で判断しようじゃねぇか...だったら烏岩、さっさと行くぞ。それとこの前呼び出したお前らもちょっと来い。話しておきたいことがある」
「姫川先輩、そんな態度じゃ相手を委縮させるだけですよ?...石動君、申し訳ないけど着替え終わったらこの前のメンバーで生徒会室まで来てほしい。細かいことはそこで説明するから」
「わかりました、出来るだけ急いでいきます」
そう言い残して校舎へと向かっていく蒼真たちを見送ったのち、太一たちは急いで片付けと着替えを済ませ、生徒会室へと向かっていた。
「―――役者も揃ったことだし、俺があの2人を追うとした時に鎖藤がそれを妨害したことについての説明をしてもらいたいだが...その前に確認だ。お前らの後ろに並んでるその6人は一体どういうことだ?俺が呼んだのは、前に座ってるお前ら5人だけのはずなんだが?」
場所は変わって生徒会室―――
先ほどの行動について、蒼真は太一に説明を求めようとしたのだったが、その場には何故か咲希やリサ、聡祐といった涼が呼んでいない生徒も同席していた。
「しかもそのうち何人かは、俺たちが生徒会室に入るよりも前からここで待ってたよな?一体どういうことだ?」
蒼真はそう言いながら太一たちの後ろに座るメンバーを確認した後、視線を太一へと戻してそう問いただした。
「...私たち、お呼びじゃなかった感じ?だったらどうしてここに急に呼び出されたのよ」
「リサちゃん、それを私に聞かれても困ります。私だって急に呼ばれたんですから」
太一たちの後ろで蒼真たちから隠れるように小声でヒソヒソと話をするリサと茜。
しかし、それも仕方ないことだろう―――かく言うリサや茜たちもまた『呼び出された側』だからである。
つまり、何か理由があって呼び出されたはずなのに、生徒会室に行ったら先輩と思しき人から『どうしてここにいる』と言われんばかりの視線でにらまれたのだ。
しかし、リサたちを呼び出した当の本人は、sんな蒼真の視線や口調も意に介すことなく、淡々と返事をした。
「ここにいる全員が今度の件の関係者になるからですよ。部外者をここに呼んだりなんてのは流石に俺もしません」
「関係者...つーことは、後ろに座ってるその6人がお前らが推薦したいと思ってる2年の候補者ってことか?」
「そういうことです。だから今回の件も一応知っておくべきだろうと思って順一郎経由でいで呼んでもらったんです。そういうことなので、そろそろ説明に入っていいですかね?」
そう言って太一は、蒼真たちの了解を取ることなく今回の件―――蒼真の追撃を止めたことだけではなく、あの2人を相手に自分たちが取った行動も含め―――蒼真と涼の2人に説明を行った。
「―――要するに、お前らはあいつらが何者で敵情視察に来たのかもわかった上で相手をしてたってことか?」
太一からの説明を受けた蒼真は、その内容を概ね理解した上で、その真意を改めて太一に確認した。
「どこの学校が来るってのまでその時点でわかってたわけじゃないですけど、対抗戦で戦うことになるどこかの学校が敵情視察をたぶん...ってか、間違いなくやってくるだろうってのは容易に想定できたので、それに対する準備を予めした上で今回、あの2人の相手をしたってのは間違いないですね」
「しかしだ鎖藤。相手だってお前らがそういった対策を取ることを想定しないほどバカじゃねぇんだから、天宮が手を抜いたことに気づいてないとは限らないだろ?」
「だから途中から俺が介入したんです」
「どういうことだ?」
「まあ、黎と...天宮の魔法具には少々細工もしましたけど、もしあの場を天宮1人に任せていたら姫川先輩の言う通り、手を抜いて戦っていることを見抜かれたと思います。けど、その場面に俺が絡んだからこそ、あの2人にそういった考えではなく、『天宮はあまり手を抜いていなかったんじゃないか』『関東第一の学年3位の実力はこの程度』といった誤った考えを植え付けることができたと思います」
「魔法具を弄ったって少々やべぇ発言があった気もするんだが、それはちょっと置いて、後半の内容をもう少しわかるように説明してくれないか?どうしてお前が介入することが相手に誤解を与えることに繋がるんだ?」
「この前のフィールド演習の結果...ってか点数ですよ」
「「!!」」
太一の回りくどい説明に理解が追い付いていなかった蒼真と涼だったが、この発言を聞いて太一が意図したことを理解した。
先日のフィールド演習において、太一は特進クラスの中で総合1位を取っていたが、その点数は公表はされていないものの、総合2位であった順一郎や同率3位の肇や黎斗と比べて明らかに高かったのだ。
演習―――特にフィールド演習―――の点数差は、その者たちの実力差を知るための1つの指標となり得るものであり、その差が大きいということは、各人の実力にもそれだけの差があると考えるのが一般的だ。
今回の演習で太一の点数が高かったのは、涼を見つけたことによる加点の影響が一番大きいのであるが、それはごく一部の関係者しか知らない情報であり、調べても容易に出てくるものではない。
しかしながら、詳細な点数は把握できなかったとしても、太一の点数が他の生徒よりも特に高かったという事実は容易に入手することが出来る情報であった。
