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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
39/65

閑話2 ~side順一郎~

後進が遅くなり申し訳ありませんが、閑話第三弾です。

今回は順一郎メインの回になります。


それでは、どうぞ

「...(魔法大学附属高校はたしか、定期試験の問題を共通化したり、附属高校間の転校を比較的容易に認めたりすることで、優秀な生徒が親の転勤等(家庭の事情)で外に出て行ってしまうリスクを最小限にする対策を取っていたはず)」


バスを降りてすぐのところで太一たちと別れ、少し足早に生徒会室へと向かった順一郎は、生徒会室に入るとすぐ、挨拶もそっちのけで(・・・・・・・・・)部屋に備え付けられた専用の端末を起動させ、他校の生徒情報を調べ始めていた。


「(そういった取組をしているということなら、カリキュラムに多少の地域性はあったとしても、試験の成績は各校単位だけじゃなくて、4校合わせたもの(・・・・・・・・)が作られていたとしても特段おかしいところはない。あとはそういったデータがどこにあるかなんだけど...)」


―――カタカタカタッ、カチカチッ、カタカタカタ...


表向きには『生徒会の用事がある』と言って、太一たちとあの場で別れた順一郎であったが、本当のことを言ってしまえば今日、生徒会の打合せなどは特に入っていなかったため、生徒会室には順一郎以外の生徒会メンバーはおらず、部屋の中には順一郎が操作しているキーボードとマウスの音だけ静かに響き渡っていた。


―――カタタタタッ、カタタタッ、カタカタッ...


「うーん、校内の生徒情報にアクセス可能な生徒会専用の端末だったら何か情報が入っていそうな気がしたけど、何というかこれは、ちょっと予想外な結果かな...」


端末の操作を止め、順一郎がポツリと呟いた。


「これだけの情報が載っているのなら、細かい点数はなかったとしても、入学試験や定期試験の総合順位くらいまでだったら一緒に掲載していてもおかしくないだろうに、そういった情報だけは全く載っていないなんて...」


他校の生徒の氏名と顔写真、そして自称か公称かは不明だが、その生徒が得意としている魔法の属性までは専用端末を使って調べることが出来たものの、学内試験の成績という、順一郎が今回特に調べたかった情報については見つけることはできなかったのであった。


「試験の成績が個人情報であったとしても、上位の生徒の成績は少なくとも、試験のたびに結果は掲示板に貼り出されているものだ。全員の分ではないとしても、そうやって既に掲示してしまっている情報まで敢えて隠す必要はないはず...」


しかし、載っていないからこそ感じる違和感がある、というのもまた事実であり、順一郎はその違和感に気づいていた。


「それに成績だけじゃなくて魔法についても、得意とする魔法の属性(・・)は載っているのに、近接や遠距離、支援といった得意とする魔法の種類(・・)に関しては全く説明がないというのも奇妙だ」


端末を通じて得られた情報から感じた複数の違和感―――


そんな違和感を胸に抱きつつ、端末に映し出された情報を改めて眺めながらその原因を考えていた順一郎であったが、ふとその時、とある可能性に行きついた。


「もしかして、そういった情報だけは意図的に隠している(・・・・・・・・・)ということなのか?」


順一郎が導き出した答え、それは生徒の成績に関わる情報だけが秘匿にされている、というものだった。


「でも、どうしてそんなことを...成績や得意魔法なんて、いわば公然の秘密のようなものだから、学校内で隠しておく理由はあってないようなものだというのに」


実のところ、順一郎のその予測は概ね間違っていないのであったが、何故隠されているのかという『理由』がはっきりと見えてこず、自らの予測に確証が持てなかったため、順一郎は画面から視線を外し、顎に手を当て、長考状態へと突入していくのであったが、そんな時、メガネをかけた1人の男子生徒が生徒会室へと入ってきたのであった。


「ん?今日は役員間の定例ミーティングも外部の人たちとの意見交換も特に入ってなかったから、生徒会室( ここ )にくるのはてっきり私一人だけだと思っていたんだが、石動、お前も来ていたのか」


