表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
6/65

第5話

前話のあらすじ:太一、安眠を妨害される

「鎖藤君、今ってちょっと大丈夫ですか?」


午前中の授業を終え、近隣にある演習場へ移動するバスの中で、太一は前の座席からひょっこり顔をだした彩音から声をかけられた。


「なんだ?」


「さっきの休み時間の時に話してくれた系統外魔法について、もう少し教えてもらえないかなって思って」


「まあ、演習場に着くまでにもう少し時間あるからそれはいいが、どうしてあんな系統外魔法(マニアックなもの)について知りたいんだ?」


「特に深い理由があるわけじゃなくて、純粋に午前中の授業の内容だけでは系統外魔法についてはよく分からなかったから...かな?」


「あー、さっきの授業ではたしかに、系統外魔法(あれ)について、まともな説明はしてなかった気がするな」


「鎖藤君、さっきの魔法学理論、ちゃんと受けましたよね?」


「隣から鈍器(参考書)が飛んでくる可能性があったから、寝ずに聞いてはいたぞ...ただ、授業の内容は大体知っている内容だったから、ノートはほとんどとってないが」


「横に投げたら窓にあたってガラスが割れるかもしれないので、横じゃなくて上から落とします...というのは半分冗談として、さっきの授業で魔法がいつ頃から使われるようになったかとか、鎖藤君が言っていたように、当時は魔法使いが希少でいろんな国が有能な魔法使いをできる限り多く抱え込もうとしていた、といったことは説明もあったから一応わかったんだけど、系統外魔法はその説明の中で名前が少し出てきただけで、参考書にも『それ以外の魔法』くらいしか書かれてなくて、その内容についてはほとんど触れられてなかったから、系統外魔法がどういうものか、結局よくわからなかったんです」


「昼休み前の授業だったってのもあって、授業後に質問しに行ける雰囲気でもなかったからなぁ...教科書や参考書に十分な記述がされてないってのは恐らく、さっきの休み時間にも少し話した通り、系統外魔法に関する文献が少なくて、研究が十分に進んでないから、授業で系統外魔法(それ)を教えられるまでの状態にはまだなってないってことなんだろうな」


「でもそれって、『情報が十分に揃っていない』だけで、研究したものもあるにはあるってことだよね?もしよければ、鎖藤君が知ってる範囲でいいから教えてくれないかな」


「それは俺も気になるな」


太一と彩音のやり取りに耳を傾けていたのか、太一の隣に座って本を読んでいた順一郎も話に入ってくる。


「順一郎もか...俺が知っている情報で、このバスが演習場に到着するまでに話せる範囲ってことになるが、二人はそれでいいか?」


「うん」


「俺もそれでいい」


「じゃあ、まず基本的なところから確認していくが、二人は普段、魔法をどうやって発動してる?」


「私の場合はえっと...規模の大きな魔法使う場合とかだったら詠唱を使うけど、大体の魔法は魔法具に魔力を流しながら、発動したい魔法のキーワードを言ってるかな?」


「俺も白崎さんと同じ形で発動しているな」


「じゃあその、俺たちが魔法と言われるものが大きく、『魔法』と『魔導』の2つに分類されるってのは知ってるか?」


「え、そうなの?」


「系統外魔法のことより、まずはそこから説明をしていった方が良さそうだな。午前中にも少し話したことだが、一般的な魔法ってのは、『ファイア』や『ウォーター』といった代表的な魔法の名前からも何となく分かる通り、自然を力を介して発動される...ってのは理解しているよな?」


「うん、大丈夫だよ」


「であれば次に進むぞ。魔法が自然を介して発動されるってことは、言い方を変えれば、自然を介してさえいれば、魔法を発動する時に触媒…いわゆる魔法具と言われるものを使わなくてもいいってことなんだ。実際、魔法が使われ始めた初期の魔法使いたちは、魔法具を使わずに詠唱だけで魔法を発動していた。これについては当時の文献、特に魔法が使われ始めた初期の文献にも書かれているから、ほぼ間違いはないだろう。ただ、魔法具を使わずに魔法を発動させられる人ってのは、現在は言わずもがな、過去もそう多くいたわけじゃない。だから魔法使いってのは、教科書に載っている通り、当時は貴重な存在だったんだ」


「だから有能な魔法使いの囲い込みが多くの国々で行われていたんだな」


「でも、教科書や参考書に出てくる『過去に存在した魔法使い』に関する挿絵や写真だと、魔法使いが長い杖を天に掲げしながら魔法を発動しているシーンが描かれていたり映っていたりするけど、その杖は魔法具じゃないんですか」


「写真に映っている杖は、その写真がいつ取られたのかによって違うと思うが、古い文献でよく見かける『魔法使いが魔法を発動している姿』を描いた挿絵に出てくる杖は、現在の魔法具のように、魔法術式が杖の中に組み込まれていたといった事実はないらしい」


「だとしたら当時の魔法使いは、一体何のために杖を持っていたりしたんですか?」


「恐らくは『術者が魔法の発動をイメージしやすくするため』の補助的なものになるんだろうな。例えば魔法で火を発動する際に、『火を出す場所(座標)』『火の大きさ(規模)』『火の数(個数)』といったことを同時並行で考えるのは大変だが、座標を『杖先から30cm』といったたように最初から設定しておけば、同じ詠唱型の魔法でも発動時の負担は軽減されるからな」


「午前中の話にも出てきていた変数の違いというやつか」


「そうだな...っと、話が少し逸れたな。まあ、そういった背景もあって、魔法を使える人ってのは当時から非常に少なかったわけなんだが、たった数人の魔法使いが、劣勢だった戦局を覆し、勝利に導いたという事例もある通り、魔法というのは戦況を左右する重要な切り札の一つでもあった。各国のお偉いさんが当時、有能な魔法使いを囲い込もうとした理由もここにある。ただ、囲い込むにしても当時の魔法使いなんてのは、もともとの数が少ない上にその数が大きく増える見込みもない。しかも魔法使いのほとんどがどこかの国のお抱えになっていて、フリーの魔法使いなんてのもほとんどいなかった」


「学校を作るという選択肢はなかったんですか?」


「国によっては率先して学校を作ったりもしてたらしいが、さっきも話した通り、詠唱型の魔法に適性のある人間がそもそも少なかったから、それほどの効果は出てなかったみたいだ。ただ、そのような状況でも何とかして自国の魔法使いを増やしたい。そのためにはどうすればいいのか...試行錯誤して導き出された答えの一つが、『詠唱型の魔法の適正が低い者でも魔法を発動させる手段があるのではないか』というものだった。それから当時の国々は、詠唱に頼らない魔法の研究を競って進め、ある時、魔法発動条件の一部術式化に成功した。その結果として生み出されたのが、順一郎や白崎が使っているその魔法具だったんだ」

週末を目途に...とお伝えしておりましたが、少し遅くなってしまいました。


第6話についても執筆等が終わり次第アップする予定なので、これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 参考書が鈍器として使われるのはいつぐらいですか?
2020/05/26 00:50 ゆーたろー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