表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
60/65

第52話

太一、アームドパックtypeDについて説明する

「残っているメンバーからすると、残るはあとは俺だけのようだが、説明を受ける前にまず聞かせてほしい。石動、鎖藤、『どうして俺を選んだんだ』」


「どうしてってのは?」


「そのままの意味だ。俺はお前たちのようにこの前の演習で優秀な成績を取ったわけではないし、俺の前に説明を受けた北上や柳さんたちのようにお前の作った魔法具で俺の戦闘力が大きく変わるとは思えない」


「山野君、そこまで自分を卑下しなくても...」


「白崎さんがそう言ってくれるのはありがたいが、さっき柳さんや戸木田さんたちが見せてくれたようなレベルのポテンシャルを秘めているとは思えないし、魔法の技能が高いわけじゃないというのもこの前の演習の結果からも明らかだ。自慢して言うようなことじゃないが、この場所にいるメンバーの中で総合的な能力が一番低い―――言ってしまえば、本番で足手まといになるのは、間違いなく俺だ」


晶は自虐的な表情を浮かべながら言葉を続けた。


「唯一、他の皆と違うところがあるとしたら、1年生の時から整備部の部長をしているってことだけだが、それも自分で立ち上げたからだ。整備オタクってところにしか取り柄がない俺を対抗戦の代表メンバーに入れるくらいだったら、柳さんや北上のようなポテンシャルのありそうな人材を見繕って入れたほうがいい。上級生と当たった場合に勝ってくれる可能性のあるメンバーを求めているんだったらなおさらな」


対抗戦において上級生と戦うことになった場合を考えるのであれば晶の言う通り、黎斗やリサのような戦闘面で何らか(・・・・・・・)特化した人材(・・・・・・)を入れたほうがいいのは間違いない。


そして、蒼真たち(先輩方)が対抗戦に出場する高校2年生の候補者選びを太一たち(同級生)に任せたのも、恐らくは太一たちがそういった人材を見つけ出してくれるであろうことを期待したからであり、順一郎や彩音たちもその条件に当てはまる人材を探そうと―――否、候補者として挙げていた。


しかし、太一だけは今回の候補者選びというものを少し異なる視点から見ていた。


「俺はその整備オタク...いや、整備手腕が高いところを期待してお前を推薦したんだ」


「どういうことだ?」


「俺たち2年よりも経験豊かな先輩(大学生)を相手に善戦できそう...あわよくば勝ってくるかもしれない人材(やつ)を求めるんだったらお前の言う通り、柳や天宮みたいな一転突破型の奴を優先して選ぶべきだ。そして、そういった人材がこれ以上見つからないってことになったんだったら、石動や紅川といった万能型の奴を選んだ方がいいってのもその通りだと俺も思う。ただ、今回の対抗戦で求められる『特化型』というのは、必ずしも個人の能力だけを見て判断するものじゃないはずだ」


「個人の能力だけを見て判断しない...?鎖藤君、それって一体どういうことですか?」


太一と晶の話を近くで話を聞いていた彩音がそう質問した。


「個人としては目を見張るような成果を残せなくても、集団(チーム)となった場合に必要とされる、欠かせない存在になれる何かを持っているかってのも判断基準の1つにあっておかしくないってことだ」


「それはそうかもしれないが、それと俺が一体どう関係あるっていうんだ?」


「―――山野、お前が開発部を止めて整備部を立ち上げた経緯を聞いた」


「...っ!」


「俺もお前の考えや想いに共感できるところがある。どんなに高性能で高機能な魔法具を作ったとしても、その魔法具を使いこなせる人材が居ないんだったら、それはただの飾りにしかならないし、仮にそうした魔法具を使いこなせる奴がいたとしても、魔法具が整備できるような代物でなかったり、それを整備できる人材が居ないんだったら、使用者側からしたら安心して使うことが出来ない...詰まるところ魔法ってのは、魔法具と魔法師そして整備士の3つの条件が揃って初めて十全な形で使うことができる」