「あっ、会長お疲れ様です」


突然入室してきた相手に、少し慌てながら立ち上がって挨拶をしようとした順一郎であったが、新たに部屋へと入って来た男子生徒―――この学校の生徒会長は、そんな順一郎の行動を手を使って少し制した。


「そんなに畏まる必要はない。さっきも言った通り今日は特に予定が入っていない日...言ってしまえば生徒会のオフ日...みたいなものだ」


「ですが...」


会長と副会長、そして先輩と後輩という立場の違いを理解している順一郎は、会長のそんな提案に少し抵抗を示したが、順一郎がそういった行動を示すであろうことを見越していたのか、会長は更に言葉を続けた。


「私が問題ないと言っている...と言うのはあまりよくないな。本音を言うと、この場ではそうしてもらえるとありがたいんだ」


「そう言うことであれば...わかりました」


「すまないな...学校内では放課後であってもほとんどの生徒が『生徒会長』という色眼鏡を通して私のことを見てくるし、私もそういった眼で見られていることを意識した行動を常に取らないといけないと思っているから、中々気が休まらなくてな...学校内でそうしたものから少しでも解放される瞬間...というより息抜きができる場所が欲しくて、偶に生徒会室( ここ )を使わせてもらっているんだ」


そう言いながら自身の机にカバンを置くと、壁に設置した棚に置いてあるコーヒーメーカーのスイッチを入れてコーヒーを淹れ始めた。


「それで今日、予定がないのに生徒会室に...たしかに、生徒会室は専用のキーがないと入れないですし、防音性も他の部屋と比べても優れていますからから、ある意味そういったことに適切な場所ではありますね。ちなみに、生徒会の役員でこのことを知っているのは何名いらっしゃる...いるんですか?」


「このことを知っているのはもう一人の副会長だけだが、風紀委員長も薄々気づいているだろうから2人だな。風紀委員長( あいつ )についてはまあ、あいつが私と同じような目的でここを使っているところを何度か見かけたからなんだがな―――コーヒー淹れたんだが、飲むか?」


「あ、いただきます。たしかに、風紀委員長も校内の風紀の乱れや秩序を正す立場にいますから、そういった意味では会長と同じなのかもしれませんね」


「そういうことだ...それよりも石動、今日は特段仕事もないだろうに、どうしてここに来ているんだ?これの前に座っているということは、生徒会(ここ)じゃないと調べられないようなものを探そうとしていた、ということなんだろうが...ん?これは他校の生徒の情報だな、どうしてこんなものを」


順一郎が先ほどまで扱っていた端末の画面を横からのぞき込み、そこに映し出されていた情報を見て疑問を呈した。


「(...この反応だと演習の件( あの事 )については会長もまだ知らないようだけど、会長であれば話しても大丈夫かな)会長、烏岩先輩のことはご存じですか?」


「烏岩先輩か?もちろん覚えているさ。私がここに入った時の生徒会長だった人で、尊敬する先輩の1人でもあったからね。だがどうしてあの人の名前がここで出てくるんだ?」


「実は、今日のフィールド演習に烏岩先輩がアシスタントの1人として参加されていていたんですが、演習後に挨拶に来てくれた時にこういった話をされたんです」


そう言って順一郎は、烏岩先輩らから聞いた内容―――今年度は合同演習が対抗戦に変更されること―――について、帰りのバスの中で太一が予測した試合内容に関する部分は割愛しつつ会長へ説明した。


「...なるほど。だからお前は他校の生徒の情報について調べていたと、いうことか」


「はい、こういったことはわかった時点で調べておいた方が、今後の対策などを考える上でも良いと思ったので」


「たしかに、生徒の中でこういった情報にアクセスできる権限があるとしたら生徒会くらいだろうし、練習についてもただやみくもにするより、早いうちから相手の情報を知り、それを意識して行う方が効果はあるだろうからな」


