第50話
前話のあらすじ:茜、精霊魔法に目覚める
「じゃ、次の装備は...『ピーーー、アップデートガ、カンリョウ、シマシタ』...っと、あれの更新作業が終わったみたいだな」
太一が次の魔法具の説明へと進もうとした時、最初に準備していた魔法具の更新作業が完了したとのアラームが鳴った。
「ちょっと待ちなさい。装置の見た目は最新なのに、お知らせのアラートだけはどうしてそんなに前時代的なのよ」
「通知の機械音声だったら英語とかドイツ語とか、何パターンか準備してあるぞ」
「音声って、どう考えたってそんなに拘る必要がない場所でしょ」
「こういった半分遊びみたいなものも時としては重要なんだよ...ともかく、今はこいつらの魔法具についてだ。最初は北上向けのものを説明しようと思ったんだが、今完了したこっちの方が説明や練習に時間がかかるから、大熊の説明を優先するか」
「準備に時間のかかっていた魔法具は俺が使うものだったのか」
そういって一心は検査機器への方へと視線を向けた。
「柳や戸木田の結果が予想以上過ぎたから、それと比べると霞んで見えるかもしれないが大熊、今から説明する魔法具はお前が得意とする魔法属性や課題面からしたら、相当相性のいい魔法具のはずだ」
「柳や戸木田の結果が出来過ぎともいえるものだったのは十分に理解している。それに、俺だけでは解決できなかった問題にこうやって手伝ってもらっていることだけでもありがたいことだ、結果がどうであれ文句は言わないさ」
「そう言ってくれると助かる...で、この魔法具だが、使い方の説明は俺より適任な奴がいるから、ちょっと待ってくれ」
太一はそう言うとポケットから携帯を取り出し、素早くメッセージを打ち込んだ。
「...太一、対抗戦については無闇に関係者を増やさないはずだっただろう?」
「そう言う意味では大丈夫だ順一郎。今呼んだ奴はある意味関係者だからな」
「つまり、今呼んだ人は対抗戦を既に知っているということかい?となるとつまり...」
「それは来たらわかる。今はとにかく装備の説明だ。大熊、お前は相手に距離を取られることに課題があると言っていたが、得意とする属性は情報によると火だっただろ?だったら火を射撃や推進力に使って解決しようとは思わなかったのか?」
「もちろん試してはみたが、放出型の魔法はけん制程度の威力しか出なかったんだ。推進力も初速はいい数値が出るんだが、その後のスピードが維持できなくてな。結局、どちらの魔法も俺とは相性が悪かったんだ」
「...とするとやはり、問題は魔法との相性じゃなく術式との相性にあるとみるべきな」
「術式だと?」
「ああ。これまでの情報から総合的に考えると、大熊は一定量の魔力を放出し続けることが苦手なタイプなんだろう。放出系の魔法術式は一般的に、一定量の魔力を注入し続けるものが大半だから、大熊みたいなタイプの人間が使っても改善は見込めないんだよ」
「でもよ、そういった欠点だったら比較的簡単に制御できそうな気がするけどな。こう、魔法具にバッテリーみたいなものをつけて、多かった魔力をバッテリーに貯めて、足りないときに放出する...みたいな?」
「一時的に貯蔵するコンデンサーならともかく、魔力をためる装置ってのが小型でも馬鹿みたいに高いんだよ。だからこの手のものはそれ専用の術式を使って解決する方が楽で、しかも手っ取り早い」
「あのー、鎖藤さんはさらっと『専用の術式で解決する』って言われますけど、それが一番難しい問題...ですよね?それとも私の認識が間違っているんでしょうか?」
「茜ちゃん、それについては多分...じゃなくて間違いなく茜ちゃんの認識が正しいんだけど、鎖藤君は一般常識が通用しない人だから、他の人と一緒に考えちゃだめなんです」
「おい白崎、失礼な言い方をするな。一般常識くらいは弁えているわ」
「一般常識を弁えているなら、これだけたくさんの魔法具や空中を飛び跳ねるような術式を平然と作るはずがありません。その時点で非常識です」
「白崎の言い方はちょっと厳しいかもしれないけどよ、そういったことを平然とやっちまうのが太一だから、『一般』って枠に太一をはめちゃいけないってのはその通りだよな」
「そ、そうなんですね...」
「...(白崎に何を言っても似たような返事しか来なさそうだから、無視して先に進めるか)」
「鎖藤君、今何か失礼なこと考えてませんか?」
「気のせいだろ...さっきから話が脱線したままになってるんだが、今はこっちだ。さっきも言った通り、大熊のような課題には専用の術式と、可能であればそれに対応した魔法具を使ったほうがいい」
