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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
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第53話

太一、整備の重要性を説き、山野を説得する

一時間後、室内演習場の各所に散らばって太一の試作魔法具のテストを行っていた一心や聡祐たちが太一のいるところへと戻ってきた。

―――なお、肇、黎斗、リサ(実戦演習組)はリサがガス欠(魔力切れ)になったこともあって10分前に戻ってきている。


「大熊、北上、渡した魔法具の使い心地はどうだった?」


「これまでに使ったことのない魔法具だから、使いこなすレベルになるまではまだ時間がかかると思う。だが、俺の魔法具との相性もよさそうだし、これがあればこれまでとは違う戦い方や将来が見えてきた気がするから、少しでもこれを使いこなせるようにとにかく今はしっかり練習を積んでいきたい」


「概ね大熊君と同じ感想だね。ただ、もしこの魔法具にもう少し前にめぐり合えていたら、この前の演習でチームを組んだみんなを、あんなことに巻き込むこともなかったのかな...とも思ってしまうよ」


「北上くん、あれは...」


少し遠い目をしながらそう話す聡祐に彩音は声をかけようとしたが、それを遮るように聡祐は発言を続けた。


「白崎さん、もちろんわかっているよ。あれは自分の魔法やその技術に対する自信のなさ...自身のふがいなさ(・・・・・・・・)が起こしてしたことだというのは。だから、今度同じような状況に遭遇した時に、それを繰り返さないように、技術をしっかり磨いていきたいんだ」


「...(私が北上君に言いたかったのはそういうことじゃないんだけど)」


「白崎、お前が思ってることはなんとなく想像はつくが、北上自身がこれだけの発言ができるようになってきたんだ。だったらそれを信じてみるのも仲間ってもんだ」


「...鎖藤君にそこまで言われるのはなんかちょっと、癪ですけど、今回は信じてみようと思います」


「癪とはなんだ、癪とは」


「それは何度も言いますけど、鎖藤君の日頃の行いのせいです。そう思われたくないんだったら、授業をサボったり、授業中に寝たりしないでください」


「学校側やクラスの誰かに何か迷惑かけてるわけでもないんだから問題ないだろ」


「『迷惑かけてないことだったら何でもしていい』というその考えがそもそも間違ってます。鎖藤君がサボっている姿を見た人たちが『そういうことをしても許される学校』と思う可能性だってあるんです」


「白崎さん、少し落ち着いて。太一の行動は白崎さんが言う通り問題だし、改善させないといけないことだけど、今はそれじゃなくて集まってもらったみんなが主役だから...」


「あ、あの、えっと...ごめんなさい」


ヒートアップしそうな雰囲気を感じた順一郎が2人の会話に割って入ると、彩音も周りが見え始め、顔を少し赤くしながらみんなに謝った。


―――無論、謝罪の対象に太一は入っていない。


「...ねぇ肇、彩音と鎖藤(あの2人)って口では言い合ってるけど、なんだかんだ仲いいわよね?」


「さっきみたいに太一と白崎が言い合う姿は俺もここ数日だけで既に何度か見たが、犬猿の仲ってわけじゃないな。白崎も太一のことを心底嫌ってたらあんな突っかかることもないだろうし」


「なあ紅川、この前のフィールド演習でも担当した先生から「夫婦喧嘩はほどほどに」って言われてなかったか?」


「...確かに、そういった発言もあったな」


「それ、滅茶苦茶仲がいいじゃない」


「仲がいいかはわかりませんけど、鎖藤さんに話している?時の彩音ちゃんの表情って、なんだかイキイキしている気がします」


「あ、それもわかる!」


「もう、茜ちゃんもリサさんも茶化さないでください!」


「柳さん、戸木田さん、太一と白崎さんのことで話したいのはわかるけど、時間に余裕があるわけじゃないから、今はこれからどうするかについて話を進めさせてほしいんだけど、いいかな」


「ジュンの言う通りね。室内演習場( こ こ )を使える時間も迫っているから、それは後にしなさい」


ガールズトークに突入しそうになる2人の会話に彩音が顔を少し赤くしながら割って入り、順一郎と咲希も同様にリサたちに注意をした。


「はーい(わかりました)」


「それで太一、今回提供してくれた魔法具によって、先輩たちに今度の対抗戦の学年代表として推薦したい5人が、他の学校も含めた2年生の成績上位のメンバー...もしかしたら先輩たちとも張り合えるだけのポテンシャルを持っているかもしれないということはわかった。だけど、対抗戦まで時間がない中で解決しないといけない課題もいくつかある。まずは先輩たちへの説明だ」