「たしかに、この前の演習で使った魔法具も、魔法具は前日までに壊れているところがないかはしっかりメンテナンスしてもらっていたね」


「だけどそれは魔法具に限ったことじゃないわ。私が弓道(部活)で使う弓だって、定期的に状態を確認して、悪いところがあればその部分を直したり、場合によってはそのパーツを交換したりしてるわ。そうしないと、試合中に突然、弦が緩む、外れるといったことが起きかねないから...そう言う意味でも、そうした事態にならない、起こさないためにも日頃からのメンテナンスは重要ね」


「社会では優秀な魔法師や高性能な魔法具にスポットがあてられる傾向が強いですけど、今までにあった説明を聞くと、整備士がとても大事だっていうのがわかりますね」


太一の説明を聞いて感じたことを述べる順一郎たちだったが、太一はそのまま説明をつづけた。


「整備ってのは本来、三ツ星の言う通り、魔法具に限らず非常に重要なものだ。だが、『整備(メンテナンス)されているのは当然』といった考えが、世間一般の常識のごとく広まっているでもある。穿った言い方をすれば、そういった当たり前(・・・・)というアホな考えが広まりすぎているから、白崎が言った関心が集まらないという間違った価値観が根付いた」


「...辛辣だね」


「俺は事実を言ってるまでだ。特に最近は、汎用型の魔法具を中心に魔法具の生産が比較的安定してきたのをいいことに、魔法具を消耗品の類と勘違いするやつらも増えてきているんだ。自身が使う魔法具を大切にしない風潮やそれを許容している今の社会に文句の一つ二つ言ったってバチは当たらんだろ」


「「...」」


そんな太一の発言に難しい表情を浮かべる順一郎と咲希の2人。


「(―――そういえば、石動君のお父さんが社長をしているスターワークスグループって、魔法具の開発で成長した会社だったっけ...鎖藤君が言ったことにこういった表情をしているってことは、石動君も何か思うところがあるってことかな?それと、石動君の隣にいる咲希さんも同じような顔をしているってことはもしかして、咲希さんの家族も...)」


「とにかく今は対抗戦だ。魔法を万全な状態で使うためには『魔法具』『術者』『整備』の3つの要素をそろえる必要があるわけだが、これは魔法を使うための条件であって、こも3つが揃っていれば格上の相手にだって必ず勝てるってものじゃない。ただ、同じ実力者同士が当たった時、この要件をどれだけ揃えられたかで勝機が変わってくる」


「鎖藤君、それってどういうことですか?」


「例えば対抗戦で集団戦が予定されている場合、姫川先輩のような実力者は連戦になる可能性が高いだろうし、学年別の団戦が実施されるんだったら、石動や天宮辺りはほぼ間違いなく連戦になるだろう」


「鎖藤君、この前の演習でトップだったのが自分だって忘れてませんか?」


「俺は簡易整備も含めてできるから、その条件に当てはまらないんだよ。話を戻すと、連戦になるってことはそれだけの負担を連戦する人(そいつ)に強いることになるわけだが、それは相手も連戦だったら同じことだ。じゃあ、同じように疲弊し消耗している2人がぶつかりあった時、何がその勝敗を決めることになるか...」


「―――そこで魔法具の整備性が問われる...ということか。だが、試合に使う魔法具は石動もさっき言ったように、当日までに万全の状態にまで仕上げられるはずだ。俺に整備面で手伝ってほしいということなら、選手じゃなくてアシストメンバーとしてで十分なんじゃないのか?」