太一はそう言いながら検査機器の方へと歩を進め、魔法具が収められた機器のドアロックを解除した。
「属性は違うんだが実は、俺の知り合いに大熊に似たような魔力特性の奴がいてな、そいつの実証機として過去に作ったものがあったんだ。それがこの魔力ホバーシステムだ」
「ホバーシステム...なるほど、脚に着けて使用する魔法具か。見た目の割に軽いな」
太一から受け渡された魔法具を見ながら一心はそう太一に返事をした。
「ホバーのエネルギー源は使用者の魔力で、装着時は常にホバリングするわけでもないからな。使っていないときのデッドウェイト化を避けるためにも比較的軽くて丈夫な材料を使ってるんだ」
「...一理あるな。ちなみにこれは履くように着ければいいのか?」
「ああ、長靴を履くような感じで装着してもらえば、あとは魔法具側で勝手に調整が開始されるはずだ。調整が終わったら、まずは身に着けた状態の感覚に慣れてもらうために、ホバー機能をつけない状態で歩いてくれ」
「...なるほど、ふくらはぎ全体を覆うような最適化が行われるんだな。これなら大きくて外れたりといったこともなさそうだ」
フィッティングが完了した後、一心は両足に魔法具を装着した状態で周囲を歩き始めた。
「どうだ?」
「魔法具の分だけ、視界が上がったり脚を持ち上げる時に多少の力がいるといった違和感はあるんだが、慣れれば問題いだろうな。重さについては、普段から足首に重りを巻くなりすればすぐにでも解消できそうだ」
「ならよかった。で、肝心のホバーシステムの使い方についてなんだが...」
「―――太一さん、遅くなりました。あ、山野部長もこれに呼ばれていたんですね。お疲れ様です」
「いや、こっちこそ急に呼び出して悪かったな彼方。到着早々悪いんだが、大熊にホバーシステムの使い方について説明してもらってもいいか?」
「ああ、あのシステムですね。わかりました」
太一から呼ばれ、室内演習場に現れたのは、太一とともに暮らし、整備部の部員でもある彼方であった。
「呼び出したのは彼だったのか」
少し離れたところに移動した彼方が一心に対して魔法具の説明をする姿を遠めに眺めながら、順一郎はそう太一に尋ねた。
「ああ。ホバーシステムの説明なら、彼方から聞いたほうがいいと思ってな。俺が気づいていないポイントとかももしかしたら知ってそうだし」
「...とりあえず今回は特段言わないけど、今後こういったことをする時は、少なくとも僕には事前に説明をするように。太一に限って下手なことはしないと思うけど、情報戦がこれから繰り広げられる可能性も否定はできない」
「...たしかに、それはその通りだな。次回以降は注意しよう。じゃ、こっちはこっちで行き続き進めるか」
「次は誰の魔法具の説明をするんだい?」
「次は眼鏡...じゃなくて、北上だな」
「...はぁ、紅川だけじゃなく鎖藤にまでそう言われていたとはね。ただ、彼と違って君にはお世話になるだろうから、これ以上は言うつもりはないけど、僕の場合は一体何が課題なんだい?」
聡祐はメガネをかけ直しながら、太一に向かってそう言った。
「それは北上、お前が一番わかっているんじゃないのか?」
「僕が...?」
「正直言って、魔法に関してお前に欠点らしい欠点はないってのが俺たちの印象だ。総合的に見ても無難...というか、この分野は苦手ってのはなさそうだし、中距離魔法に限っていえば学年上位の実力は持ってるだろう」
「ねえちょっと待って。もしそれが本当だったら、肇が対抗戦の代表候補に選ばれた時に彼にも声がかかってもおかしくないんじゃないの?」
太一の説明を近くで聞いていたリサが、太一の説明を遮って突如として質問をしてきた。
先ほどの太一の説明を聞いていても、聡祐が最初の時点で対抗戦の代表候補に選ばれない理由が見当たらないと感じたからだ。
「リサ、あなたの言いたいことはわかるわ。でもね、私たち高校2年生の候補を選んだのは大学の先輩方であって鎖藤じゃないわ」
「うっ、それはそうだけどさ...」
「リサの言う通り、北上君の魔法の実力や成績を考えれば、ジュンや鎖藤に声がかかった時に、一緒に呼ばれていてもおかしくはないわ。でも、実際はそうならなかった...それには何か理由があるだろうって結論になったのよ」
「三ツ星、ここからは俺が話そう。たしかに北上の魔法の実力が学年でも上位なのは間違いない...ただ、さっきも言った通りそれは魔法に限った話だ」
「どういうこと?」