「そういや、うちの学年の代表メンバーの基本的な選定はこっちでやっていいって言われたけど、最終決定は先輩たち(あっち)でやるって話になってたな」


「大熊君や柳さんたちには少し不快に聞こえるかもしれないけど、特進クラス...特に成績上位者と進学クラスとのでは魔法の基本的な能力にはどうしても差がある。進学クラスからの選出が1人くらいだったら了承されるかもしれないけど、4名も選出するとなれば状況は違って、先輩たちからも恐らく反対や危惧する意見が出される可能性が高い。それを一人で説明して納得させるのは難しいから、烏岩先輩たちへの説明の際は太一、君も必ず同席をしてほしい」


「柳や大熊たちが魔法具を使ってるところは動画を撮ってあるから、それ見せれば大丈夫な気もするが、メンバー選定については俺が言い出したことでもあるし、出たほうがいいだろうな」


「説明の場に太一が行かなかったら、間違いなく姫川先輩から文句を言われると思うよ」


「そんな面倒ごとはお断りだ。ただ、事情があって明日から数日休むから、説明の場をセットするんだったら来週の半ばあたりで組んでくれるとありがたい」


「鎖藤君、またサボりですか?」


「言っただろ、事情があるって。詳しい内容は言えんがうちの事情(・・・・・)だ」


「あっ...」


数日休むという太一の発言から、またサボろうとしているのではないかと怪しむ彩音だったが、その事情というのが太一たちが生活する施設に関わることであることを理解した彩音は口を閉ざした


「彩音ちゃん、どうかしましたか?」


「えっと...何でもないので気にしないでください茜ちゃん」


「そうですか?だったらいいですけど...」


「ごめんね、心配かけちゃって」


「家の事情で明日から暫く休むのは仕方ないけど、そうしたら、決まった日程はどうやって伝えればいい?」


「うちのおっさんに連絡入れるか、スマホにメッセージを残しておいてくれれば時間があるときに見ておくからそんな感じで宜しく」


「わかった、じゃあ2つ目だ。今回魔法具をもらったメンバーは特に、その魔法具の習熟に時間をかけないといけないけど、今この時点で対抗戦の代表メンバーやそのメンバーが使う魔法を見せるのは相手に対抗策を講じるための時間を与えることになるから、練習も出来る限り室内演習場を使ったりして情報の流出は避けたほうがいいと思っている」


「情報流出対策については魔法具だけじゃなく、天宮たちの魔法具に入れた魔法式も含めて対策が必要だが、大よその方向性...基本的な考え方は同感だな」


「ただ、この学校にある室内演習場は数も限られてるし、他の生徒が使うこともあって、いつも空いている...毎日好きな時間に練習できるわけじゃない。とすると、対抗戦本番までに魔法具の習熟が終わらないというリスクもあると思うけど、それについてはどういった対策を考えているんだ?」


「とりあえずそれについては校長あたりに言って教師用の室内演習場を貸してもらうしかないだろ」


「ねぇ、それって大学の室内演習場じゃダメなの?この前のフィールド演習だって大学の演習場を使わせてもらったじゃない?」


「関東キャンパスにも関東第二や関西第一といった他校から進学してきてる先輩もいるから、大学の演習場に高校生(俺たち)が足繫く通ってたら、そのメンバーが対抗戦の代表ってのが早々にわかる可能性がある。各校の代表メンバーが正式に発表された後からだったら使ってもいいと思うが、それまでは少なくとも避けるべきだろうな」


「それと、これは気を使いすぎかもしれないけど、そのキャンパスに通っているわけでもない高校生(僕たち)が大学の室内演習場を何度も使うというより...優先して使っている姿を見るのは、そこに通っている先輩たちからしたら出身高校がどこかに関わらず、やっぱりあまり気分のいいものじゃないと思うから、その辺りへの配慮という点からも控えたほうがいいかな」


「そういった何気ない行動から推測できるものはあるし、関係のないところに気を配らないといけないのも面倒だから、そこまでして借りる必要はないわね。今のタイミングで大学の演習場を使うってのはなしね」


太一と純一郎の説明に納得するリサ。


「それ以外の方法があるとしたら、民間がやってる演習場を借りて練習するだな。移動含めて多少金がかかる話ではあるが、備え付けてある計測機器はそれなりのものが入ってるだろうし、融通が(・・・)利きそうな《・・・・・》アテ(・・)もないわけじゃないからな」


「融通がきくアテって...あなた、本当に私たちと同じ高校生?」


「同じ高校生じゃなかったら、関東第一( こ こ )に通ったりはしないだろ。違うところがあるとしたら、お前たちに今回渡した魔法具(試作品)を含めて俺が作る魔法具は基本スクラッチだから、機器が揃ってる室内演習場(そういった場所)は魔法具の動作確認でよく使うんだよ」


