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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
42/65

第35話

前話のあらすじ:彩音、ぐずる少女に慌てふためく

ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ――――


「―――ん?もう朝か」


周囲で軽快に鳴り響く電子音により目を覚ました太一は、椅子にもたれるような格好からゆっくりと上体を起こした。


「...そう言えば、色々やることがあって、ベッドに行くのが面倒だったから、昨日は椅子(ここ)でそのまま寝たんだったな」


周囲の状況を確認し、なぜ自分がベッドではなく椅子に座ったまま眠ったのかを思い出すと、太一はすぐさま一部画面に『COMPLETE』と表示されたモニターへと目を移し、魔法具への術式のインストール結果の確認を始めた。


「術式のインストールはチェックも含めて全て完了、データ報告用のプログラムも昨日突貫で作った割には特段のバグもなく、無事に動作するみたいだから、あとはこのプログラムを追加でインストールして、あの魔法の使用データを受信する装置との連携とその確認出来れば作業完了だな」


術式のインストールに加え、昨日の夜に急遽くみ上げたプログラムについてもチェックが完了していることを確認した太一は、モニターを設置しているテーブルのサイドデスクの引き出しを開け、とある装置を探し始めた。


「データ受信用の装置はたしか、非接触式のタイプがあと1個、ここに残っていたと思うんだが...っと、あったあった」


探していたデータ受信用の装置を引き出しから取り出し、それを彩音たちの魔法具が置かれた装置とケーブルで直接接続すると、太一はすぐさまキーボードを叩き、最後の作業を開始した。


「天宮の魔法具がちょっと心配だったが、ストレージの空き容量は結果的に全員問題なかったみたいだな。インストールから動作確認までの一連の作業に係る時間はおおよそ60分か...なら、その間にシャワー浴びて、朝食の準備の手伝いでもしてくるかね」


そう言って太一はモニターに表示された作業開始ボタンを押すと、そのまま立ち上がって自室に併設されたシャワールームへと歩を進めた。








「沖田さん、そろそろお味噌汁の具材に火が通ると思うので、お味噌とお酒、それからお醤油を取ってもらえませんか?」


「味噌とお酒はわかりますけど、醤油もですか...?」


「ちょっとした隠し味です」


「そんな使い方があるんですね、勉強になります」


「...何がどうなったら一体、こういう状況が生まれるんだ」


シャワーを浴び、制服へ着替え終えた太一は、遥佳が先に進めているであろう朝食の準備を手伝うために2階へと降りてきたのだったが、そこで太一は予想外の人物が遥佳と一緒に朝食を作っている姿(・・・・・・・・・)を目の当たりにし、言葉を失った。


「あ、鎖藤君おはようございます。もうちょっとで朝ご飯の準備ができるので、少しだけ待ってもらえますか?もちろん、準備を手伝ってもらえるならそれだけ作業も捗るので、それはそれでとありがたいですけど」


その人物は太一が2階へと降りてきたことに気づくと、太一にそのように声をかけたのだったが、その口ぶりは、さもそこに以前から住んでいるかのようなものであった。


「遥佳、食事の準備をしているところ悪いんだが、どうしてこんな状況になっているのか...というか、あいつがどうしてこんな時間からここにいるのか、知ってる範囲でいいから説明してくれないか?」



「ええっと、太一さんが求めている回答になっていないかもしれないんですが、私がみんなの朝ごはんの準備をしようとしたタイミングであの方がいらっしゃいまして...」


太一はその人物と一緒に朝食の準備をしていた遥佳を呼び止め、彼女(・・)がなぜここにいるのかについて聞いてみたものの、その人物が朝早くからこの建物に来た理由について、遥佳も把握できていなかった。


「...朝から頭が痛くなってきたわ」


「あの、何だかすみません...」


「俺の頭痛の原因がお前にあるわけじゃないから謝らなくていい」


「えっ、鎖藤君、頭が痛いんですか?本当に調子が悪いんだったら無理して学校に行かなくても良いですけど、痛いと言う割に顔色は問題ないですよね?サボりたくて言っているんだったらだめですよ」


太一と遥佳のやり取りが聞こえていたのか、当の本人である彼女もまた2人の会話に割り込んできたのだったが、


「白崎、自分の家に住んでない人間が理由もわからず何食わぬ顔で家に居座ってたら、そりゃ頭の一つも痛くなるだろ...というか、お前は何でこんな朝早くからここにいる」


そう、太一にとっての予想外の人物とは彩音であった。


「鎖藤君、その言い方はちょっと失礼じゃないですか?私は何食わぬ顔で居座っているんじゃなくて、みんなの朝ご飯の準備の手伝いをしているんです」


調理の手を一旦止め、不満そうな顔で太一の発言に抗議する彩音であったが、


「まずもって、その行為自体が常識的に考えておかしいだろう」


「鎖藤君に常識を説かれるなんて...今日は快晴って言ってましたけど、お昼頃に雹か霰あたりが降りそうですね」


「もし今日、雹が降るとしたら、それは間違いなくお前がこんな朝早くからここに来たことが原因だろうな」


「鎖藤君、それって私に喧嘩売っているんですか?」


「俺としてはそのつもりはないんだが、そう考えたってことは自分自身として何かやましいところがあるって感じてるからなんじゃないのか?」


「ふふっ、やっぱり鎖藤君とは早いうちに一度...いえ、今この瞬間にでもきちんとお話をしておく必要があるみたいですね」


笑顔ではあるものの彩音の周囲から滲み出るオーラと、彩音が持つお玉の取っ手から本来であれば出ないであろうミシッという音が出ていることなどから、これ以上2人の会話を続けさせてはいけないと感じ取った遥佳は、2人の間に割って入ることを決め、彩音に話しかけた。