順一郎の説明を聞き、会長は自分が知らいないところで起きている状況を理解しするとともに、他校の生徒の情報を調べていた順一郎の行動にも理解を示した。


「その結果がこれだったんですが、この情報、少し妙...というか違和感があるんです」


「...ほう。その違和感というのをどういったところに感じたのか、もう少し具体的に教えてもらえるだろうか」


「例えば生徒の成績に関してですが、このデータベースにはそうしたものが一切載っていません。全員の結果というのは難しいのかもしれませんが、定期試験で上位だった生徒の順位や点数は試験のたびに公表されているものなので、少なくともそうした生徒については情報が載っていてもおかしくないのに、です」


「ふむ、他に気になった点は何かあるか?」


「それから魔法についてもですね。得意とする魔法の属性は載っているのに、その魔法が近接型なのか支援型なのかといった種類は載っていなかったりしていて、なんだか意図的に特定の情報だけを隠しているように思えたんです」


会長からの指摘もあり、画面に映し出された情報を使い、その中で気になった点を指で示しながら順一郎は説明を続けた。


「...そこに気づくとは、流石だな」


「流石、ということはつまり...」


「ああ。石動、お前が先ほど指摘した情報はお前の予測通り『敢えて隠している』んだ」


「どうしてそんなことを」


「それを説明するにあたって、PCを少し貸してもらってもいいか?」


「あ、はい。どうぞ」


会長は手に持っていたコーヒーを画面の手前に置きながら順一郎が先ほどまで座っていた席に座ると、キーボードにとあるコードを打ち込むとともに生徒会のIDをカードリーダーにかざした。


すると数秒もしないうちに、先ほど画面に示されていた情報に『新たな情報』が書き加えられた。


「会長、これは...」


それらの情報は、順一郎が今回まさに求めていたものであり、順一郎は驚きを隠せないでいた。


「お前が気になったことに対する答えがこれだ」


「でも、どうしてこんなことを...学校内である意味、公然の秘密とも言える上位の生徒の成績まで隠す必要はないと思いますが」


「これは、対外の対策なんだ」


「外...ですか?」


会長の予想外の回答に順一郎は疑問を呈した。


「順一郎、定期試験の成績はお前の言う通り、上位の生徒に限って言えば公表されているものだが、それは『学内に限って』の話であって、外部に対して公表されているものではない」


「...まさか」


その言葉を聞き、それがどういう意味であるのかを順一郎は理解した。


「ああ、これは外部...言ってしまえばテロリストなどだな、そういったところから学校が攻撃があった際を想定してこうしているんだ。テロリストであれば間違いなく優秀な生徒が誰かは調べたがるだろうから、そうした際に真っ先に狙われるのは職員室だ。職員室が落とされればそこから生徒の情報が抜かれてしまう可能性もあるから、守られるべき(・・・・・・)生徒側から(・・・・・)そうした情報を取り出せるようにしてあるんだ」


「ちなみに、このことについて知っているのは...」


「歴代の校長だけだね。一応、風紀委員長にはそういった事態になったら私を優先して逃がすようにと言われているらしいけど、詳細は教えられていないとのことだ」


「そんな重要な情報を私に教えていいのですか?」


君は生徒会長に(・・・・・)なるんだろう(・・・・・・)?ならこれを知る時期が少し早まった、ただそれだけだ」


「たしかに、会長選に出ようと思ってはいますが...」


「次回の生徒会選挙にあたって、私が君を後任者として推薦しているということを示すと、選挙が出来レースになってしまう可能性があるから、そういったことを公にするつもりはないんだが、それでも私は君に期待しているんだよ」


「会長...」


「これはまあ、君が会長になってくれるであろうことに対する私からの先祝いとでも思ってくれればいい。その代わり、それだけ期待をしているんだから出るからには勝つんだぞ」


「...はい、ありがとうございます」


そう言って順一郎は会長が示してくれたデータの分析を再開するのであった。





ということで今回は順一郎の回になりました。


後進が遅くなった言い訳は、次回の閑話でお話させていただきます。

※つまり、次話も閑話になります。


恐らく次話は今回よりは早めの更新になると思いますが引き続き、よろしくお願いいたします。

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