これまでの説明から、対抗戦で整備が必要になることには一定の理解をした晶だったが、試合に使う整備であれば晶の言う通り、選手である必要はない。


それなのに何故、太一は晶を選手として出場させようとしているのか―――その真意を問うべく晶は太一に疑問を呈した。


「山野、俺が今回の対抗戦で勝つための重要なキーになる思っているのは、試合前の整備じゃなく、試合中の整備だ」


「試合中の整備?」


「さっきも言ったように、連戦となれば選手にそれだけ負担がかかるわけだが、魔法具にも当然それ相応の負荷がかかる。となれば、戦闘中に突然魔法具が不調...場合によっては使えなくなる可能性だって否定できない。もしそういった状況が万が一にでも起きたら、本来勝てる試合も勝てないといったことだって十分に起こりえる」


「魔法具が使っている途中に故障するなんてことはこれまで起きたことはないですよ?」


「白崎、それは練習や演習での話だろ?学校別の対抗戦...しかも初めてのビッグイベントとなれば、学校の威信をかけて対抗戦に臨もうとするところだって出てくるはずだ。ってことは、多少の無理や無茶を厭わずに仕掛けてくる相手も出てくるだろうし、そういった奴を相手にするんだったら、そいつの魔法具も予想以上の負荷はかかる」


「そっか...そういった人を相手するまでは何とかなっても、そこで蓄積した負荷がその後の戦闘に影響を与えるかもしれないってことですね」


「そういうことだ」


「何が起きるかがわからないのが実戦だから、そういったことがほぼ間違いなく起きない...という保証はできないわね」


「もちろん、現場での整備ってのは、十分な機器が揃っているわけじゃなく、しかも限られた環境や時間の中で整備・調整をすることになるから、その中で魔法具を万全の状態にまで仕上げるってのは難しいだろう。だが、現場で少しでも整備できれば、魔法具の故障(そういったこと)が起きるリスクは確実に下げられる」


「それが結果的に勝率の上昇にも寄与するということか...姫川先輩や烏岩先輩たちがどう考えるかはわからないけど、関東第一(僕たち)が使える手段の一つとして持っておくのはありなのか」


「いや、今後のことを考えて、少なくとも団体戦では山野は積極的に投入すべきだ」


「今後を考えて?」


「整備ってのは今、『されていて当たり前』という風潮にある。だからその分野で今、頑張ろうとしていても、スポットが当てられることすらほとんどない。だが、山野のように既に取り組んでいる人やそこに興味を持っている人ってのは一定数いるはずだ。単に魔法技能が高い生徒だけじゃなく、そういった人材にも関東第一は着目して応援しているってことを先んじて示せば、有望な人材は自ずとうちに集まってくる」


「そしてそれが関東第一(私たちの学校)の整備技術の向上に繋がる可能性もあるし、来年度以降の対抗戦でも他校にないアドバンテージになるかもしれないってことね...どれだけの需要を取り込めるかは正直未知数だけど、やってみる価値は十分あると思うわ、ジュン」


「整備の分野で頑張っている生徒がいて、その人が活躍できる機会があるんだったら、平等に機会を与えて応援するのは大事だと思います。それに、ここぞという時に活躍できそうな選手が控えているというのは大事なことですけど、出場する機会がなかったら、今回であればリサさんたちを含めて『本当に選ぶ必要があったのか』って疑問を持たれる可能性もあるかもしれません」


「対抗戦で勝つことに目が行き過ぎて、大事なところを見落としてしまっていたみたいだね...」


完璧な人間(・・・・・)なんていない(・・・・・・)んだ、偶にはそういうことをすることだってあるだろ。いずれにしても山野、今回の対抗戦で俺たちが優勝するためにはお前の力が絶対に必要になる。そして、これから整備の分野で頑張ろうとしている、頑張りたいと思っている奴らのためにも力を貸してほしい」


「これは僕からもお願いしたい。」


そう言って太一と順一郎は晶に頭を下げた。


近くにいた咲希も順一郎に倣うように頭を下げていたのを見て、彩音もあわてて頭を下げるのであった。


「...全く、責任は重大だし失敗もできないイベントだってのに、こうやって頭を下げられて、しかも後輩のためにも(・・・・・・・)なんて言われたら、断りづらいじゃないか」