「あの、白崎さん...あれだけの子たちの食事になるので、その準備を手伝っていただけるというのは、私としては非常に助かりますしとてもありがたいですけど、こんな朝早くからこちらに来られたら、ご両親が心配されるんじゃないですか?」


「そう言えば、そのことについてきちんと説明していませんでしたね。今日朝からここに来ることについてはお父さん―――父の了解を得た上で来ているんです」


「そういったことは最初に言え。それを先に聞いていれば俺の言い方も少しは違っていただろうしな...それはさておき、この建物のこと、昨日のうちに父親に話をしたのか」


「私だって最初にそのことについて話をしようと思っていたんですけど、その前に鎖藤君が私にあんな発言してくるから言うに言えなかったんです!ただ、そのことを主張しすぎると堂々巡りになりそうなので、父とのやりとりに話を戻しますね」


「それがいいd「白崎さん、そのまま話を進めてもらえますか?」...」


太一がいらぬ一言を言い出しそうな雰囲気を察知した遥佳は、太一がそれを言い始める前に会話に間に割って入り、彩音の話を促した。


「...話を続けますね。まずこの建物について、少なくとも私の父はその存在を知っていたんですけど、鎖藤君が昨日言っていた通り、この存在を知っている人は協会の中でも相当少なかったみたいで、私がこの建物について喋った瞬間に『どうして知っているんだ』って、厳しい目をしながら私が逆に質問されたりもしたんだけど、この建物のことを知った経緯とかをきちんと話したら、一応納得してくれたんです」


「そもそも、そういったところをろくに説明しないで、ここの鍵を渡したあのおっさんが一番悪いわけだから、白崎の父親も白崎のことをあまり怒るに怒れない状況だったんだろうな。最初に鍵をもらった順一郎だって、そういった場所ってことを予め聞いてたんだったら、いきなり白崎に鍵を渡すなんてことはしなかっただろうし」


彩音の説明を聞きながら太一は、白崎の父親が今回の件について一応ではあるが納得した理由を、自分なりの推察を入れながらフォローした。


「それはその通りかもしれないですね。ところで太一さん、白崎さんの親御さんって...」


「ん?ああ、俺の予測が間違ってなければ協会のお偉いさんだな。少し前に、おっさんから俺たちと同じくらいの年齢の娘がいる白崎って幹部の人と飲んだ...ってのを聞いたことがあって白崎(こいつ)からも昨日、父親が協会で働いてるって聞いてたし、さっきの話で結構な立場の人だってのは間違いないみたいだから、恐らく同一人物だろうな」


「そういった立場の人であれば、この建物について何か知っていてもおかしくはないですね。もし知らなかったとしても、それだけの立場にいる人にも存在を知らされていない場所がある、ということは理解されるでしょうから、それを踏まえて白崎さんにこれからどういったところに気をつけたほうがいいのかを教えてくれる可能性は高いでしょうね」


これまでのやり取りから関係者であろうということは何となく予想がついていたものの、それでも彩音の父親がどのような人かはっきりとさせたておきたかった遥佳は、太一に彩音の父親について質問し、その回答を聞いて納得した


「俺もそうなるだろうと思ったから、父親に相談するように言ったわけだが、その結果、こんなことになる(朝から白崎が来る)なんてのは全く予想してもなかったがな」


「でも、私が今日ここに来たのは、昨日鎖藤君が私に言ったこともあってですよ?」


「...俺?」


「そうですよ。鎖藤君、私に『この建物や子どもたちのことを知った今から、自分に何ができるかを考えて行動すればいい』って言ってくれたじゃないですか。私、昨日ここを出たときからそのことをずっと考えていて、父に相談する前にようやく自分が今したいことが固まったんです」


「それがこれと...」


「はい。父にそれを伝えたら、最初はちょっと難しい顔をされたりもしましたけど、『既にその建物のことを知ってしまっている身でもあるから、その存在について他言無用ということを約束できればOK』って言われたので。それと、ここの責任者の人...ええっと、先生?でしたっけ、その方に父から事前に話を入れてくれたみたいで、今朝、父から『OKの返事をもらえた』って言われました」


「全く、そう言う重要な話は夜中でもいいから連絡入れてもらわないと、こっちが混乱するってのは目に見えていただろうにあのおっさんは...」


知らないのは当の本人だけで、保護者間での調整が既に住んでいることを聞き、別の意味で頭を悩ます太一であったが、そんな太一の様子を見て遥佳はフォローを入れた。


「ま、まあ、先生も昨日は忙しくされていたわけですから、きっと連絡を入れる時間がなかったんですよ」


「...あのおっさんには他にも聞きたいことはあるから、後でとっちめればいいか」


「ほどほどにお願いしますね」


「それと白崎、さっきはそういったことを聞かずに色々聞いて悪かったな。さっきの話を聞いてるとうちに長い付き合いにもなりそうな気がするが、何かわからないことがあったら俺や遥佳に遠慮なく聞いてくれ」


「はい、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


太一と彩音、遥佳の3人の間で今回のことに関する一定の共通認識が出来上がったところで、3人は改めて朝食の準備を進めて行くのだったが、朝食の出来上がったところで階段を下りてくる多くの足音が聞こえてくるのだった。

少し遅くなりましたが、第35話を更新しました。

これまでしばらく閑話が続いておりましたので、今久しぶりの本編更新になりましたが、今回は彩音が早朝から太一たちの住んでいる家を訪問して、朝食を作る...という内容でした。

※閑話の中で彩音父親にが「やりたい」と言っていたことの答えもこちらになります。


次回は第35話の続きからになりますが、次話ではこれまでその存在しか出てこなかった人物たちがようやく登場する予定です。


これからもコンスタントにストーリーの更新を行ってしていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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