「そう言われると納得せざるを得ないのよね...なんかすごくモヤモヤするけど」


「リサさん、それが普通の感覚ですよ。鎖藤君に対してそのモヤモヤを感じなくなったら感覚がマヒしている証拠です」


「リサ、太一(あいつ)が言う普通と、俺たちが考える普通は違うってことを理解しておけばいい」


「私もさっき、言われたばかりだけど、彼は普通(・・)というものさしで測ったらだめだそうよ」


「...同じクラスの肇や彩音たちから言われるだけならともかく、咲希も含めたみんなからここまで言われるってことはよっぽどね」


「太一の異常さは今に始まったことじゃないけど、今は今後の話が大事だから先に進めよう。残る問題は2つ目の問題に近いけど、他の学校からの情報収集への対策についてだ」


「情報収集へ対策...?石動君、それってさっきまで話してた情報漏洩とは何が違うのかしら?」


「さっき確認していたのは、自分たちがとれる対策で、これから太一に確認したいのは他の学校からの情報収集への対策...つまり『外の対策』だね」


「外の対策?」


「対抗戦が実施されることは既に各校に連絡が行っているか、近日中に連絡が行くでしょうから、これからはどういった生徒が代表になるか、そして代表に選ばれた生徒の実力がどの程度かについて、各校間での探り合いが始まるということよ、リサ」


「先輩たちはこれまでの演習の様子やその成績から、概ねの実力を推測することはできるけど、高校2年生( 僕 た ち )は入学時や1年時(去年)の成績といった基本的な情報はあってもフィールド演習の様子やその結果といった情報は恐らくほとんど出ていないからね。そうすると、対戦する高校がどの程度の実力を持っているのか調べようとするところも出てくるだろうから、その対策をどうするかということだね」


「学校によっては俺たちに対して威力偵察を仕掛けてくるところもあるかもしれない...ってことか?」


「そういったことはないに越したことはないけど、太一も言っていたように、関東キャンパスに通う先輩は全員が関東第一出身というわけじゃないから、例えば関西のチームが今関東キャンパスに通っている先輩を通じてそういったことを仕掛けてくる可能性も否定はできないね」


「まあ、悪い状況への対策は事前に考えておいた方がいいのはその通りだな...太一、この件に関して考えてることはあるのか?」


「策がないわけじゃないが、基本的な関係者が集まる場所以外で今回渡した魔法具を使わないってのが対策になるな」


「鎖藤さん、それは授業も含めてですか?情報漏洩を起こさないための対策としてはそれが一番いいのは私もわかりますけど、授業でも使えなかったら魔法具の習熟にさらに時間がかかることになりませんか?」


「戸木田の言いたいこともわかるが、今回の対抗戦については先輩たちは優勝を狙っていきたいと意気込んでたし、その重要な鍵になるのが手の内が明らかになっていない俺たちだと言っていた。それだけの思いがあるんだったら可能な範囲で協力していくべきだろう...ってのが石動あたりが考えそうな意見だな」


「...まあ、否定はしないね」


順一郎は少し苦笑しながらも太一の発言に同意した。


「学校には悪いが、学校の授業は今回渡した魔法具が故障した場合の対応を練習する場として使ってもらういたい。もちろん、本番でそういったことが起きないように魔法具は俺と山野の方で可能な限り整備するが、100%大丈夫とは言い切れないからな」


「それはそうね。咲希はちょっと例外だけど、私も茜も石動君や肇たち特進クラスのみんなと違って魔法について何らかの問題を抱えているわけだから、試合中に故しょ...不具合が起きて突然使えなくなった時にパニックにならないとは言い切れないわね」


「この魔法が使えなくなった場合を想定しないといけないのは俺も同じだな。俺の場合はこれと同じ重さのおもりを脚につけて練習するなりしたらある程度は代用出来そうだ」


「そう言われるとそうですね...頑張ります!」


「太一、基本的な対策は僕もそれくらいしか取れるものがないとは思うけど、基本的に(・・・・)ってことは、基本的じゃない対策もあるってことかい?」


「流石だな順一郎、その通りだ。そっちは主に特進(俺たちの)クラスで取るべき対策になると思うんだが、これにあたっては天宮、お前の協力が必要になる」


「俺の協力?」


「ああ、その方法はこれから説明する...」


そう言って太一は黎斗や肇たちを前にその対応策を説明するのであった。

第53話、更新しました。


今回は、対抗戦にあたって対戦相手が仕掛けてくると思われる行為への対策に関する内容がメインの回となりました。

次話は試作魔道具の試運転から数日たった後の話になりますが、太一たちが懸念していたことが起こり...といった内容になる予定です。

※話が長くなるようであれば数話に分けて投稿する予定です。


引き続きよろしくお願いいたします。

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