太一は点数差を利用することにしたのだ―――
黎斗が比較的全力で対応しているように見せかけながら戦わせた後、自分自身が相手を完膚なき形で叩くことで太一と黎斗の実力差を相手に体感させ、『1位と3位にの実力に差があるのは明らか』『3位の実力は概ねこの程度』という誤った認識をインプットさせることを考えたのだ。
もちろん、今回は疲労がある中の摸擬戦であるため、連戦による影響を多少考慮するとは思われるが、それを踏まえたとしても、現時点での黎斗の技量...ひいては太一を除いた関東第一の2年生の特進クラスの実力を誤認させることは見事成功したのだった。
なお、ボーナス加点を知らない蒼真・涼・太一を除いたメンバーは、順一郎たちは太一と蒼真のやり取りを理解できずにいたが、口を挟むべき内容ではないことは理解していたのか、太一たちのやり取りをただ黙って聞いていた。
「ちなみに今回、天宮は何割落ちで対応したんだ?」
「今回は出力3割減...ってところですかね?なので相手さん、天宮の技量は色々考慮して本来の2割くらい低めで見積もってると思いますよ」
「2割ってのは結構でかいアドバンテージだな...とりあえず、さっきの話で俺たちが来る前にあいつらと対峙していた理由はわかった。だが、その説明からすると、『どこが仕掛けてくるのか』はわからないはずだよな?とすれば、あの場で俺の行動を止めたことへの説明としては不十分なはずだ」
「先輩の言う通り、もしあの場で2人のどちらか一方でも捕えることが出来ていれば、相手を明らかにすることが出来た可能性は高かったと思う。なのに、どうして君はあの場で先輩を止めたりしたんだい?」
これまでの太一の説明には理解を示した蒼真たちであったが、相手が誰であるのかを再度太一に確認した。
「簡単な話、あっちが自爆してくれたからですよ」
「自爆...?つまり、あいつらが自分の出身校をゲロったってか?それは今回の目的からして、基本...つーか絶対やらねぇ行為だろ」
「たしかにあの場で出身校がどこかってのは言ってないですけど、あの2人の片割れ、うちの高校のことを東一って言ったんですよ。そしてもう一方もそれに疑念を抱かなかった」
「東一...ですか?この学校のことを言うときは普通、関東第一って言い方をしていると思いますけど...」
「そうね。そんな言い方、私もしたこともないし、周りからされたこともないわ」
聞きなれない太一の発言に彩音とリサが疑問を呈し、他の生徒も概ね同様の反応を示していたが、そんな中、蒼真と涼の反応は異なっていた。
「...っ、関西第二か!」
「そう言えば、関西第二の生徒の一部に関東第一のことをそう言う人たちがいるってのは聞いたことがありますね」
「それがわかった以上、あの場であの2人を捕まえる必要性がなくなったんですよ」
「...関西第二がわかってたのなら、そりゃあの2人を何としても捕まえなきゃならないって理由はなくなるわな」
「それに、仮にあの場所で2人を捕えて情報を吐かせて、それを理由に抗議したとしても、関西第二は『卒業していてもう関係ない』だの『自白は理由にならない』だの言って、こっちの抗議をのらりくらりと躱しそうな気もしましたし」
「...そう言った行動を取ってくる懸念があったことを考慮するのであれば、あの場所でもし先輩があの2人を捕らえていたら、『強引に捕まえて自白させた』とか『優位に立とうとして関係のない生徒を巻き込んだ』といった言いがかりともいえる行動を取ってきていた可能性もありましたね」
「そういや、過去の演習で関西第二がちょっかい出してきたことに抗議した先輩が何故か逆に難癖付けられた―――って話、昔聞いたような記憶があるわ」
蒼真のその発言を聞いた涼は少々呆れたような口調で蒼真に向かってこう言った。
「...姫川先輩、少々今更感はありますけど、その情報はとても重要かと」
「俺も言われるまで忘れてた...っつーか、関西第二のことはあんまり考えないようにしてたんだよ。俺はそう言うやつらを実力でねじ伏せちゃいたが、それでも一部からは裏で結構言われてるからな」
「卒業後の進路や合同演習の評価とか、特に年次の高い人を中心に関西第二と関東第一を何かと比較して、目の敵にしてくる連中が多いって話は俺でも聞いたことありますからね。実力のある人もいるらしいですけど」
「実力があって堂々と言ってくるやつはいいんだよ、むしろそっちの方が好感が持てる―――とにかく、鎖藤があの時俺に対して取った行動は今までの説明からすると、どれも俺たちにとってメリットとなるものだったってことになるな」
「姫川先輩の追撃止めたことは結果論としてそうなったって話ですけどね」
「結果論だろうと何だろうと、こっちが不利になるような状況を未然に防いでくれたってだけでも御の字だ、助かった」
そういって蒼真は太一に頭を下げたのだった。
遅くなりましたが第56話、更新しました。
ちょっとスローペースの更新になってしまっていますが、執筆は継続していきますので、これからもお付き合いいただければ嬉しいです。
引き続きよろしくお願いいたします。