太一たち...正確には順一郎や咲希から頭を下げて協力を求められるとは思っていなかった晶は肩をすくめ、少し困惑した表情をうかべながらそう言った。


―――ただ、その表情とは裏腹に、言葉にはどこか前向きさを感じさせる何かがあった


「ただ、これまでの話を聞いて俺の技術が現場でどこまで通用するのか試してみたいと...ウズウズしている自分もいる。正直どこまで貢献できるかはわからないし、選出のタイミングでは特に迷惑をかけるかもしれないが、石動、鎖藤、三ツ星さん、白崎さん...今回の件、こちらからもぜひお願いしたい」


そう言って晶は太一たちに頭を下げた。


「選出のことは気にするな。お前を推薦したのは俺だし、うちの学年で生徒・教師それぞれの信頼度の高い石動だって、お前が出場することに理解をしているんだ。それに、それ以外の(・・・・・)方法もある(・・・・・)からな。何かあった時は特に石動が何とかしてくれるさ」


「太一、そこは『自分が責任をもって』と言うべきだろう?」


「そこは信頼度の問題だ。俺が手伝えることがあるとしたら不満を言うやつがいた時に武力面で制圧するときくらいだろうな。この前の演習結果に疑念を持ってる奴は居そうだし」


「信頼度が低いのは鎖藤君がサボるからです。原因がわかっているんだったら、改善するべきです」


「善処はするが今は俺じゃなく、対抗戦で山野にどう活躍してもらうかが重要だ」


「それはあなたの言う通りだけど、手段はあるの?」


「さっき、北上にも渡したアームドパックだ」


「北上君にも渡していた?そういえば、あれって彼に渡していたシールド付き以外に支援型のパックも開発されてるって言ってわね...たしか、typeAだったかしら?」


「ああ。北上に渡したtypeDは防御用だが、もう一つのtypeAは、森の中...要は倒れた木や垂れ下がった蔓といった移動に支障が生じるものがある場所でも比較的円滑に移動ができるようにそれらを取り除くための補助アームが複数装備された支援パッケージだ。これについてるアームはあくまで補助目的だから、1本1本のアームはtypeDほど太くはない。だが、これらのアームの先端...ハンド部分は付け替えることが出来る仕様にしてあるから、整備用にも転用することも可能なんだ」


「...これまでに見せてもらった魔法具の時にも感じたことですけど、どうしたら、こういった装備を考えられるんですか?しかも開発までできるなんて、普通じゃないと思います」


「必要だっり出来るだろうなと思ったから作ってみただけだ。ただ、こういった魔法具のコンセプトは『実用性』...いわば機能性と整備性の両立だから、どこぞの開発部がつくるピーキーな高性能魔法具よりはよっぽど使いやすいぞ」


「そう言うことを聞いているんじゃないですけど...」


「それと山野、開示できる範囲にはなるが、俺が今までに渡した魔法具の図面も一応渡しておく。図面(これ)があるのとないのじゃ整備のスピードも全然違うだろ?」


そういって太一はデータの入ったメモリーを晶に渡した。


「それはないよりあったほうが助かるが、こういったものは開発する側からしたらあまり渡したくない大事な財産になるんじゃないのか?」


「あれらは試作品だし、本当に隠しておきたい部分はブラックボックス化してあるから、多少開示するのは問題ない」


「そういうことならありがたく使わせてもらうよ。ところで鎖藤、このハンド部分だが、こういった感じで作ることは出来ないか?」


「ああ、こう言った感じだったら既製品を使って...」


そうして太一と晶は対抗戦に向けた議論を始めるのだった。




第52話、更新しました。


今回は、整備部長である晶を太一がどうして推薦したのかが太一の口から語られる内容となり、そして太一が開発した・もしくは開発中のアームドパックの1つが明らかとなりました残るパックも恐らく順次出てくることになると思いますので、またしばらくお待ちいただければ幸いです。


引き続きよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