「つまり、魔法以外の部分に課題があると判断されたから、最初の時点で選ばれなかったというのが俺たち...というか俺の予想だ」
「魔法以外の部分での課題?」
「北上、今から話そうとしているのは魔法に関係のない、言ってしまえばお前の魔法以外の欠点と思われる部分になる。もちろん、別の場所で説明することもできるが、どっちがいいか決めてほしい」
「この場所で聞かせてもらうよ。これというものに全く心当たりがないわけじゃないし、指摘されて初めて気づくということもあると思うんだ。それに、柳さんや戸木田さんのことは聞いておきながら、僕の課題だけ秘密にするというのもどうかとも思うしね」
「そういうことならわかった。北上、お前の欠点と言えるものだが...それは恐らく、諦める判断が早すぎることだ」
「...」
「この前の演習を振り返ってもらうのが一番わかりやすい。あの意識高い奴に従って天宮と紅川と戦っていた時、お前は上がやられたのに気づくと同時に天宮たちと戦うのをやめていた。そしてその後、俺が隠れている建物に攻撃を仕掛けた時も、全員が拘束されてすぐに投降することを決めていた。数的優位があったのにも関わらずだ」
「あー...それはアイツをぶっ飛ばした後に俺も言ったんだよな。『このまま俺たちと戦うつもりはあるのか』って。そしたらメ...北上が『止めておく』って言って太一のところに向かったんだったな」
「だけど俺との戦闘の結果もさっき言った通りだ。そういった状況から考えるに、北上はあらゆるものを効率的に進めようとしてしまっているんだろう。もちろん、それ全てが悪いわけじゃないが、それを無意識にやりすぎてしまうところが問題で、先輩たちもそう感じたから、最初の時点で候補に挙がらなかったんだろうと考えている」
「...」
太一の説明を黙って聞いていた聡祐だったが、自分の中で納得がいったのか、ポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。
「無意識に諦めている...か。僕はこれまで自分の自信のなさに原因があるんだと思っていたけど、腑に落ちないところもあったんだ。でも、君の説明で納得がいったよ。僕はあらゆることをリスクとの天秤に掛けて、それが少しでもリスクに傾くようであれば諦めていたわけだ」
「それ全てが悪いわけじゃないが、勝つ可能性があってもそれを追求しようとしないところに課題があるんだろうな」
「太一の言う通りだな。勝つ可能性が少しでもあるんだったら、それを目指してまずは頑張るべきだ」
「天宮、お前はむしろ、僅かな可能性に懸けて無茶を覚悟で突っ込もうとするのその性格を直したほうがいい。対抗戦で先輩相手にそれをやって負けたりしたら、数的面を含めて不利な立場になるのは俺たちなんだからな」
「そのくらい、わかってるよ。俺は無謀な賭けはしない性質だしな」
「ボードゲームやカードゲームで色んな奴にぼろ負けしてる奴が何言ってんだか...」
「何か言ったか?」
「気にすんな、ただの独り言だ...ただ太一、北上の課題がもしそれだとしたら、改善する方法が難しいんじゃないのか?他の3人と違って北上の場合はフィジカルというよりはメンタル面での課題みたいだから、魔法具でどうこうなる話じゃないだろ」
「まあ、そう言われれば確かにそうなんだが、北上が諦めるのはリスクが高い...いわば勝率が低いからだ。だったらその勝率を少しでも上げられる魔法具があればいい」
「勝率を上げるなんて言ってもよ、そんな都合のいい魔法具なんてあるもんなのか?」
「それはやり方次第だな。この前の演習を見る限り、北上が使う魔法一つ一つはしっかりしているようだったから、それに集中できる状況を作れる装備や魔法の手数を増やす装備があれば、勝率は間違いなく上がる...そして、それにうってつけの試作品もある」
「あるんかい!」
「それがこのアームドパックtypeDだ」
そういって太一は、シールドとそれを保持するフレキシブルアームで構成されるバックパックを聡祐の前に差し出したのだった。
第50話、更新しました。
今回は一心・聡祐の2人を中心とした内容となりました。
一心に渡したホバーはもともと、同居する彼方向けに太一が開発した魔法具だったようですが、聡祐に渡した装備は一体何のために開発した魔法具だったのでしょうか...その辺りは今後の展開で明らかになっていく予定です。
次話以降も引き続き、男衆3人に関する話が進みますが、次話は北上に関する内容が中心になる見通しです。
引き続きよろしくお願いいたします。




